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アングル:戦火からウクライナの文化遺産守れ、奮闘するオンライン部隊

ロイター / 2022年4月30日 7時24分

 ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。写真はキーウ(キエフ)近郊のボロディアンカで7日撮影(2022年 ロイター/Zohra Bensemra)

[トビリシ 27日 トムソン・ロイター財団] - ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。

ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻する数日前に、同国は人工的に造られた国だと言い放った。博物館のスタッフにとってこの発言は、自分たちが一生を捧げて記録してきたウクライナ独特の文化に対する脅しに映った。

ミロスラワ・ウェルチュク副館長は、トムソン・ロイター財団の電話取材に「私たちにはこの文化を守る大きな責任があった」と話した。イワン・ゴンチャー博物館は民俗資料を収集し、絵画や衣服、楽器なども集めている。「コレクションが損傷したり破壊されたりしても、再構築できるようにしたかった」という。

スタッフは作品救出のため、展示品のデジタルコピーや民族音楽の録音など無形資産をクラウドデータベースにアップロードした。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて米インディアナ大学に拠点を置く非営利組織、アメリカ民俗学会(AFS)が、ウクライナの文化遺産を守る幅広い草の根活動の一環として、データのバックアップを保存するクラウドストレージの利用環境を整えた。

ロシアの爆撃が始まったときにAFSは、野外での録音、インタビュー、写真、資料などを持っていそうな研究者や専門家、博物館、個人収集家に連絡を取り、支援を申し出た。

AFSのエグゼクティブディレクター、ジェシカ・ターナー氏は「私たちが取り組んでいるのは、クラウドストレージのリンクを個別に提供し、データのバックアップを可能にすることだ」と話した。「私たちはこうしたデータを保管し、(ウイルスが)除去され、安全であることを確認し、ウクライナの人々が再び必要になった際には用意することができる」

<デジタル司書>

ウクライナ侵攻の開始以来、世界中で何百人にも上る歴史専門家、図書館員、IT専門家がオンライン部隊を結成し、建物やサーバーが打撃を受ける前に、ウェブサイトから図書館の資料まであらゆるもののバックアップを取るために協力している。

ツイッターを通じて知り合った欧米の研究者3人が立ち上げたプロジェクト「ウクライナ文化遺産救済オンライン(SUCHO)」は約1200人のボランティアの協力を得て、危機に瀕したウェブサイトやデジタルコンテンツのアーカイブ化を進めている。

SUCHOの共同設立者である米スタンフォード大学のクイン・ドンブロウスキー氏は「私たちは公開されているウェブサイトが、利用不可能になる前に捕捉しようとしている」と述べた。

こうしたウェブサイトをアーカイブ化すればコピーが生成され、今も運営が続いているかのように閲覧することができるという。

SUCHOによると、数字に変動はあるものの、ボランティアがバックアップの必要性を指摘した数千件のウェブサイトのうち、15%程度が現在インターネットに接続されない状態になっている。原因はサーバーやインターネットケーブル、電線の破損の場合もあるし、料金未払いの場合もある。

「ウクライナ市民は今、ウェブサイトのサーバー代金以外に優先すべきことがたくさんある」とドンブロウスキー氏は話す。

ハーバード大のウクライナ研究所も、窮地に陥っている研究者にクラウドストレージを提供しているほか、ロシアによる侵攻のデジタルライブラリーを作った。

デジタルライブラリーは、ニュースサイトや政治家のソーシャルメディアなど厳選したウェブページを、時間を変えて繰り返し記録するオンラインツールを使って作られている。

こうした取り組みによって研究者は、戦争中にネット上で何が報道され、何が語られたかを遡ることが可能な、一種のタイムマシンを手に入れることができる。

また、ポーランドのピレツキ研究所は、博物館や遺跡の破壊など文化遺産に対する戦争犯罪の証拠を収集・保存するために、主に難民からの目撃証言を記録している。

<難航する作業>

戦争による混乱の中、こうした取り組みは成功することもあれば、失敗することもある。

SUCHOの共同設立者のセバスチャン・マジストロウィク氏によると、国勢調査の記録や裁判記録などを入手したのは、ハリコフ市の国立公文書館のウェブサイトがダウンするわずか数時間前だった。しかし、救済が間に合わなかったウェブサイトは枚挙にいとまがないという。

インディアナ大学の研究者、イリナ・ヴォロシナ氏によると、ウクライナの国民的画家、マリア・プリマチェンコ氏の作品を所蔵するキエフ近郊の小さな博物館は、AFSがその存在を発見する前に炎に包まれてしまった。

ヴォロシナ氏によると、作業に長時間かかる場合もある。「動画や、何年分もの作品など、テラバイト単位のデータも少なくない。たとえインターネットの接続が安定していても、アップロードを終えるのに1週間要することもある」

課題はほかにもある。AFSのターナー氏によると、送られてくるデータにはコンピューターウイルスが付着していることが多く、それを除去するのに時間がかかるという。

また、ターナー氏によると、AFSは研究者に対し、自身が戦争を生き残れなかった場合、写真やビデオなどの作品をどうするかという気の重い質問もしている。最初の契約では、短期間の保管を提供するだけだったためだ。

(Umberto Bacchi記者)

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