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働くうえで男性と女性どっちが得か?損か? 若い男性は損、若い女性は得と感じる人が多いなぜ/ニッセイ基礎研究所・村松容子さん

J-CASTニュース / 2024年12月13日 17時17分

働くうえで男性と女性どっちが得か?損か? 若い男性は損、若い女性は得と感じる人が多いなぜ/ニッセイ基礎研究所・村松容子さん

職場の若い男女、働くうえでどっちが得?損?(写真はイメージ)

働くうえで男性と女性はどっちが得か、損か?

男性は若い人ほど「男だから損だ」と感じる人が多い一方、女性は若い人ほど「女だから得よ」と感じる人が多いというユニークな研究をニッセイ基礎研究所の村松容子さんがまとめた。

イマドキの若い男女の仕事観はどうなっているのか。村松容子さんに聞いた。

得か損かで「得だけ」と答えたのは若い女性がトップ

この研究報告は、ニッセイ基礎研究所研究員の村松容子(むらまつ・ようこ)さんが発表した「性別を理由とする不利益~男性は低年齢ほど不利益を感じている」(2023年6月26日)と、「働くうえで性別による不利益や得を経験したことがあるか~男性は若年ほど『不利益』を経験。中高年以上の女性は『不利益』は解消されないままか」(2024年12月3日)の2つだ。

研究は、同研究所が毎年行っている「被用者(公務員や会社員)の「働き方と健康」調査のデータをもとにしている。

まず、第1のリポートでは、「働くうえで、性別を理由として不利益をこうむったと感じることがあるか」を聞いた。その回答結果が【図表1】だ。

男女それぞれ年齢別にみると、不利益をこうむったと感じる割合が、女性は55歳以上では約24%なのに34歳以下では約17%と、若い人ほど低くなる。

一方、男性は55歳以上では約6%なのに、34歳以下では約15%と、逆に若い人ほど高くなるのだ。

第2のリポートでは「性別による損と得」の問題をさらに深掘りした。

リポート1の質問に加え、「働くうえで、性別を理由として得をしたと感じることがある」という質問を加えた。回答を組み合わせた結果、「いずれもなし」「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」という4種類の答えが表れた。

男女年齢別に「不利益・得」の割合を比較したのが【図表2】だ。

男女とも年齢が高くなるほど「いずれもなし」の割合が高く、若年ほど「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」の割合が高くなる。つまり、若い人ほど損得意識が強くなるわけだ。

中でも特徴的だったのは、34歳以下の女性で「得だけ」が10.0%に達したこと。全年齢群・性別で最も高かった。

「見えない」存在だった女性が、「同じ土俵」で仕事する時代に

J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた村松容子さんに話を聞いた。

――若い男性ほど職場で「男はつらいよ」と感じている人が多いという調査結果ですが、ズバリ、その理由は何ですか。

村松容子さん 正直、私も驚いています。予想外です。仕事と家庭の両立支援が職場で広がっているので、若い女性ほど「得」を感じる割合が高くなることは予想していましたが、若い男性がこれほど「不利益」を被っていると感じているとは、考えていませんでした。

――たとえば、大学入試の理系学部で「女子枠」を作る動きがありますが、それに対して、男子受験生の間で「逆差別」だという意見が出ています。それと同様に「女性優遇」「男性差別」だという反発があるのでしょうか。

村松容子さん それもあるかもしれませんが、もっと重要なことは、昔と違って男性が女性を意識して仕事するようになったためと考えています。

年配の男性の時代は、中高年まで会社で働く女性が少なく、ましてや管理職にまで昇進する女性は今よりかなり少なかったと考えられます。たとえば昇進への闘いでは、男性は、同僚の男性だけを意識して仕事をしていればよく、社内の女性はいわば「見えない存在」でした。

ところが、今の若い男性にとって若い女性は、大学時代そのままに同じ入社試験を受け、同じ給料をもらい、同じ職種で働きます。つまり、同じ土俵に乗って働き、競い合う中に女性もいるようになりました。仕事面では競い合えても、性別は、お互いに超えられない、それぞれの特徴となります。

これは、上の世代の男性には少なかったことです。今の女性登用に向けた議論の中で、戸惑いがあるのかもしれません。

若い男性は、仕事と家庭の両立のバランスに真面目に悩んでいる

――しかし、それは若い女性でも同様ではないですか。

村松容子さん 少し、違うと思います。女性は昔も今も、職場には必ず男性上司がいて、男性社会の中で仕事をしているという意識があります。また、その悩みは世代を超えた共通の悩みです。女性はどういう人生の道を選んでも生じる悩みを多くの世代で共有できます。

