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都心駅通過に追い込まれたワシントンの地下鉄

47NEWS / 2021年2月19日 11時0分

川崎重工業が製造したワシントンメトロの主力車両7000系=1月22日、メリーランド州で著者撮影

【汐留鉄道倶楽部】「スキピング・ネクスト・ストップ(次の駅を通過します)」。米国の首都ワシントンの連邦議会議事堂でジョー・バイデン大統領の就任式が開かれた1月20日、近くを走る地下鉄「ワシントンメトロ」の車内でそんな放送が流れ、都心部の駅を次々と飛ばした。ワシントンメトロは各駅停車しか通常運行していないが、就任式の前週の1月15日から式典翌日の21日まで1週間にわたって異例の“快速運転”に追い込まれた。

 地下鉄を運営するワシントン首都圏交通局(WMATA)は理由を「保安のため」とだけ説明したが、ドナルド・トランプ前大統領に扇動された支持者が1月6日に議事堂を襲撃し、5人が死亡した事件が引き金となったのは間違いない。私も就任式前に関係筋から「米国当局は襲撃事件を受けて神経をとがらせており、トランプ支持者が再びワシントンに結集して激しい抗議デモをするとの情報もあるため、超厳戒態勢を敷くそうだ」との情報を入手した。実際、就任式の前後にはワシントン中心部の多くの道路が封鎖され、ワシントンメトロの異例な対応にとどまらず、近郊と結ぶ二つの鉄道は運休し、全米鉄道旅客公社(アムトラック)も一部区間で運転を取りやめるという超厳戒態勢となった。

 ワシントンメトロが「都心駅飛ばし」をした就任式前日の1月19日、六つある路線の一つのレッドラインに乗り込んだ。ワシントンと隣接するメリーランド州の閑静な住宅街を結んでおり、私の家も沿線にある。最寄り駅のプラットホームに滑り込んだグレンモント行きの電車は、2014年に運行が始まり、今や主力車両となった川崎重工業製のステンレス製車両7000系だ。

 ワシントンのデュポンサークル駅で扉が開いた後、車内のスピーカーから男性の声が響いた。「この列車は、次はノーマ・ギャローデット大学に止まります」。デュポンサークルの先の5駅を通過することを意味し、これらはいずれもワシントンの代表的な場所にある。

 出発後、次の駅がファラガッドノースなのを伝える車内放送の代わりに「スキピング・ネクスト・ストップ」という声が流れた。通過した駅は米海軍大将だったデビッド・ファラガット(1801~70年)の銅像が建つファラガット・スクエアの北にあり、1月20日にバイデン氏が新たな住人となったホワイトハウスからも近い。

 次に通過したメトロセンター駅にはワシントンメトロのうち計4路線が乗り入れており、私の職場の共同通信ワシントン支局の最寄り駅だ。通勤の際に電車が当たり前のように停車し、乗り降りしている駅を通り過ぎるのは不思議な感覚だ。

 続いて中華街に近いギャラリープレイス・チャイナタウン駅、近くに裁判所がある「司法広場」ことジュディシャリースクエア駅を通り過ぎた。電車は申し訳なさそうに速度を落とすと、次の駅のプラットホームも駆け抜けた。アムトラックや近郊と結ぶ鉄道が発着するワシントンの玄関口、ユニオン駅だ。


大統領就任式が開かれた連邦議会議事堂への道路は、式典から2日後も封鎖されたままだった=1月22日、ワシントンで著者撮影

 「スキピング」という声を繰り返し聞いていると、昨年12月の着任時にニューヨーク支局時代の同僚が送ってくれたメールの文面が脳裏に浮かんだ。私はバイデン氏が副大統領だったバラク・オバマ政権下の2013年8月から3年余りニューヨーク支局に駐在して日本に戻り、トランプ政権の終焉(しゅうえん)約1カ月前に再び米国に足を踏み入れた。

 トランプ時代をほぼ“スキップ”した私に対し、同僚は「トランプ政権の終了とともに米国に戻ってくることができてラッキーですね。4年間の暗黒時代を経て、やっと希望が見えてきました」とつづった。私は膝を打ち、「米国在住の友人たちも次の4年間に希望を持っていると話していました。新型コロナウイルス禍は依然厳しいものの、光明が見えることを願っています」と返信した。

  トランプ氏は移民問題を巡ってメキシコ人を「犯罪者」と決め付けるなど差別的な言動を繰り返し、米国の人種間や思想の“分断”は深刻化。昨年11月の大統領選でバイデン氏に敗れると「選挙が盗まれた」と根拠もなく主張し、自身の意図通りに議事堂を襲撃した支持者を「偉大な愛国者」と称賛した。常軌を逸しているとしか言いようがない。

 暗闇に包まれた地下を走る電車内で「暗黒時代だった」と呼ぶべきカオスに満ちたトランプ政権を振り返っていると、電車は地上に出てノーマ・ギャローデット大学駅のホームに滑り込んだ。

 暗闇から抜け出して車内に差し込んだ一筋の光は、まるでバイデン政権下の米国を占っているように思えた。バイデン氏は背に受けた期待の中身を熟知しているとばかりに、就任式でこう力強く呼び掛けた。「みんなで一緒に米国の物語を書こう。恐怖ではなく希望の物語を。分断ではなく連帯、暗闇ではなく光の物語を。品性と尊厳、愛と癒やし、偉大で善良な物語を」

 バイデン氏が掲げた「物語」を実感できる米国社会が一刻も早く訪れることを強く願う。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信ワシントン支局次長。小学生だった1980年代前半にメリーランド州に住んでいたため、「第二の故郷」に帰郷した感覚です。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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