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所信表明演説 目指す国家像が判然としない

読売新聞 / 2024年11月30日 5時0分

 石破首相が目指す国家像とは何なのか、判然としない演説だった。

 岸田前政権の経済政策を踏襲すると述べていることもあって、演説は政策の発信より、政治姿勢の説明に重きを置いたものとなった。

 首相は衆参両院の本会議での所信表明演説の冒頭、「率直に意見をかわす慣行を作り、相互に協力を惜しまず」と述べた。1957年の石橋湛山内閣の施政方針演説の一節を引用したものだ。

 そのうえで、「他党にも丁寧に意見を聞き、幅広い合意形成が図られるよう真摯しんしに謙虚に取り組んでいく」とも語った。

 首相は、湛山が論じた民主主義のありように言及したが、他党の意見に耳を傾けるのは当然だ。必要なのは、政府が目指す理念や基本政策を説明し、それについて協力するかしないか、議論を戦わせることではないか。

 首相は重要政策課題として、外交・安全保障、日本の活力回復、治安・防災の三つを掲げた。

 外交で、日韓首脳会談を頻繁に行う意向を示したのは良いとしても、国際社会は、尹錫悦大統領のような日本に好意的な姿勢の首脳ばかりではない。

 2国間の取引を重視する米国のトランプ次期大統領から、一層の防衛負担を求められたらどう対処するのか。中国の習近平国家主席には、日本の主権を侵害しないようクギを刺すと同時に、互恵関係の重要性を説く必要がある。

 政権基盤が脆弱ぜいじゃくで、延命に必死な首相が、硬軟織り交ぜた首脳外交をこなせるのだろうか。

 首相は、封印しているはずのアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想に関する検討会を自民党内に発足させた。アジアの実情を無視し、実現可能性も乏しい構想をなお推進するつもりなのかと、海外の疑念を招きかねない。

 与党は国民民主党との政策協議で、所得税がかかる年収の最低ライン「103万円の壁」を引き上げることで合意している。引き上げ幅や税収減に伴う財源の確保策は固まっていない。

 それでも首相が演説で「壁」の引き上げを打ち出したのは、今年度補正予算案への国民民主党の協力を確実にしたいためだろう。

 与野党伯仲の国会は、与党が「数の力」で押し切ることができないことから、建設的な議論につながると期待する声がある。

 だが、少数与党が政権維持のため、財源の裏付けのない無責任な野党の主張を丸みするだけとなれば、弊害の方が大きい。

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