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「プロ野球90年」ニュースキャスター大越健介さんが語る野球への思い 「広沢君、小早川さんには何を投げても打たれた。プロにいく人たちは桁が違う」

47NEWS / 2024年12月8日 9時30分

色紙を手にする大越健介さん=2024年7月

 発足から90年を迎えたプロ野球への思いを聞くインタビューシリーズ。テレビ朝日「報道ステーション」のメインキャスターを務める大越健介さんは、東大時代は野球部のエースとして東京六大学リーグで通算8勝を挙げた。人生をともに歩んできた野球への愛情を語った。(聞き手 共同通信=小林陽彦、児矢野雄介)

▽「ON」に興奮


1973年に当時のセ・リーグ通算最多安打記録に並んだ巨人・長嶋茂雄、後ろは次打者の王貞治=後楽園球場

 小学校1年生ぐらいの時に、両親がグラブとミットを三つ上の兄と僕にプレゼントしてくれました。一緒に野球をしたり、家の中で相撲を取ったり、昭和の頃の普通の兄弟。毎日のように兄と、家の前の道路とか、刈り入れが終わった後の田んぼとかで、ひたすらキャッチボールし続けました。やっぱり野球でしたね。


 故郷の新潟でも巨人戦のナイターは放送していたので、「ON」の打撃に興奮しました。中継が終わるのが悔しくて、翌日の新聞が楽しみでしたね。新聞では巨人戦だけじゃなくて、他の試合のスコアテーブルもある。阪急の福本ってすごいなとか、普段見ないパ・リーグもチェックしながらいろいろと空想して、オールスターでパ・リーグの選手の姿を見て興奮したり、当時デーゲームでやっていた日本シリーズを見るために走って帰ったり。ジャイアンツはなじみがあるし、V9時代で強くて魅力を感じましたけど、野球全部が好きでした。

 記憶にあるのは巨人―阪神で、阪神のサイドスローの上田二朗さんがノーヒットノーラン寸前までいって、九回2死から長嶋茂雄さんがレフト前にクリーンヒットを打った。「長嶋さんは持っている人なんだな」と思ったり、ノーヒットノーランを阻まれた上田選手の心情を思ったり、テレビを見ながら想像をたくましくしましたね。

▽お手本は鹿取さん


巨人時代の鹿取義隆=1985年、後楽園球場

 東大では本当は内野手をやりたかったんです。体も小さいし、器用な球さばきみたいなのが好きだったのですが、チーム事情がそういうわけにもいかなくて、ピッチャー経験者だったので「お前投げろ」と言われて1年の夏ごろからピッチャーをやりました。

 いろいろなプロのピッチャーを見ましたが、「こういう風になりたいな」と思ったのは鹿取義隆さん。何がすごいって、どんな場面でも出ていって黙々と投げること。巨人が王貞治監督の時には「何でもかんでも鹿取」と言われたぐらいでした。
 抑えでも中継ぎでも、場合によっては先発でも、すごいタフネスで淡々と投げる。体はそんなに大きくないけれど、しなやかな体の使い方のサイドスローで、あのタフさとひたむきさには非常に刺激を受けました。
 その後重用されなくなって巨人を去るんですが、西武へ移籍してからがすごくて、ベテランになっても巨人在籍時と同じぐらいの成績を残している。どんな場面でも顔色一つ変えずに投げてくれるので、監督からすればこれほどありがたい選手はいないんじゃないでしょうか。
 同じというと失礼なんですけど、自分も体が大きくないサイドスローのピッチャー。何かにつけて鹿取さんの姿は頭をよぎりましたし、球筋とかをよく見て、とてもあのレベルには追い付かないと思いながらも参考にさせてもらっていました。

▽プロに行く人は桁違い


日米大学野球選手権の日本代表に選ばれた東大時代の大越健介さん=1983年6月、神宮球場

 東京六大学の対戦相手ですごかったのは、明治大の広沢克実君(後にヤクルトなど)、法政大の小早川毅彦さん(後に広島など)の2人。何を投げても打たれるという感じでした。ホームランも1本ずつ打たれています。4年生の時にはどこかの球団が間違って指名してくれないかなとちょっと思いましたけど、たぶんどこのリストにも入っていなかったんじゃないかな。

 1983年に大学日本代表に選ばれましたが、あのときの投手陣はほぼプロにいきました。そんな中で、ちょっと変わり種として入れてもらったんでしょうね。周りは本当にすごい人たち。後に中日で打者として活躍した東洋大の仁村徹投手とは、下手投げ同士ということでキャッチボールをしましたが、遠投しても球が落ちてこないんですよ。ああいう人たちはボールの回転数から、球筋から、ちょっと桁が違う。対戦する以上に、同じベンチに座ったり一緒に練習したりして、プロにいく選手たちのすごさを感じました。

