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ネットでつながる現代にリアルで集まる意味…160超の国・地域が参加する万博

読売新聞 / 2024年12月12日 5時0分

建設が進む大阪・関西万博の会場(大阪市此花区で、読売ヘリから)=原田拓未撮影

万博考 祭典の意義<1>

 あと122日で、160超の国・地域が参加する大阪・関西万博が開幕する。インターネットで世界中とつながる現代に、リアルで集まる意味は何か。万博は私たちにどんなものをもたらすのか。170年以上の歴史がある祭典の意義を考えたい。

多くの出会い、視野拡大

 鹿児島港からフェリーで4時間。人口約120人の薩摩硫黄島に、アフリカの伝統楽器・ジャンベの音が響いた。小中学校「三島硫黄島学園」の子どもたちが、ギニア人のセク・ケイタさん(43)から身ぶり手ぶりを交えて演奏法を学ぶ。

 同島のある鹿児島県三島村とギニアは、万博の参加国・地域と自治体を結ぶ政府の「万博国際交流プログラム」に選ばれ、同島の児童や生徒約20人が来年6月、万博会場の人工島・夢洲ゆめしま(大阪市此花区)で演奏を披露することになった。

 中村真人校長(56)は「島で育つと『知らない人』と話す機会がない。多くの人と出会う万博は、子どもたちが視野を広げる機会になる」と目を細める。

 プログラムに参加したのは75の国・地域と89自治体に上る。来年4月の開幕前から、日本と海外との親交が育まれている。

渋沢栄一「各国に敬愛の念」

 世界各国の文化や最先端技術が披露される万博は江戸時代後期の1851年、25か国が参加して英ロンドンで始まった。欧米列強による植民地獲得競争が激しかった時代。幕府の視察団の一員として67年のパリ万博を訪れた渋沢栄一は共著で、万博の効果をこう書き残している。「各国のあいだの憎悪心を消し、敬愛するの念を生じさせた」(「航西日記」)

 参加国・地域は時代とともに拡大し、国内では1970年大阪万博が77、2005年愛知万博が121で、大阪・関西万博は160を超える。大阪での開催は18年の博覧会国際事務局(BIE)総会で、ロシアとの決選投票の末に決まった。

個人交流、対立超えて

 戦闘が続くパレスチナとイスラエルや、ウクライナも参加する予定だ。

 パレスチナ自治政府のワリード・シアム駐日常駐総代表部大使(69)は「国際紛争に中立的な立場を取り、人道支援を続けてきた日本は、和平を促進できる立場にある」と語り、日本での開催を歓迎する。万博の意義を「People to People」と表現し、「個人と個人が実際に出会い、交流することが重要だ」と語る。

 その思いは、政治的・宗教的な対立を超えて共有されている。

 イスラエルは、アラブ首長国連邦(UAE)で開かれた前回のドバイ万博(21~22年)で、自国の街並みや人々の様子を360度の映像で展示した。

 エラザール・コーヘン政府代表(66)には忘れがたい出来事がある。普段は敵対しているアラブ諸国の政府関係者らがパビリオンを見て「素晴らしい展示だった」と言ってくれた。隣国レバノンから子ども連れで訪れた母親は「イスラエル人は『戦車に乗った軍人』のイメージしかなかった。ともに平和に暮らしていければいいのに」と話したという。

 23年10月のイスラム主義組織ハマスによるイスラエル南部への奇襲を機に中東情勢は緊迫しているが、コーヘン氏は「個人と個人はわかり合えるのではないかと希望を感じた」と話した。

 万博の会期は半年間に及ぶ。参加国は開幕前から運営の課題などを話し合い、解決に向けて連携する。ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は「万博は、協力して共に生きる方が争うよりもずっと良いことを改めて示す装置になる」と強調する。

世界を一つに、願いの輪

 万博がなければ出会うはずがなかった個人同士のつながりは、人々の将来を切り開く可能性を秘める。

 開発途上国の中央アフリカは、会期中に企業向けイベントを開き、少しでも投資を呼び込もうと必死だ。担当者は「大統領も大阪に呼び、国を挙げてアピールしたい」と願う。

 大阪・関西万博の会場中央に建設中の大屋根(リング)は、1周2キロの輪の中に全ての国や地域のパビリオンが配置されるようデザインされた。分断が進む世界を一つにしたいという願いが込められている。そこでどんな出会いや「偶然のつながり」が生まれるだろう。(社会部 深沢亮爾)

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