レディース暴走族のトップで覚醒剤の売人だった女性は、改心し「みんなの母親」目指す(上) 何度裏切られても、刑務所や少年院を出た社員を雇い続け…
47NEWS / 2024年11月9日 10時0分
中学時代から暴力団と関わり、18歳で女暴走族の総長に。酒、薬物、リンチ…。多くの人間を傷つけ、都合6年半の服役を経験した。獄中出産を機に更生しようとしても、仕事はなかなか長続きしなかった。
そんな札付きの悪女だった広瀬伸恵さん(46)は現在、栃木県栃木市で建設会社「大伸ワークサポート」を興し、社員約40人を抱える社長だ。特色は、多くの元受刑者を社員として迎えていること。
「みんなの母ちゃんになりたい。居場所があれば、人は更生できる」
そう語り、居場所づくりに精を出す。しかし、活動は一筋縄ではいかなかった。
(共同通信=鷺森葵)
▽父は仕事人、母は遊び人
広瀬さんは1978年、栃木市に生まれた。両親はけんかばかり。父は仕事、母は外出ばかりしていたと振り返る。
「お金はあったけど、心は貧しかった。家族でご飯を食べるって言うのが、まずなかった。普通の家庭環境がうらやましかった。愛がないっていうか。夜は独りぼっちが多かった」
中学生の時に両親が離婚。寂しさを紛らわすように、夜な夜な遊びに出かけ、悪友と付き合い始めた。そこからの転落は早い。たばこ、シンナー、やくざとの交際…。家は悪友のたまり場になり、歯止めが利かなくなっていった。
暴走族の集合写真に収まる18歳当時の広瀬さん(前列中央)
もちろん、家庭環境を言い訳にはできない。姉は苦しさを勉強へ向け、大学を卒業し、働いている。
▽15歳で暴走族に
中学生で覚醒剤にも手を出した。13歳の時に18歳と偽り、コンパニオンとして住み込みで働いたこともある。
地元に悪名が響いていたからか、複数の暴走族から勧誘を受け、15歳で加入。18歳でチーム「魔罹啞(マリア)」を旗揚げした。
「魔罹啞」2代目総長だった奈々さん(43)は、広瀬さんをこう評する。「お姉ちゃんは、自分が一番じゃないと昔から駄目な人。人の下につくのが嫌」。チームは「栃木ナンバーワン」を目指した。広瀬さんは当時を振り返る。「刃物を常に持っていた。カッターとかサバイバルナイフ。負けるくらいなら刺せって勢い」
チームは60人ほどの規模に膨れ上がった。メンバーが「おきて」を破ると、「シメ会」と呼ぶリンチが行われた。「男遊びをしたとか、連絡を返さないとか、逃げたとか、集会に参加しないとか」。結婚か妊娠以外ではチームを抜けさせなかった。
あるメンバーへのシメ会で、19歳の広瀬さんらは逮捕された。暴行は残虐だった。「1人じゃ何もできないくせに、集団になると強い気持ちになっちゃう。みんなの手前、かっこつけてしまった」
現在の広瀬さん=2024年8月
今も被害者に謝罪はできていない。
「本当にひどいことをした。会ったら謝りたいけど、二度と関わらないでと言われた」
▽覚醒剤の売人
後輩を引き連れるには金が必要で、覚醒剤の密売人となった。「薬物禁止」はチームのおきてのはずだ。「建前はね。私は良いけど、後輩は駄目」。当時の横暴さがうかがえる。
結局、薬物で逮捕され、23歳の時に懲役5年を言い渡された。裁判所の傍聴席は、10代の女の子で満席だった。
「余裕だよってかっこつけたけど、法廷のドアが閉まった瞬間、号泣した」
それでも改心はしなかった。出所後、再び売人に。そして妊娠中に逮捕された。今度は1年半の実刑判決だった。
台所に立つ広瀬さん=2024年7月、栃木市の広瀬さん宅
▽獄中出産
29歳、2度目の服役中に出産をした。
「腰縄に手錠をした状態で、刑務官3人に囲まれて男の子を出産した。あんな所で産むもんじゃない」
