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バイデン米新大統領は「電車男」! 「鉄道なにコレ!?」第15回

47NEWS / 2021年1月21日 7時0分

米連邦議会のある首都ワシントンから、電車でデラウェア州ウィルミントンの自宅に帰る上院議員時代のバイデン氏(BETTMANN提供・ゲッティ=共同)

 1月20日に就任したジョー・バイデン米国大統領は36年間の連邦上院議員時代に全米鉄道旅客公社(アムトラック)で通勤し、「アムトラック・ジョー」の愛称で親しまれてきた。当時の車掌が「列車に乗ると他の通勤客と分け隔てなく振る舞っていた」と証言する紳士的な姿は、前任のドナルド・トランプ氏が政権高官らと繰り返し衝突し、連邦議事堂襲撃の火付け役となって議会下院で弾劾訴追を2度受けた史上初の大統領となった“問題児”ぶりとは対照的だ。優れたマナーで鉄道員を魅了した「電車男」は、病める大国を正常化するけん引役になれるだろうか。(共同通信=大塚 圭一郎)

 【ジョー・バイデン氏】1942年11月20日、米国東部ペンシルベニア州生まれ。2021年1月20日に第46代大統領となり、史上最高齢の78歳で就いた。10歳の時に隣のデラウェア州に移り住んだ。弁護士から転身して同州ニューキャッスル郡議会議員を約2年間、1973年1月から2009年1月まで上院議員を36年間それぞれ歴任。09年1月から8年間、バラク・オバマ元大統領が率いるオバマ政権で副大統領を務めた。

 ▽主要駅に氏名が

 「ジョセフ・バイデン・ジュニア鉄道駅」。ワシントンと米国東部の主要都市の一つ、ボストンを結ぶアムトラックの主要路線「ノースイースト・コリダー(北東回廊)」の米東部デラウェア州にあるウィルミントン駅は2011年、当時副大統領だったバイデン氏の氏名に改称された。

 ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港など米国では影響力のある人物から命名した空港駅や鉄道駅などが少なくない。だが、高速列車「アセラ・エクスプレス」(「汐留鉄道倶楽部」の拙稿「米国版新幹線?」参照https://www.47news.jp/47reporters/tetsudou/5237.html)が停車するような主要駅に存命中の人物が名付けられたのは珍しいケースだ。


アムトラックの北東回廊を走る高速列車「アセラ・エクスプレス」=1月1日、米国東部メリーランド州(筆者撮影)

 バイデン氏は上院議員時代、自宅のあるウィルミントンから首都ワシントンまで往復約3時間かけてアムトラックで通い続けた。1972年から2013年まで車掌を務め、バイデン氏が乗車中に親交を深めたグレッグ・ウィーバー氏はこう述懐する。「彼(バイデン氏)は労働者階級の人たちの中で過ごす時間が、最もくつろいでいたように思う。いつも列車に乗ると他の通勤客と分け隔てなく振る舞っていた」。バイデン氏はコーヒーを買い、知り合いの通勤客や乗務員に振る舞ったという。

 ウィーバー氏が心臓発作を起こした後、当時副大統領だったバイデン氏は心配して電話をかけて「大丈夫か。何があったのか」と尋ねたという。ウィーバー氏は、バイデン氏は自分だけに特別な計らいをしたわけではないとし、「彼にとって全ての人が特別な存在だった。この国には各地にヒーローがおり、見えないところで(生活に必要な仕事に従事する)エッセンシャルワーカーが働いてこの国を支えている。彼はそれを分かっている」と強調した。


就任式で演説するバイデン米新大統領=20日、ワシントンの連邦議会議事堂(AP=共同)

 ▽電車通勤で育んだ家族との絆

 バイデン氏が現在も所属する民主党から出馬し、初当選した上院議員選挙の翌 月の1972年12月、自動車事故で妻と1歳の娘が死亡、息子2人も大けがを 負った。デラウェア州の自宅で息子たちとできるだけ一緒に過ごすため、バイデン氏はアムトラックでウィルミントン駅(現ジョセフ・バイデン・ジュニア鉄道駅)から175・2キロ離れたワシントン・ユニオン駅まで通うことを決断。高校教師のジル夫人と77年に再婚した後も鉄道通勤を続け、家族との絆を育んだ。

