アングル:コロナが変える都市の未来、食糧安保や監視強化も
ロイター / 2020年4月29日 7時2分
4月21日、ボゴタからフィラデルフィアに至るまで、各都市の当局は「交通」に注目しており、ロックダウン中でも人々が安心して道を歩けるよう、自転車レーンを追加し、一部の街路への自動車の乗り入れを禁止している。写真は4月19日、ロンドンのケンジントン公園で撮影(2020年 ロイター/Simon Dawson)
[バンコク 21日 トムソン・ロイター財団] - 新型コロナウィルスのパンデミックにより、世界の多くの地域がロックダウン(都市封鎖)に追い込まれているが、アムステルダムからシンガポールに至るまで、各地の都市が持続可能性、食糧安全保障、生活水準の改善を目指す措置を明らかにしている。都市専門家によれば、いずれはこれが当たり前の都市機能になっていくだろうという。
ロイターの集計によれば、新型コロナウィルスの感染者数は世界全体で240万人を超え、死者は約17万人に達している。
国際通貨基金(IMF)は、1930年代の世界大恐慌以来の最も急激な経済の落ち込みを警告しており、国際労働機構も、全世界の労働者の5分の4が、事業の全面あるいは部分停止による影響を被っているとしている。豪グリフィス大学のトニー・マシューズ上級講師(都市・環境計画論)は、「尋常ならざる時期には尋常ならざる対応が必要だ」と語る。
<都市計画の議論が新たな段階に>
マシューズ氏は「歴史的に、都市計画・デザインにおける主要な革新の多くは、公衆衛生の改善に立脚したものだった」としたうえで、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によって「都市の形態や機能をどうすれば改善できるかという議論を新たな段階へと進むだろう」と予想する。
具体的には、各都市は交通、エネルギー、食糧安全保障に注力することにより、自立性の向上とレジリエンス(回復力)の強化を目指すのではないか、というのが同氏の見方だ。
国際連合によれば、2050年までに世界人口の3分の2以上は都市地域で生活することになると予想されている。現在の比率である56%から大きく増加する。
研究によれば、疫病が都市計画の変化につながった例は、今回の新型コロナウィルスが初めてではない。
1830年代のコレラのまん延はロンドンなどの都市における衛生状態の改善をもたらし、20世紀初頭のニューヨークにおける結核の流行は、公共交通システムと住宅規制の改善に道を開いた。
<注目は「交通」「食糧」>
そして今日、ボゴタからフィラデルフィアに至るまで、各都市の当局は「交通」に注目しており、ロックダウン中でも人々が安心して道を歩けるよう、自転車レーンを追加し、一部の街路への自動車の乗り入れを禁止している。都市計画専門家によれば、こうした措置は今後も長く継続されそうだ。
パリでは、アンヌ・イダルゴ市長が「15分都市」という目標を掲げている。交通渋滞や環境汚染を抑制し、生活の質を改善するために、日常の用事の大半が15分間の徒歩、自転車、あるいは公共交通機関の利用で事足りる街にしようという構想だ。
プライバシー専門家によれば、中国からチェコ共和国に至るまで、感染拡大の防止や隔離強制のために導入された顔認識ソフトウエアなどのテクノロジーが今後も使い続けられ、当局による監視というリスクが増大しているという。
シンガポールでは、COVID-19危機によって、食糧安全保障の問題が前面に出てきた。都市国家であるシンガポールは食糧の90%を輸入しているが、2030年までに必要とする栄養価の30%を国内で生産することを目標として、都市農業を推進している。
シンガポールでは今月初め、このところの感染増加に歯止めをかけるために部分的なロックダウンが実施されたが、各当局は、卵、葉物野菜、魚介類の国内生産を拡大するため、今後6─24カ月間にわたり3000万シンガポールドル(約22億6400万円)の補助金を提供すると発表した。
シンガポール食糧庁は声明のなかで、「今般のCOVID-19を巡る状況は、国内での食糧生産の大切さを裏付けている。国内生産によって輸入への依存が緩和され、食糧供給が途絶したときの緩衝装置になる」と述べている。
シンガポール国立教育研究所のポール・テン所長によれば、都市農業は、都市貧困世帯にとっての生計手段拡大や栄養状態改善を含め、潜在的なメリットは多いものの、未開拓の「手近な果実」だという。
「COVID-19危機に伴い、多くの国の政府は、食糧安全保障を国家安全保障のテーマとしてもっと真剣に扱うことに関心を深めている」
<都市が繁栄していくためには>
前出のマシューズ氏は、新型コロナウィルスにより旅行・観光産業が大きな痛手を被るなかで、観光収入に依存していた都市は経済モデルの全面的な見直しを迫られている、と語る。
欧州最大の観光地の1つであるアムステルダムでは、市当局が今月初め、いわゆる「ドーナツ」モデルを基準に公共政策を決定していくことを目指すことになろう、と述べた。社会システムの構造を「ドーナツ」に見立ててたこのモデルは、より良い生活のために社会的・エコロジー的な目標を重視する考え方だ。
英国のエコノミスト、ケイト・ラワース氏がまとめた概念図によれば、ドーナツの穴にあたる内側の輪が囲む中心部分は、誰もが生存のために欠かせない必要最小限の要素、つまり食糧や水、適切な住居、公衆衛生、教育、医療を表している。一方、ドーナツの外縁の輪が象徴するのは気候変動対策や海洋の健全性、生物多様性といったエコロジー的な目標だ。
この2つの輪の間にあるドーナツの本体部分に、人間のニーズと地球のニーズの双方を満たしつつ、都市が繁栄できる空間があるとラワース氏は言う。
視線を転じれば、人々が職を失いつつあるなかで、普遍的なベーシックインカム(最低限所得保障)を導入しつつある政府がある。
スペイン当局は、市民に毎月現金支給を行う制度を導入する計画を進めていると述べており、ブラジルでは貧困層を対象とした緊急ベーシックインカム制度が可決された。
「ベーシックインカム・アース・ネットワーク」の啓発担当者ルイーズ・ハーグ氏によれば、2007─08年のグローバルな金融危機に際して各国が講じた財政緊縮措置により、社会のセーフティネットが失われるとともに雇用が不安定化した。その結果、ベーシックインカムへの関心が高まっているという。
<「危機はあらゆる秩序をひっくり返した」>
ハーグ氏は、「今回の危機から学ぶべき最も重要な教訓は、恐らく、医療システムがいかにして私たちの社会や経済を持続させているか、という点だろう。経済の安定はこうした大きな社会の構図の一部分であり、ベーシックインカムは社会を維持するための1つの方策だ」と語る。
「危機が去った後、たとえ大きな政策変更が見られないとしても、現在のシステムが何らかの形で再考されるという希望はある」と彼女は言う。
マシューズ氏は、少なくとも経済という点において、多くの都市はかつてのような形には戻れないだろう、と言う。
「今回の危機は、私たちのシステムの根本的な弱さを完全に暴露し、あらゆる種類の秩序をひっくり返した」と同氏は言う。
「徹底的な再調整が行われることになるだろう」
(翻訳:エァクレーレン)
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