出所後はさすがに更生を誓い、真面目に働こうと介護や給食調理の仕事に就いた。しかし、過去が露呈すると働きにくくなる。世間が「元犯罪者」に向ける目は想像以上に厳しかった。「真面目に生きるのを諦めかけた。食べていくために、また悪さをしてしまった」
獄中出産した男の子には懐かれず、生活も不安定で、自分で育てることを諦めた。しかし、2人目を妊娠したことで「この子はシャバで育てたい」と、今度こそ更生を決意した。
▽建設会社の社長に
その頃、「次は真面目に働けよ」と受け入れてくれたのが、建設業界だった。過去を隠さず働けるのは心地よかった。
大伸ワークサポート
31歳だった2009年、元夫と建設業を始めた。こつこつと仕事を増やし、現在は約40人の社員を抱える。そのうち約8割が刑務所や少年院からの出所者だ。
法務省と連携して元受刑者を積極的に雇う「協力雇用主」として登録している。法務省によると、協力雇用主の登録数は2万5千あるが、実際に元受刑者を雇用しているのは4%にとどまる。広瀬さんの「大伸」は珍しい存在だ。
雇用を通じて犯罪や非行からの立ち直りを助けたとして、2019年に宇都宮保護観察所長から表彰された感謝状
▽憧れた食卓
「おいしいご飯を食べて怒る人はいない。食卓を囲むのは更生のカギ。腹を割って話せるし、一番大切にしている」
大伸を始めた時から、みんなで一緒に食事をする憧れもあり、社員に夕飯を振る舞ってきた。
7月のある日の午後7時ごろ、田村竜也さん(36)ら現場帰りの屈強な社員らが、広瀬さん宅にやってきた。田村さんは笑顔で話す。「おじゃましますではなく、ただいまなんです」
広瀬さん宅で夕食を囲む社員たち=2024年7月
包丁を握るのは社員の佐藤美幸(43)さん。元受刑者だ。その横で、筋肉質の男らもフライパンを握る。一汁三菜のバランスの取れた料理に、大盛りのご飯。日に焼けた顔をほころばせながら、仕事の話に花が咲く。
田村さんは言う。「社員のみんなで食卓を囲むと、上下関係を気にせず身内感覚でいられる。お母さんが作る味」
毎日5~15人ほどが入れ代わり立ち代わり食べにくる。かつてのように広瀬さんが料理することもある。
料理する佐藤美幸さん(右)と社員=2024年8月
▽裏切り
社員の多くが、虐待を受けたり、施設育ちだったり、親がいなかったりの家庭環境だ。
「1人では更生できない」。それが広瀬さんの実感だ。家庭環境や、出所後の孤独にも共感できるからこそ、一人一人の話に耳を傾ける「母親」として、一緒に過ごす時間を大切にしている。
だが、そんな「わが子」に裏切られることも多い。
▽再犯社員も「家族」
大伸ワークサポートによる工事現場=2024年8月、栃木県栃木市
「5年ほど働いて信用してた社員が、前借り金を持って逃げた…」
社員から暴行を受けて肋骨を折ったことがある。別の社員は会社の車で当て逃げをした。会社名を不正利用されたこともある。社員が万引をした時は、菓子折りを持って一緒に謝罪へ。
せっかく大伸に入ったのに、すぐ辞めてしまう人もいる。実際、記者の取材にしっかりと答えてくれたある男性社員も、突然いなくなってしまった。
「心が折れそうになる。でも、私も社員に支えてもらっている。独りぼっちだったら私もまた刑務所に入っていたはず。社員というより、家族や仲間。私が守る」
裁判の情状証人や、連帯保証人になることもある。
「守ろうとしてくれる人がいるといないでは、全然違う。私は甘えたかったし、心配してほしかった。自分がしてほしかったことを今、している」
何度裏切られても、広瀬さんはめげずに出所者を雇い続ける。気になったのは、広瀬さんが過去を語る口ぶりに、どこか反省を感じられない部分があったことだ。記者がその点を追及すると―。(下に続く)
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