 バイデン氏は2009年1月にオバマ政権の副大統領に就いたため、アムトラックでの通勤は36年でピリオドを打った。だが、17年1月に副大統領を退いた際も、ジル夫人と一緒にアセラ・エクスプレスに乗り込んでウィルミントンの自宅に戻った。

 バイデン氏は車内で米CNNテレビに対し、こう語っている。「車掌が計算してくれたのですが、私はこれまでにアムトラックで8200往復し、乗車距離は200万マイル(約322万キロ)を超えています」。1往復は350・4キロのため、8200往復ならば累計287万3280キロとなる。これは地球を71周半した計算だ。

 バイデン氏は米メディアのハフポストへの寄稿で、鉄道通勤を通じて「鉄道旅行が私たちの社会と経済に果たしている役割を理解し、尊敬の念を持つようになった」と記している。

 寄稿の中で、バイデン氏は自身の誕生日を祝いたいという娘の願いをかなえるためにとんぼ返りをした逸話をこう紹介している。

 「ある年の私の誕生日に、娘が私のために誕生日パーティーを計画しました。彼女は私に贈り物をし、(誕生日ケーキの)ろうそくの火を吹き消してほしいと強く願っていました。この時はボブ・ドール上院議員(当時)が(共和党の)多数派院内総務で、その夜は投票をしていました。私は娘のためにどうしても帰らないといけないと彼に話し、そのために私は午後5時54分の列車に乗る必要がありました。

 ドール氏は午後9時まで投票時間を延ばしてくれました。私は列車に乗り、ウィルミントンでは娘がプラットホームの中央に立っていました。彼女と私の妻は『ハッピーバースデー』を歌い、私はろうそくの火を吹き消し、ケーキを一口もらい、プレゼントを開けて娘にキスをし、午後7時23分に(ワシントンへ)南下する列車に乗りました。そして、何とか午後9時までに投票できました」


支持者からプレゼントを受け取る米上院議員時代のバイデン氏(中央)と家族=米デラウェア州ウィルミントン(BETTMANN提供・ゲッティ=共同)

 ▽トランプ氏と対極的

 アムトラックは新型コロナウイルス感染症が広がる前は、“ドル箱”のワシントン―ニューヨーク間を含めた北東回廊は堅調な収益を確保していた。しかし、大部分の線区は赤字に陥っているため自立経営は困難で、連邦予算の補助金が経営を支えている。民主 党とともに二大政党の一角となっている共和党の議員や支持者には「公共交通機関はマイカーを買えない貧乏人が乗るものと見下す人が多い」(政界通)とされ、旅客鉄道に対して「民間企業が投資すべきものであり、連邦予算を充てるべきではない」との意見が大勢だ。そんな逆風下でも、バイデン氏はアムトラックを補助する予算確保に尽力してきた。


アムトラックの北東回廊を走る列車=今年1月1日、米国東部メリーランド州(筆者撮影)

 バイデンは寄稿の中で「アムトラックへの支援は強力でなければなりません。それは米国の大切な機関だからというわけではなく、私たちをより効率的に、よりクリーンに、より環境に優しく運ぶための、21世紀の力強く不可欠な方法だからです」と訴えている。

 自動車の代わりに鉄道を利用して環境に配慮し、通勤客やアムトラックの車掌といった労働者階級の人たちと人間関係を築き、家族との絆も深めたバイデン氏。そんな姿勢は、昨年11月3日の大統領選に共和党候補として出馬し、バイデン氏に惨敗したトランプ氏とは対極的だ。


トランプ前大統領=2020年12月、ワシントン(ロイター=共同)

 石油・石炭産業に肩入れするトランプ氏は地球温暖化を「でっち上げ」と言い張り、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から脱退した。政権の高官とも対立を繰り返し、トランプ氏に愛想を尽かし、たもとを分かった人材は枚挙にいとまがない。

