アングル:史上初の世界同時「量的引き締め」、市場に新たなリスク
ロイター / 2022年4月22日 16時36分
[19日 ロイター] - 世界の主要中央銀行がインフレ退治のため、利上げと併せて量的緩和の巻き戻しを準備している。史上初の世界同時「量的引き締め」局面に入れば、与信は絞られ、既に減速し始めている世界経済に重圧がかかるリスクもある。
ここ数年、新型コロナウイルス禍による景気の冷え込みと闘うため、米連邦準備理事会(FRB)、日銀、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE、英中銀)その他の中銀は、合計約12兆ドルの資金を金融システムに供給する量的緩和を行った。具体的な手法は、幅広い資産の買い入れや、銀行に対する長期融資の実施だ。
しかし、インフレ率の急上昇が共通の心配事となった今、各中銀は方向転換を図っている。モルガン・スタンレーのアナリストチームは最近、FRB、BOE、ECB、日銀のバランスシートが5月からの1年間で合計2兆2000億ドル縮小するとの推計を示した。
国際通貨基金(IMF)は19日、今年の世界経済の成長率見通しを4.4%から3.6%に下方修正するとともに、中銀のバランスシートの変化が「追加的な試練をもたらすかもしれない」とした。
IMFは「不要な市場の変動を避けるため、未曽有の中銀バランスシートの拡大を巻き戻す計画については、市場と明確な対話を行うことが極めて重要になる」と指摘。「世界の金融環境が無秩序に引き締められれば、とりわけ金融に大きな弱点を抱えた国々に試練をもたらす」とくぎを刺した。
世界的な量的引き締めによる影響の大きさは、まだ推計の域を出ないが、最も積極的に引き締めを進めるのはFRBかもしれない。多くのアナリストの予想では、FRBは年内に、満期を迎えた債券の償還金の再投資を止めるだけでなく、引き締めを加速させるために一部資産については売却に踏み込む可能性があるからだ。
世界の金利を左右する米国債のような市場で、強力な買い手だった中銀が手を引くことになれば、その波及効果は大きいだろう。
ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、カレン・ダイナン氏は「金融環境を引き締める必要がある。しかし金利やバランスシートの変化が金融環境に想定外の影響を引き起こす恐れもある」と述べた。
リスクの1つは、多額の債務を抱えた経済的に弱い国々が影響を受ける可能性だ。ダイナン氏は「世界中にソブリン債危機が波及し、市場を混乱させて」発展途上国の金融環境がさらに引き締まる恐れを指摘した。
<未知の領域>
世界の中銀は現在、インフレ退治で足並みをそろえようとしている。
米セントルイス地区連銀のブラード総裁は今月、「われわれはインフレの進行に加担したくない。自然な流れとして、多くの中銀が同時に金融引き締めに転じている。これは適切だ」と述べた。
しかし、利上げと量的引き締めを併用するのは未踏の領域だ。中銀幹部やエコノミストは、利上げ単独よりも引き締めを加えた方が、市場金利は高くなるという一般的な影響については承知しているものの、具体的に何が起こるかは定かでない。
BOEのベイリー総裁は3月、「量的引き締めの経験はほとんどない。わが国では皆無であり、世界的にも乏しい」と述べた。
BOEは既に、保有債券の償還金を再投資しないという受動的な方法でバランスシートの縮小を進めている。これにより、中銀にある市中銀行の預金、ひいては経済全体に供給される資金が減り、量的緩和によって創造されたマネーが引き揚げられることになる。
BOEは、政策金利を1.0%まで引き上げた段階で資産売却についても検討を始めると表明した。投資家は、BOEが5月5日に政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げて1.0%にすると予想している。
ECBは今のところ、年内に資産買い入れを中止することしか約束していない。それでも、多くのアナリストの予想通り銀行が長期融資を返済すれば、数カ月中にバランスシートは縮小する可能性がある。カナダ銀行などより小規模な中銀の中にも、債券償還金の再投資を中止したところがある。
日銀は金融引き締めの段階には達していないが、資産買い入れペースは減速している。
<失敗のリスク>
FRBは5月初めの連邦公開市場委員会(FOMC)で量的引き締め計画の詳細を詰めると予想されている。3月会合の議事要旨では、保有資産を月額最大950億ドル、年間約1兆1000億ドル縮小することで大筋合意したことが分かっている。
引き締めによる経済への影響は、市場の反応に左右される部分がある。FRBは2017年から19年にかけてバランスシートを約6500億ドル縮小した。しかしこれは、銀行システムの準備預金ひっ迫を引き起こし、短期金利が跳ね上がってFRBはにわかに流動性を再供給するという方向転換を余儀なくされた。
FRB幹部らはこれを教訓とし、今度はスムーズに事を進められるとの見通しを示している。しかし、この一件はミスが起こり得ることを知らしめた。
債券買い入れの狙いは、政策金利がゼロまで下がっても追加的な景気刺激策を実施できるようにすることだ。同じ理屈で、量的引き締めの併用は利上げを単独で行うよりも迅速に緩和を巻き戻すことを可能にする。
オックスフォード・エコノミクスのアダム・スレーター氏の推計では、主要国中銀による今回の利上げサイクルでは、バランスシートの縮小が最大1.3ポイント分の追加の利上げ効果をもたらす見通しだ。
「中銀が巨額のバランスシートを使って政策を展開するという新たな環境においては、単に政策金利の観点から引き締めサイクルを考えても実に不完全な構図しか見えてこない」とスレーター氏は指摘。「当社の見方では、今後1、2年間にミスが起こるリスクは1980年代以来で最も高いかもしれない」と警鐘を鳴らした。
1980年代には、中銀による積極的なインフレ退治がリセッション(景気後退)を引き起こしている。
(Howard Schneider記者、William Schomberg記者)
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