焦点:アルケゴス問題で分かった監視の穴、米当局は規制強化へ
ロイター / 2021年3月31日 14時15分
3月30日、投資会社のアルケゴス・キャピタル・マネジメントが担保の追加差し入れ(追い証)に応じられずデフォルト(債務不履行)を起こし、国際的に業務展開する一部大手銀が多額の損失を出した。写真は29日、アルケゴスが入居しているとされるニューヨークのオフィスビル前で撮影(2021年 ロイター/Carlo Allegri)
[ワシントン 30日 ロイター] - 投資会社のアルケゴス・キャピタル・マネジメントが担保の追加差し入れ(追い証)に応じられずデフォルト(債務不履行)を起こし、国際的に業務展開する一部大手銀が多額の損失を出した。そのことで、ヘッジファンドやファミリーオフィスなど急拡大する「影の銀行(シャドーバンキング)」を抑え込む規制見直しの動きが強まり、同セクターが抱えるリスクに光が当たりそうだ。
ヘッジファンドは昨年起きた米国債市場の混乱のほか、2019年のレポ取引市場の動揺、今年1月のゲームストップ株を巡る騒動にも関わっており、ノンバンクの監視は既に民主党議員やイエレン財務長官にとって最優先課題となっていた。
アナリストによると、元ヘッジファンドマネジャー、ビル・フアン氏のファミリーオフィス(個人資産を運用・管理する投資会社)であるアルケゴスの行き詰まりで、規制の緩いノンバンクセクターは追い打ちを掛けられた格好だ。
アルケゴスは金融機関からの借り入れ(レバレッジ取引)で運用していた株式投資に失敗し、こうした取引に資金を融通していた大手銀に少なくとも60億ドル規模の損失が発生、規制当局が注視している。
事情に詳しい関係者によると、アルケゴスの運用資産は100億ドル前後だが、レバレッジ取引により実際の運用規模は500億ドル程度に膨らんでいた。しかし、単一の家族のみにサービスを提供するシングル・ファミリーオフィスとしてフアン氏の個人資産を運用しているため、直接的な規制は受けていない。
31日にはイエレン財務長官が議長となって、バイデン政権下で初となる金融安定監督評議会(FSOC)が開かれる。会合ではヘッジファンドの活動などが話し合われ、アルケゴス問題も取り上げられるとアナリストはみている。
事情に詳しい関係者によると、FSOCの構成メンバーである米証券取引委員会(SEC)は、アルケゴス問題がブローカーやその顧客に与える影響、問題の広がりなどを把握するため、ブローカーと協議している。
レーモンド・ジェームズのアナリストは「アルケゴスによる強制的な巻き戻しで、議会や連邦規制当局は市場のゲーム性を注視し続ける」と指摘。政策当局は新たな改革を導入し、シングル・ファミリーオフィスの情報開示規則の強化を進めるとの見通しを示した。
2008年の世界金融危機後、議会は銀行規則を厳格化し、リスクの高い活動を、資産運用やプライベートファンドなど「影の銀行」と呼ばれるより規制の緩いセクターに押し込んだ。
こうした動きに対応し、FSOCは資産運用業界の見直しに着手。16年にはレバレッジを効かせたヘッジファンドが売りを迫られれば、ストレスを受けている市場が不安定になる恐れがあると警告した。FSOCはこうしたリスクを監視し、データ不足を解消する計画だったが、トランプ前政権はこのプロジェクトを中止した。
<規制上の盲点>
さらに規制上の「盲点」となっているのが、ファミリーオフィスだ。シングル・ファミリーオフィスはSECに登録する義務がない。そのため、ヘッジファンドと異なり、保有資産、銀行との関係、その他の運営情報を開示する必要がない。
FSOCの2020年の年次報告によると、米ヘッジファンドの運用資産は2兆9000億ドル、レバレッジ取引を勘案すれば実際には6兆3000億ドルと見積もられているが、ファミリーオフィスの運用資産についてのデータは示していない。
複数の市場関係者は、フアン氏が密かにこれほど大量の資金を金融機関から借り入れながら、ほとんど監視を受けていなかったことに驚いている。
シンクタンク、ベター・マーケッツのデニス・ケレハー最高経営責任者(CEO)はノートで「アルケゴスがこれほど大きなポジションを組んでいたこと、どの銘柄を保有していたか、どうやって売却したのか、オーナーは誰かなど、いずれも市場では全く知られていなかった」と説明。「これは影の銀行システムが、いまだに重要な部分は不透明で、2008年よりもはるかに巨大になったためだ」とした。
市場調査会社、カムデン・ウェルスによると、2019年時点で世界のファミリーオフィスが運用する資産は総額5兆9000億ドルで、それまでの2年間で38%増加した。また、コンサルタント会社のEYは最近、世界のシングル・ファミリーオフィスの保有資産は、プライベートエクイティ(PE)とベンチャーキャピタルの合計額を上回るとの推計を示した。
米国では規制の緩さからファミリーオフィスがヘッジファンドの人気を集め、過去10年間に著名なヘッジファンドを含めて多くがファミリーオフィスに転換した。
フアン氏は自身のヘッジファンド「タイガー・アジア・マネジメント」が2012年に取引規制違反で摘発され、その後にタイガーをシングル・ファミリーオフィスに転換した。
ケレハー氏は、ファミリーオフィスとヘッジファンドの情報開示に関する米規則が見直され、フアン氏がレバレッジを効かせるのに使ったデリバティブ(金融派生商品)やブローカーのリスク管理に関する規則も再検討の対象になると予想。「バイデン政権下の規制当局は、金融システムを守るため、素早く、包括的に動く必要がある」と指摘した。
(Michelle Price記者、Katanga Johnson記者)
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