アングル:解雇規制見直し、自民総裁選で争点化 期待と反発
ロイター / 2024年9月24日 18時6分
9月24日、自民党総裁選で小泉進次郎氏と河野太郎氏が解雇規制の見直しや緩和を主張、労働市場改革の「本丸」と言われる領域に踏み込む姿勢を示し、経済界の一部から評価する声が出ている。写真は東京都内で14日、代表撮影(2024年 ロイター)
Kentaro Sugiyama Makiko Yamazaki
[東京 24日 ロイター] - 自民党総裁選で小泉進次郎氏と河野太郎氏が解雇規制の見直しや緩和を主張、労働市場改革の「本丸」と言われる領域に踏み込む姿勢を示し、経済界の一部から評価する声が出ている。労働界からの反発も根強い解雇規制見直しについては、これまで何度も押し返された経緯があり、他の総裁選候補者からも慎重論が上がる。雇用の柔軟性を確保し、格差是正や生産性の向上に向けた改革が進展するかはなお不透明だ。
<「本丸」>
自民党総裁選への出馬会見で小泉氏は「日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働市場改革の『本丸』である解雇規制の見直しに挑みたい」と宣言、その是非が総裁選の争点の一つに浮上した。
経営不振や事業縮小など企業側の都合で整理解雇を行う際、過去の判例に基づき、人員を削減する客観的な必要性があるか、労働者の解雇を回避する努力を十分尽くしたかなど4つの要件を満たす必要がある。小泉氏は、大企業について解雇回避努力の義務を果たすのか、リスキリング(学び直し)とその間の生活支援、再就職支援の義務を果たすのか選択できるようにする考え。
小泉氏の主張は、終身雇用や年功序列を前提とした昭和の雇用慣行を今の時代に合わせて見直す必要があるとの問題意識からだが、解雇規制の緩和と受け取られ、その後の討論会やメディア出演の場では、小泉氏に対する質問や異論が相次いだ。
一方、河野氏は「中小企業などで不当に解雇されても何の補償も受けられないという現実がある」と指摘。不当解雇に対して金銭で補償を受けられるというルールを明確化することが必要として、解雇の金銭解決制度の導入を提唱した。
<求められる新陳代謝>
年功序列や終身雇用という日本型の雇用は戦後の高度経済成長にフィットし、世界的にも称賛された仕組みであったが、低成長期となっても、その成功パターンから抜け出せずに労働市場が硬直化したとの指摘がある。
労働政策研究・研修機構の最新のデータ集によると、労働者の平均勤続年数は米国が4.1年、ドイツが9.7年に対して日本は12.3年と長い。一方、米ギャラップによる24年の従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合は6%にとどまり、調査対象国の中でも最下位クラスとなっている。
経済協力開発機構(OECD)などの国際機関は、日本の労働生産性の低さ、新規事業参入率の低さ、正規職員と非正規職員の所得格差の原因として、雇用の柔軟性の欠如を指摘してきた。
改革派によると、労働市場の流動性が高まれば、企業に新陳代謝が生まれ、組織の多様性が進むことによって競争力が向上が期待する。経済環境が変化し、企業内で人材に求めるスキルや能力が変わった時、雇用のミスマッチを解消し、生産性を高める効果も期待できるという。
経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス 社長)は17日の会見で、競争力確保のため企業が優秀な人材を求める中、人材が動きはじめ、賃金が上昇しつつある今のタイミングは議論をしやすいと指摘。自民党の総裁候補者に「タブーなく議論をしていただきたい。金銭解雇を前提にどのようなルールにしていくのか。整理解雇の4要件すべて必要なのか、3つで良いのか、このような議論をすべきだ」と注文をつけた。
<労働界は反発>
一方、総裁選で解雇規制が争点化したことへの労働界の反応は早かった。
労働組合の全国組織である連合(日本労働組合総連合会)は学習会を20日に緊急開催。芳野友子会長は冒頭、解雇の金銭解決制度について「導入されればリストラや退職勧奨の手段として悪用される懸念が非常に大きいもので到底容認はできない」と強調。「あたかも緩和すべき解雇規制があるかのような言説に惑わされることなく、解雇に関するルールについて改めて認識を深めてもらいたい」とあいさつした。続いて弁護士が講演で長年議論を繰り返しても実現してこなかった経緯や、現在の解雇ルールの評価などを説明した。
小泉氏は、自身が総裁・首相になった場合はできるだけ早期に衆議院を解散すると表明し、労働市場改革プランについても「来年国会に法案を提出していきたい」と強調している。
企業の人事・労務に詳しい倉重公太朗弁護士は「労働問題は感情論になりやすく、『クビ切り法案』としてクローズアップされると、多くの人を敵に回しかねないため政治もこれまで手を付けきれなかった」と指摘。小泉氏には解雇時のリスキリングや学びなおしの制度化にとどまらず、解雇の金銭解決制度や採用マッチングの活性化を含めた労働市場改革について国民的な議論を主導してほしいと期待する。
これまで国内メディアの世論調査では、次期首相にふさわしい人物として小泉氏の名前が上位に入ってくることが多かったが、ここに来て小泉氏がやや失速、一方で高市早苗氏への支持が拡大し、石破茂氏を交えた三つどもえの戦いになっているとの情勢分析が多い。
整理解雇について高市氏は、判例が積み上がってきている中で4要件が確立されているため「非常に短い期間の議論によって立法して、その判例を覆すというのは容易なことではない」と否定的な見解。石破氏は「本当に労働者の権利が守られるのかきちんと確認をしていかなければならない」と慎重なスタンスだ。
SMBC日興証券の日本担当シニアエコノミスト、宮前耕也氏は、小泉氏以外の候補が総裁になれば、政治主導での議論は進みづらくなるとみる。一方、小泉政権となって早期に衆院解散・総選挙に踏み切れば「野党は解雇規制見直しを重要な争点として位置付ける」と指摘。その結果が政権の政策推進力に影響しそうだとの見方を示す。
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