先回りできなくなった市場、未知のウイルスは最も苦手な不確実性
ロイター / 2020年2月25日 17時26分
伊賀大記
[東京 25日 ロイター] - 実態に先行して動くはずの金融市場が出遅れている。新型肺炎に関する状況が明らかになっても、悪材料出尽くしとはならず、新たなリスクオフ材料を織り込む形で株安が進む展開だ。未知のウイルスは過去の経験や知識が通用しないマーケットが最も苦手とする分野。ボラティリティーが高止まりすれば「ゴルディロックス相場」が揺らぐ可能性がある。
<長さと深さが読めない経済への影響>
24日以降の世界同時株安のきっかけとなったのは、イタリアや韓国、イランなど複数の国で新型コロナウイルスの感染者が急増したことだ。地域的な感染拡大はまったくの想定外というわけではなかったが、米ダウ<.DJI>が史上3回目となる1000ドルを超える下げをみせるなど、記録的な株安となっている。
これまでの株式市場であれば、ほとんどケースで、悪材料が出ても織り込み済みとされ、「うわさで売って事実で買う」という動きになっていた。しかし、今回の新型コロナウイルスに関しては、マーケットが得意とする「先回り」ができなくなっている。
その理由の1つは未知の材料ということだ。マーケットは当初、2002─03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のケースを前提に動いていた。しかし、感染者数・死亡者数ともに突破。感染者数はSARSの8096人に対し、7万7658人(24日時点)と10倍に迫る勢いだ。
中国のGDPは当時と比べ約4倍に拡大。世界中のサプライチェーンや観光業に大きな影響が出ており、「いずれ必ず終息するとはみていても、経済にもたらす影響の長さと深さが読めない」(ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏)ことが市場の不安につながっている。
経済や金融に関する悪材料であれば、たとえ未知の危機であっても、マーケットは先行きを推測しやすい。たとえ、間違ったとしても、シナリオを描き先に織り込むことができる。しかし、未知のウイルスに関しては、そうした経験や知見がほとんどない。
<高まらない政策期待>
財政・金融政策も未知のウイルスに対しては効果が乏しい、とみられていることも、マーケットがおびえている理由の1つだ。
ヒトやモノの流れが阻害されている中では、いくら財政出動して予算を付けても効果を発揮できない。金融緩和も、金利低下を通じた企業の利払い緩和などにはつながるが、この状況では、サプライチェーンや観光業を回復させることは困難だ。
「ウイルス防止に経済政策は直接効かない。10年後、20年後の経済が成長しているとしても、半年先、1年先の経済を市場はいま心配している」と三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は指摘する。
経済には効かなくても、マーケットには効くかもしれない。金融緩和で金利が低下することは、株価にはプラスだ。「金融緩和期待が高まれば株価が急反発することが見込まれる」(外資系投信)との声もある。
しかし、「ゴルディロックス相場」や「金融相場」の前提は低いボラティリティー。VIX指数<.VIX>はまだ25台だが、このまま高止まりを続ければ、波乱があってもすぐに株高基調に戻る強い相場が揺らぐ可能性がある。
<最悪ケースは金融問題への発展>
市場が警戒する最悪のケースは、経済への影響を超えて、金融問題に発展することだ。企業や金融機関の資金繰り問題が発生し、信用(クレジット)不安が広がれば、影響は計り知れなくなる。
中国は金融や財政に余裕があり、他国に比べ政策余地が大きい。しかし、昨年実施されたストレステスト(年次金融安定報告)では、中国の金融機関4379社のうちの13.5%、約590社が「高リスク」と判断された。
中国の銀行・保険規制当局者は24日、新型ウイルスに対応するため、金融機関の支店が抱える不良債権を容認する基準を緩和するとしたが、「短期的に問題を覆い隠しても、水面下で不良債権が金融システムをむしばめば、後からマーケットに影響してくる可能性がある」と、マネックス証券のチーフ・アナリスト、大槻奈那氏は警戒する。
S&Pグローバル・レーティングは20日、新型コロナウイルスの感染拡大が4月までにピークを迎えなえれば、中国の銀行セクターは今年、最大7兆7000億元(約121兆円)の不良債権に直面する可能性があるとの見通しを示した。
中国政府は新型ウイルス対策の一環で、起債の審査期間を通常の数週間から数日に短縮した「新型ウイルス債」を導入した。国有銀行に同債の購入を奨励しているため、企業は通常の社債を大幅に下回る金利で資金を調達できる。
だが、市場では「利回りは2%程度のようだ。人民銀は17日に1年物中期貸出制度(MLF)を通じて金融機関に2000億元を供給したが、金利は3.15%であり、逆ザヤ状態になっている可能性がある」(国内銀行)とささやかれている。
楽観論が強かった金融市場に、相場に織り込めない「見えないもの」に対する恐怖が広がりつつある。
(編集:青山敦子)
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