 元米中央軍司令官のジェームズ・マティス氏が国防長官から、米石油大手エクソンモービルの前最高経営責任者(CEO)、レックス・ティラーソンが国務長官から、米金融大手ゴールドマン・サックスで社長兼最高執行責任者(COO)を務めていたゲーリー・コーン氏が国家経済会議(NEC)委員長からそれぞれ政権発足翌年の18年に退いている。米国の代表的な組織・企業のリーダーだった大物が2年もたたずに相次いで見限ったという事実は、彼らが仕えていた元首があまりにも人の意見に耳を傾けない暴君なのか、あまりにも人望を欠いているのか、あまりにも社会的常識を欠いているのか、指示があまりにも非常識なのか、あるいはそれら全てが当てはまるのかのいずれかであろう。トランプ氏の場合、それら全てが当てはまると受け止めるのが自然であろう。

 シンクタンクのマンハッタン・インスティテュートのブライアン・リードル氏は米紙ワシントン・ポストに対して「トランプ氏に対する忠誠と支援は、概して屈辱的な形で報いを受ける。トランプ氏のために働いた多くの人々は、このように終わっている」と評している。

 ▽「融和を目指す大統領に」

 トランプ氏が、都合が悪くなると平気で手のひらを返す相手は自身の支持者も例外ではない。トランプ氏は昨年の大統領選での候補者討論会で、自身を支持する極右の過激派組織「プラウドボーイズ」に対して「下がって待機せよ」と指示。大統領選に敗れると「選挙が盗まれた」などと根拠もなく主張して激高し、昨年12月19日に短文投稿サイト「ツイッター」で「1月6日午前11時にワシントンで大規模抗議デモだ。来てくれ。荒れたものになるぞ!」と書き込むなど、投稿を繰り返して扇動した。

 今年1月3日には、デモ参加者を運ぶバスツアーを「誇りを持って君たちを支える」と鼓舞した。トランプ氏の意図通りに自身を支持する暴徒たちが議事堂を襲撃してガラスを割るなど破壊し、占拠するテロ行為で5人の死者が出る惨事が起きると、暴徒たちをいったんは「偉大な愛国者」と称賛した。ところが、政界や世論からの激しい非難を受けると「私の真の支持者は政治的暴力を支持することは決してない」と主張し、自身が煽った暴力と破壊行為で命を落としたり、逮捕されたりした暴徒たちを裏切った。


6日、米ワシントンの連邦議会議事堂で警察官のフェンスを突破しようとするトランプ氏の支持者ら(AP=共同)

 バイデン氏がアムトラック通勤で深めた家族の絆。この点でも2度の離婚歴を持ち、親族内で対立しているトランプ氏は対照的だ。トランプ氏のめいで、臨床心理学者のメアリー・トラ ンプ氏は「トランプ氏が大統領を2期務めれば米国の民主主義は終わりだ」と危機感を抱き、暴露本『トゥー・マッチ・アンド・ネバー・イナフ』(日本語訳:『世界で最も危険な男』、小学館)を昨年出版した。著書でトランプ氏について「3歳のときと変わらない。成長したり、学んだり、進化したりすることは見込 めず、感情をコントロールすることも、反応を抑制することも、情報を取り入れてそれをまとめることもできない」「ナルシシズムの域をはるかに超えている」といった人間性のゆがみを指摘している。メアリー氏は、トランプ氏が大統領となったことで「民主主義と人々の人生が破壊されている」と悲嘆に暮れたが、この記述はまるで今年1月6日の議事堂襲撃を予告していたかのようだ。

 石油・石炭産業を後押しするトランプ政権下で温暖化対策は後手に回り、新型コロナウイルスの感染防止策が遅れたため死者数、感染者数ともに世界最多となった。マスクを着用せず、軽視したトランプ氏自身も感染した。また、警察官による黒人への銃撃事件に端を発する抗議デモをトランプ氏は「破壊行為」「国内テロ」などと批判したのに対し、議事堂を襲撃した自身の支持者をいったんは「偉大な愛国者」と称賛した。“化石頭”で差別的な前大統領が残した米国の爪痕は深く、人種間および思想的な「分断」は深刻だ。

 バイデン氏は2050年までに二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、昨年11月7日の勝利演説で「分断ではなく、融和を目指す大統領になることを誓う」と宣言した。長年の電車通勤で信望を集め、温暖化防止の観点を含めた鉄道の重要性を熟知している新大統領に与えられた使命は大きい。

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