 NHKに就職し岡山が初任地で、阪神が試合に来ました。中日入りした仁村さんや、阪神の和田豊君(日大出身)ら、同じ代表チームでやっていた人たちがいるわけです。プロ選手ってやっぱり近くで見るとでかい。そもそも自分が通用する世界じゃなかったなと、駆け出し記者だった僕はようやく分かりました。

▽「音」の魅力


送球を受ける巨人・落合博満=1996年4月、東京ドーム

 みんな音が好きなんじゃないですかね。球場にこだまするいろんな音。歓声であったり、グラブやミットがボールをばしっと捕る音であったり、バットでいい当たりをした時の乾いた打球音であったり、あの音の一つ一つが好きなんじゃないかな。アナウンスの声とか「ビールいかがっすか」の声もいい。本当にいい音を立てて捕るなあとか、ピッチャーが一球一球発する声が聞こえてくるとか、球場で見るのはすごく面白いですよね。
 落合博満さんが中日で一塁手をやっていたときに東京ドームに見に行くと、三塁からの送球をものすごくいい音を立てて捕るんです。あのパシッっていう音が好きだった。試合自体はテレビでも楽しめるけれど、音と合わさった球場のパノラマがいいんですよね。

▽スポーツを伝える意義

 野球に限らずスポーツは、その人の人生そのものを映している。選ばれた人が高いレベルで自分をものすごく磨き上げていき、限界に挑戦して、挫折したり悲しんだり、喜びを爆発させたりという人間そのものを見ているわけですね。人間ドラマとして最も心に訴えかけてくるコンテンツ。ニュース番組の中でスポーツを伝えるときの自分は、それまでの一般項目のニュースとはちょっと違う気持ちになっているのは間違いないです。

 スポーツはルールの下にフェアに戦うという、人間社会の一番大事なことを体現してくれていると思います。これほどフェアな人類の発明はないと思っている。日本も含め国際社会がルールを過度に押しつけたり、過度に嫌ったりという中で、ほどよいルール遵守の気持ちとスポーツマンシップの中で存分に力を発揮し合うスポーツは、絶対に廃れてほしくない。スポーツを伝えることは、自分が大好きだという以上に、そういう意義を持っていると確信しています。

▽地域とともに

 野球はある種の「ナショナルパスタイム(国民的娯楽)」だと思うんです。一緒に苦労したり励まされたり、日本社会と歩んできた。そこには王貞治さんや長嶋さんがいて、最近なら大谷翔平君がいる。僕らが見上げてため息が出るような、素晴らしいプレーや魅力を提供し続けてくれた。そういう歴史を背負ってきているので、ちょっと特別な色合いを帯びているのかなと思います。

 日本のプロ野球は企業が所有するチームとしてやってきて、日本経済の浮沈とともにあった。20年前の楽天、ソフトバンク参入は、近鉄とダイエーが撤退して、代わりにIT企業が買収した。それはそれでいいんだけれども、根っこのところで地域の球団であることを意識して、ファンが支えることによって経営が成り立つという形にしていってほしい。そこはJリーグなどにもっと学んでもいいと思います。そういう意味では、昔のように放映権収入に頼るのではなく、地域密着で球場に来てもらうことが経営の柱になるという形に変わってきたのはすごくいいこと。新潟とか静岡、松山、沖縄に球団構想があってもいいし、もっと広げていってもいいのかなと思いますね。

▽裾野広げる努力を


インタビューに答える大越健介さん=2024年7月

 プロ野球選手への門戸も、もっと開かれてほしい。本当に限られた人しかプロにはいけないけれども、ひょっとしたら僕も大学の時に近いところまでいったかもしれないですよね。そういう人が希望したらいけるように、2軍3軍だってもっとPRして地域密着でやってもいい。今は野球人口そのものも、キャッチボールができる場所も減っているのが現実。限られたチームの中で、条件に合う限られた少年少女だけが野球ができて、その中で選ばれた人たちがプロ野球にいく。その裾野を広げる努力をしてほしいと思います。子どもたちにとって、野球がハードルの高いスポーツにならないように。

 野球は生涯の友達。息子たちも自然と野球をやってくれました。東京・日大三高で甲子園に出た時は、米国に赴任したばかりだったんですけど、ワシントン支局に僕の代わりはいても甲子園に出る息子の父親は僕しかいないという理屈で、1カ月休みを取って帰ってきました。野球を観戦してあんなにどきどきしたことはなかった。人生で一番面白かったです。野球の話をしていれば、息子たち3人と誰とでも会話ができる。こんなありがたい友達はいないですよね。

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