アングル:巨額発行に揺るがぬ国債市場、日銀新型オペ巡る需要サイクル
ロイター / 2020年5月29日 9時21分
第2次補正予算編成に伴い国債発行は過去最大規模に膨らむが、円債市場に動揺はみられない。日銀による購入増期待だけでなく、新型オペを巡る国債の新たな需要サイクルが出現しているためだ。写真は2019年8月、東京で撮影(2020年 ロイター/Yuriko Nakao)
伊賀大記
[東京 29日 ロイター] - 第2次補正予算編成に伴い国債発行は過去最大規模に膨らむが、円債市場に動揺はみられない。日銀による購入増期待だけでなく、新型オペを巡る国債の新たな需要サイクルが出現しているためだ。政府と中央銀行が一体化した政策運営は、危機対応の「グローバルスタンダード」になりつつある。しかし、異次元レベルでの持続的な運営は可能なのか、当の市場参加者も不安げにみつめている。
<モラルハザード的な安心感>
市場関係者が国債発行計画で最も注目するのは、カレンダーベースの市中発行額だ。補正予算の事業規模や財政支出(真水)だけでは実際に市場に出てくる国債の量はわからない。会計年度より前に発行されていた前倒し債などを引いた同額をみて、初めて国債の需給を判断できる。
そのカレンダーベースの市中発行額が2次補正予算編成によって212.3兆円に膨らむことになった。1次補正予算から59.5兆円、当初予算からは83.5兆円の増加となる。過去最大だった2013年度の156.6兆円と比較しても55.7兆円上回る「空前絶後」のレベルだ。
しかし、債券市場は落ち着いている。国債需給に直接影響する額が急増することがわかったにもかかわらず、指標となる新発10年債利回り
その背景にあるのは、やはり日銀の存在だ。「国債増発に応じて、国債買い入れオペを増額する」(国内銀行の債券ストラテジスト)という予想は市場のほぼコンセンサス。市場に国債が大量に出ても、日銀が買ってくれるから問題はないという、やや「モラルハザード」的な安心感が市場にはある。
日銀は現在、物価連動債と変動利付国債を除く利付国債だけで年間74兆円程度のペースで購入しているが、13─15年のピーク時には90兆円を超えるペースで購入しており、まだ「余裕」があるとの見方が多い。
2次補正後のカレンダーベース市中発行額212.3兆円のうち、利付国債は117.6兆円。日銀が90兆円に購入を増額すれば76%を占めることになる。
<日銀新型オペの担保需要>
利付国債以外も、日銀を中心とした需給構造にがっちりと組み込まれている。
今回の増発で最も増えたのが、期間の短い割引短期国債(国庫短期証券、TB)だ。カレンダーベース市中発行額は1次補正時点から59.5兆円増えたが、TBはそのうち45.5兆円を占める。特に6カ月物は35.6兆円の増加だ。
しかし、6カ月物TBの金利は依然として安定している。足元でマイナス0.19%付近と昨年12月時点よりも低い。
TBのぶ厚い需要を生み出しているとみられているのが、日銀の新型オペだ。日銀は22日に開いた臨時の金融政策決定会合で、金融機関向けの新たな資金供給手段を決定した。利用残高の2倍の額を金利ゼロ%の「マクロ加算残高」に加算するとともに、利用残高に相当する当座預金にプラス0.1%の付利を実施する。
規模は30兆円。マイナス金利に悩む金融機関にとっては魅力的に映る。その新型オペに応じるために必要になるのが担保としてのTBだ。「TBは規模や期限など日銀の新型オペの担保にぴったりとはまる。TB入札が最近好調なのも、そのせいだろう」と野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏はみる。
実際、27日に実施された6カ月物TBの入札が強かったのは、新型オペに応じるための担保需要が要因であったとみられている。この入札日前後に6カ月物TBの償還はなく、乗り換え需要が見込めない中での発行であったにもかかわらず、2兆5000億円の予定額に対し、11兆円を超える応札があった。
<「グローバルスタンダード」にも不安>
この新型オペは、政府の新型コロナ対策の1つである「実質無利子・無担保融資」と一体的に運営されている。この融資が増えれば、オペも増え、担保需要も増加する。一方、期待ほど融資が増えなければ、オペは少なく、担保需要もそれほど増えない、という柔軟な仕組みになっている。
カレンダーベース市中発行額のうち、TB発行額はあくまで利用可能な「枠」と言える。利付国債と異なり、TBは発行額を機動的に変更できる。212.3兆円は上限であり、実際の国債発行額はもう少し小さいかもしれないということも、円債市場が平静を保てている要因の1つだ。
事実上の「財政ファイナンス」との批判もあるが、いまや政府の政策を中央銀行ががっちりとサポートする体制は日本だけではない。FRB(米連邦準備理事会)やECB(欧州中央銀行)も行っており、今回のコロナ禍を経て、危機対応の「グローバルスタンダード」になりつつある。
ただ、政府の政策に中央銀行が組み込まれ過ぎることには警戒感も強い。「一度組み込まれてしまうと抜け出しにくくなる。抜け出せば金利は上がり、国債の利払いは増え、国家財政が成り立たなくなるかもしれないからだ。インフレが起きても今の仕組みは瓦解する」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。
「アフターコロナ」、「ウィズコロナ」の世界で政策をどう運営するか。危機対応モードからの出口を見据えた長期的な戦略でなければ、将来の重い負担となりかねない。
(編集:青山敦子)
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