たとえば、独身でいると「結婚しないの」と聞かれ、場合によっては職場にいづらくなる。結婚しても子どもがいないと「子どもは?」と聞かれる。仕事を持って子どもを保育所に預けると「子どもが可哀想」といわれる。かといって、専業主婦だと、「いいわね、楽(らく)をして」といわれる。

そうした悩みは女性一般に共通したもので、世代が違っても「あ、あれね」とお互いに想像がつきやすいと思います。

しかし、今回の結果から、世代の差は女性より男性が大きい可能性があります。今の若い男性が抱えている仕事と家庭の両立に関する悩みは、上の世代の男性に相談しても理解されにくいのではないでしょうか。

――その若い男性の「悩み」ですが、女性が同じ土俵に乗ることの、どこが「不利益」になるのでしょうか。先ほどの仕事と家庭の両立支援が広がっていることが「女性優遇・逆差別」になり、不満だというということですか。

村松容子さん 仕事と家庭の両立支援が進められるようになってきたからこその職場や家庭からの期待が、若い男性のプレッシャーになっている可能性があります。

「不利益」を感じている若い男性の特性を詳しく調べると、上の世代の男性と比べて、「仕事で成功したい気持ちがあると同時に家庭との両立に対しても積極的であり、仕事も家庭も大切にしたい」という意向が強いことがわかりました。

仕事と家庭の両立のバランスに、真面目に悩んでいるのです。上の世代の男性は仕事オンリー、家庭を顧みなくても仕事で成果をあげれば、高い評価が得られました。

しかし、現在は「家庭を大事にしろよ」「しっかり育休も取れよ」と言われます。その半面、家庭を優先したくても、「仕事を放りだすつもりか!」と批判される場合もあります。しっかり稼いでほしいという家族の期待は女性よりも感じているかもしれません。

結婚している若い女性は「会社から守られている感」が高い

――う~ん。上司、先輩に相談できないのは、たしかにつらいです。

村松容子さん これだけは絶対に言えるのは、現在、過渡期にあるということです。仕事と家庭の両立支援が広がる一方、昔ながらの男社会の価値観も強く残っています。そのはざまでの葛藤を、上の世代より多くの若い男性が抱えていると考えられます。

――なるほど。ずっと続いてきた企業の男性社会にあって、若い男性が抱える悩みは初めて経験する「大問題」なわけですね。ところで「得だけ」と感じる割合が、若い女性にもっとも多い理由は何でしょうか。

村松容子さん 仕事と家庭の両立支援が広がり、産休育休支援が充実しました。給料が180日までは従来の67%、それ以降は50%支給されるようになりました。休業も3年間取れます。まだまだ不十分ですが、出産しても十分キャリアを続けやすい時代になりました。そして、仕事を続ける先輩女性も増えています。自分たちの人生設計においては追い風に感じられると思います。

34歳までの男女を比較すると、女性のほうが結婚している割合が高いので、両立支援制度のメリットを受けられる人も女性のほうが多い。「会社から守られている感」が高いでしょう。

こうした点も独身男性からみれば、「女性は得だ。こっちは損をしている」と考えている可能性があります。また、現在、管理職は男性の方が多い。若い女性社員に丁寧に接しようとした結果、同年代の男性への対応と差が出てしまうこともあるかもしれません。

「若い女性が働きやすい=若い男性が働きやすい」とは限らない

――今回のリポートで特に強調しておきたいことがあります。

村松容子さん 女性が出産を経ても働き続けられる職場を目指して環境整備を行ってきましたが、調査によって若い女性が働きやすい職場が、必ずしも若い男性にとって働きやすい職場であるとは限らないことが浮き彫りになりました。

また、職場の多様性、ダイバシティー経営も叫ばれています。日本の場合、まだ新卒採用が多く、外国人労働者が少ない会社が多いこともあり、多様性や多様な背景をもつ従業員の焦点が女性、中でも若い女性に当てられています。テレビなどでも、若い女性社員が企画考案した新商品のニュースが流れるなど、若い女性社員の活躍がシンボリックに取り上げられています。

しかし、そうした環境変化の中で、不利益を感じる若い男性が生まれています。会社や上司は、制度面での環境整備だけでなく、従業員ひとり一人の葛藤や悩みをしっかりくみとることが大切です。今後、性別だけでなく、キャリアや出身等の面で異なる背景をもつ同僚が増えていくと考えられる中で、それぞれがスキルを磨いてキャリアを積むことがますます重要になると思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
村松 容子(むらまつ・ようこ)
ニッセイ基礎研究所主任研究員

2003年ニッセイ基礎研究所入社。
健康・医療分野における人々の不安・対処動向を研究。人生100年時代を見据え、健康長寿を願うなか、人々がどういった不安を抱えているのか、どういった対策をしているか調査・分析。
また、人々の健康課題の解決に向けて、国の健康・医療に関する政策を、生活者の視点から解釈し、伝えている。

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