コロナの負荷にあえぐ訪問介護 発熱には即応、増える家族間トラブル…

47NEWS / 2021年1月20日 10時30分

兵庫県伊丹市の老人保健施設「グリーンアルス伊丹」の食事風景。感染予防のため机はビニールで仕切られている(同施設提供)

 首都圏や近畿圏など計11都府県に2度目の緊急事態宣言が発令された。それに伴って、医療の逼迫(ひっぱく)状況が盛んに報道されているが、介護の現場はあまり注目されていない。とりわけ、深刻な人手不足にあえいでいた訪問介護はどうなったのだろう。(女性史研究者=江刺昭子)

 神奈川県・湘南エリアの小規模な事業所で働く女性に話を聞いた。仮にSさんとしておく。Sさんは訪問介護を担当しているケアマネジャーで、障害者のケアも含め20年のキャリアがある。

 神奈川県は東京都、大阪府に次いで3番目に感染者が多く、累計で3万人に迫っているが、湘南エリアはそれほどでもない。一つの介護施設で小さなクラスターが発生したが、すぐに閉鎖したので、そのまま収まった。感染者数は1月中旬段階で、200人程度である。しかし、この1年で働く環境は大きく変わった。

 訪問介護のケアマネジャーの仕事は、まず要介護者の自宅を訪ねること。そして現状を聞き取る。1人暮らしか、家族がいるか、何に困っているか、どんな介護サービスを望んでいるのか。その上で、医師、看護師、ホームヘルパーらと会議をしてケアプランを作成、実行する。1人の人間を支えるチームの、要の仕事である。

 サービス開始後も、1カ月に1度は訪問して、きちんとサービスが行われているかといった点を、継続的に調査することが義務付けられている。

 コロナで外出が制限されて、家庭の密室性が高まり、家族の関係性の密度も上がった。そのため安否確認のための訪問が増えたという。DVを含めた家族間のトラブルの危険性があるからだが、それは家庭内に入ってみないとわからない。

 常にアルコール消毒液を持ち歩く。事務所も朝昼晩と消毒している。コロナ以前より、やらなければならないことが増えた。

 当初は従業員が自分でマスクや消毒液を買い集めた。いまはSさんにも、ガウン、サージカルマスク、ゴーグル、手袋が、支給されている。逆に言えば「何かあればすぐ現場に行け」ということ。利用者が発熱したときは、医師と連絡をとりながら、これらのグッズを持って駆けつける。

 いま担当するのは35人。週40時間勤務が基本だが、時間外でもトラブルがあると電話がかかってきて、即応しなければならない。1月9日からの3連休直前にも、肺炎を起こした人がいて、深夜まで対応に追われた。

 「コロナが怖いけど、1人暮らしの人もいるし、重度の障害の人も担当している。わたしが行かなければ、どうにもならない。大変だと思ったらこの仕事は続かないから、人の役に立つことは楽しいと思いながら働いています。でもコロナ下では特別な緊張を強いられるから、ストレスがたまります」

 この1年、県外の施設に入っている自分の母親との面会もできないでいる。

 ケアマネジャーをはじめ介護職は以前から人手不足が言われている。飲食業界などでリストラが増加しているが、介護職に流れないのだろうか。

 「景気が悪くなると介護に人が来ると言われているけど、リストラされても、なかなか来ません。感染の危険と隣り合わせの仕事だし、ストレスがあるからでしょう」とSさん。

 介護の仕事を選んだ周囲の若者についてはこう話す。

 「みんな自粛の意識が強いですよ。遊んでいる若者が取り上げられるけれど、介護の若者は飲みにもいかない、食べにもいかない、がまんしてます。それができなくなるとバーンアウト(燃え尽き症候群)。真面目であればあるほど、行き詰まる傾向があります」


職員に手を消毒してもらうデイサービスの利用者=岐阜県瑞浪市の心音ケアセンター瑞浪(提供写真)

 収束が全く見通せないコロナ禍。介護の現場がパンクしてしまう前に、打つ手はないのだろうか。

 「介護職の不満は、1番が労働環境で、2番目が待遇、報酬です。35歳で一般と比べると、10万円以上月収が少ないと言われてます。介護保険料が上がると事業所はもうかるが、現場で働くヘルパーまでいかない。差額の10万を詰めようとしているけれど、なかなか…」

 人手不足は施設勤務より訪問介護職(ホームヘルパー)で深刻だ。厚労省によると、2019年度の訪問介護職の有効求人倍率は15・03倍。施設の介護職の4・31倍も高いが、それよりはるかに高い。コロナ禍はこれをさらに押し上げているのではないか。

 しかも訪問介護職は半分以上が非正規で、時給制がほとんど。身体介護と生活介護があるが、生活介護の時給は1200円から1500円程度で、移動時間は含まない。朝、昼、晩と1時間ずつ仕事をしても、5千円にもならない。当然だが、離職率も高い。訪問介護の95%は女性だから、これは女性問題でもある。

 昨年末、介護・福祉の現場を支えている職員に対して、国から新型コロナ慰労金が支給された。

 「医師も看護師もヘルパーも作業療法士も、一律5万円なのはよかったと思う。この現場に立ち続けることで同じリスクに直面しているのだから。でも額は少ないし、1回きりだった」

 家族の中で介護を担う人が、仕事を続けられなくなる「介護離職」も問題だと話す。

 「介護離職させないというのは、わたしが強く意識していることです。主な介護者が妻だったり、娘だったりしたら、絶対に離職は防ぎたい」

 息子が介護するケースで要介護者へのDVが多いとして、男性の介護力が問題になっている。それは現場の実感に重なるという。

 「結婚しないで家にいた人は、いつまでたってもお母さんはお母さんじゃなきゃいけない。甘えている人に介護はできません」

 そして、いまや女性にも介護力が欠けてきていると指摘する。

 「いま、高齢の父母を介護するのは、40代50代の均等法世代です。女性も学校から仕事へと、生活の中心が公的な場にあり、身のまわりの世話はお母さんにやってもらってきた人が多いんです」

 娘も息子も介護力がないとなれば、施設や訪問介護の需要はますます増える。しかし、介護こそ人間でなければできない仕事だ。責任や負担の重さを考えれば、やりがいだけではできない仕事でもある。

 コロナ禍は感染の危険という負荷を加え、介護の体制をさらに脆弱(ぜいじゃく)にした。行政も事業者もサービスの利用者も、そこで働く人を支援する方向へ、力を合わせなければならない。

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