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アングル:仮想通貨で「一発逆転」、南アの若者が追う危険な夢

ロイター / 2022年10月1日 8時39分

 南アフリカ最大都市ヨハネスブルク近郊のランガビル・タウンシップ――。低所得世帯が多いこの地で暮らすジョンさんが、暗号資産(仮想通貨)という言葉を初めて耳にしたのは3年前のことだった。写真は、スマホで仮想通貨の取引画面を見せる若者。南アのクワ・テマで8月21日撮影(2022年 トムソンロイター財団/Kimberly Mutandiro)

[ヨハネスブルク 26日 トムソンロイター財団] - 南アフリカ最大都市ヨハネスブルク近郊のランガビル・タウンシップ――。低所得世帯が多いこの地で暮らすジョンさんが、暗号資産(仮想通貨)という言葉を初めて耳にしたのは3年前のことだった。「ビットコインのおかげで一夜にして金持ちになった」という同じ南アの人たちがユーチューブやフェイスブックに投稿した動画や記事を偶然目にした。

当時14歳だったジョンさんは触発され、早速取引アプリをダウンロードし、年齢を偽って口座を開設。貯金で売買を開始した。

すぐに少額の利益を得たものの、今年になって仮想通貨が急落すると、ジョンさんは両親に嘘をつくことになった。損失を穴埋めする資金を得るためで、両親はまさか仮想通貨取引をしているなど知る由もなかった。ジョンさんは「金持ちになったらきちんと返すつもりだ」と弁解する。

この町ではジョンさん以外に、何十人もの10代の若者が仮想通貨取引を手掛けている。

ユーチューブやインスタグラムでフォローしているインフルエンサーや自称仮想通貨専門家に憧れ、そうなりたいと思う気持ちを抱いてのことだ。

ジョンさんは、同じように仮想通貨を売買している仲間とのたまり場としている公園でトムソンロイター財団の取材に応じ、「今は、町内のほかの少年たちにやり方を教えている。必要なのは携帯電話と銀行口座、多少のお金だけで、それでどうやって大金を稼ぐかをこれから実際に見せようと思う」と語った。口座開設と取引の方法に関する教授料として、300─400ランド(17─23ドル)払ってくれる「顧客」がおよそ20人いると付け加えた。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2021年の時点で南アは全人口の7.1%がデジタル通貨を保有しており、保有比率は英国やブラジルを上回って世界第8位。アフリカ諸国ではケニアやナイジェリアも保有比率が高い。

さらに金融情報会社ファインダー・ドット・コムが今月公表した調査では、南アの保有比率は10%に達し、特に18─34歳が保有者全体の43%を占めている。

18歳未満の保有についてのデータは存在しないが、当局や専門家が詐欺の被害を受けたり、大損したり、あるいは精神的なダメージを受けると警鐘を鳴らしているにもかかわらず、一獲千金を夢見て仮想通貨取引の世界に入ってくる少年少女は増加の一途をたどっている。

ウィットウォーターズランド大学の上級講師、アシアー・J・ラム氏は、南アの若者は大学で教育を受けて就職するよりも、リスクを完全に理解しないまま仮想通貨で金を稼ぐ道を選ぼうとしていると指摘。仮想通貨で大金を得る魅力は非常に説得力を持つかもしれないが、それに付随するリスクや、そうしたリスクへの理解が欠如した状況では、極めて大きな弊害が生まれかねないと懸念を示した。

<落とし穴>

仮想通貨は、世界の危険地帯や経済的に不安定な地域に金融取引サービスを提供するというメリットを持つ半面、匿名性が比較的高いため、犯罪者や過激主義者、制裁を受けている国家などに利用されやすい。また最近は価格が急落し、多くの利用者に打撃を与えている。

こうした中で南ア準備銀行(中央銀行)は先月、仮想通貨の保有と売買、送金向け利用を正式に許可した。ただ依然として規制は緩いままだ。

大きな不安要素の1つに詐欺行為が挙げられる。昨年、南アの仮想通貨交換所アフリクリプトの創業者が、顧客に口座がハッキングされたと言い残したまま失踪し、約36億ドルの顧客資金が消失。この種の事件としては消失金額が世界最大級になった。

今年6月には、米規制当局が南アのある男性とこの人物が経営する企業に民事処分を科している。数千人から詐欺的な勧誘手法でビットコイン17億ドル余りを集めたためだ。

南アの警察で刑事捜査部門の広報を担当するサンディ・ムバモ氏は、警察はこれまで詐欺的な仮想通貨取引の話に注意してほしいと国民に呼びかけてきたと説明し、詳細は明かさなかったものの「幾つかの事件を捜査している」と語った。

ウィットウォーターズランド大学のラム氏は、ジョンさんのような若者は特にだまされやすいと強調し、「彼らは技術面の複雑さやこの分野に(適切な)規制が存在しない事実、口座がハッキングされ、お金が盗まれるという問題を完全には分かっていない」と説明。すぐにもうかるからと夢中になるのだろうが、同時に自分たちが利用され投資金額を全て失う恐れがあり、メンタルヘルスを損なう可能性もあると訴えた。

<希望を託す理由>

ジョンさんは、学校をサボって何か情報はないかとユーチューブの動画を次々と閲覧しつつ、ワッツアップのプロフィールに自身の華やかな洋服とお札が積み上がった画像を掲載して「顧客」の拡大を目指している。ただ生活のため、必死で雑用的な仕事をこなしている両親に本当のことは話していない。

授業に出てもジョンさんは気もそぞろで、取引アプリが鳴らす警報音に心を奪われ、ユーチューブやTikTok(ティックトック)を夜遅くまで閲覧し続ける生活ですっかり疲れ切っている。かつて「オールA」だった成績は下降してしまった。

それでもジョンさんは成功への希望を捨てていない。「この町で生きていくのは簡単ではない。自分の仮想通貨ビジネスを大きく育て、別のビジネスを開業できるだけのお金を手に入れたい。(仮想通貨)取引は私の未来そのものなのだ」と言い切った。

背景には、ジョンさんをはじめとする南アの貧しい若者にとって、国内の失業者がずっと高水準で推移する経済状況では高給を得られる仕事は手が届かない世界の話に見えてしまう、という厳しい現実がある。

(Kimberly Mutandiro記者)

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