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「核の明暗」分岐点、日本の道は? 揺れる被爆国、超大国が抗えぬ貢献策も

47NEWS / 2021年3月31日 7時0分

サーロー節子さん(共同)

 「人類に破滅をもたらす非人道兵器」「全面戦争を防ぐ抑止の力」―。明と暗の対照が際立つ核兵器は、その開発、保有、使用や使用の威嚇が、今年1月に発効した核兵器禁止条約により違法化された。広島、長崎の被爆者らは核兵器を全面的に否定する初の国際法規の誕生を歓迎する。ただ、122カ国・地域の賛成で採択された条約を無視すると公言する米ロなどの核保有五大国は、国連安全保障理事会の常任理事国で拒否権も持ち、国際社会の「民意」で縛ることが簡単ではない存在でもある。主要国政府が安保の要と位置付ける核兵器のくびきが深く食い込んだ国際社会。唯一の被爆国である日本も条約不参加だが、年末にも開催される核禁止条約締約国の初会合にオブザーバー参加を求める声も高まる。核軍拡の影が深まる中、日本が負った責務と進むべき道とは。日米3人の識者が語る。(共同通信=黒崎正也、新里環)

 ▽締約国会議に出席を(①カナダ在住の広島の被爆者サーロー節子さん)

 ―1月22日に核兵器禁止条約が発効した。

 歴史的瞬間で、天にも昇る気持ちだ。原爆で亡くなった広島、長崎の大勢の方々が導いてくれているように感じる。核兵器開発のために苦しめられた人々は世界各地にたくさんいる。そういった方々とも喜びを分かち合いたい。

 ―日本政府は条約に関与する姿勢を見せない。

 (「核の傘」を提供する)米国に追随するばかりで、人道的、道徳的な見地からの責任感が全くない。被爆者が訴え続け、大勢の国民が求める核兵器廃絶への願いを無視し続けている。この現状は民主主義国家として無責任で恥ずべきことだ。「日本は世界の反核運動を主導している」と国内では言いながら、国際会議での発言は全く違う。平気でうそをつき続け、国際社会からの信頼も失っている。

 日本だからこそ言えることがある。米国追従の現状から脱して、国際社会にユニークな貢献をすることを目指すべきだ。たとえオブザーバーであっても、締約国会議に出ればより身近な形で議論に触れることができる。日本政府には国民と共にしっかりと議論した上で、批准する決断をしてほしい。

 ―バイデン米新政権は核軍縮に積極的姿勢を取る。

 期待感はある。核政策がすぐに変わるとは思わないが、対話ができる相手だ。トランプ前大統領は話ができる相手ではなかった。

 ―核兵器保有国は条約に反対している。

 核廃絶の責任は核保有国にあるが、廃絶への努力は全く見られない。国際的な議論もこれまで自分たちの都合が良いように進めてきたが、その態度に多くの国が怒りを抱いている。この条約をつくる過程では「もう核保有国の思い通りにはさせない」という熱意を多くの人々から感じた。一方で、核保有国と共に働かなければ条約の目的は達成できないという面もある。廃絶までの道のりは長い。

 若い方々には「あなた方の将来を確保するために自らの体験を伝え続けてきた」と言いたい。人ごとではなく、自分の問題だと認識してほしい。

 サーロー節子さん 32年1月、広島市生まれ。13歳で被爆。原爆で姉や4歳のおい、同級生のほとんどを失った。トロント大大学院修了。55年にカナダ人と結婚し同国に移住。英語で被爆証言を続けている。

  ×  ×  ×

 ▽バイデン政権も核禁止には厳しい姿勢(②カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長)


ジョージ・パーコビッチ氏(カーネギー国際平和財団提供・共同)

 ―核禁止条約により、核兵器が違法化された。

 核兵器保有国が核軍縮への歩みを止めてしまったと多くの国が感じ、いら立ちを募らせている現状を反映している。世界の大半の国は核抑止力から何の利益も得ていないが、核戦争が起きれば誰もが犠牲者になり得る。核保有国の「人質」のようで不公平だと不満を感じている。

 条約参加国の関心は、核保有国に対し核兵器削減への道徳的、政治的な圧力を強めることにある。一方で、実際には核兵器削減を強要できないことも理解している。核拡散防止条約(NPT)の下で核兵器を保有する米英仏ロ中の5カ国は、国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国でもある。国際的制裁からも身を守ることが可能で、誰も削減を強制できない。

 ―バイデン米新政権は核政策を転換させる方針だ。

 個人的には、米国は核禁止条約の支持国と建設的に意見を交わす姿勢を持つべきだと思うが、実際には難しいだろう。重要な同盟国のフランスなどは、米国が条約に関与することを快く思わない。ロシアも同様だ。もしどの国も核兵器を持たなければ(通常戦力で圧倒する)米国に有利になるからだ。「核兵器なき世界」を目指すプラハ演説を行ったオバマ政権でさえ、条約成立に向け取り組んでいた国々には厳しい姿勢で臨んでいた。

 ―日本政府は条約に距離を取っている。

 締約国会議にオブザーバーとして参加することも難しいのではないか。今は条約支持国と核保有国の間には共通点がほとんどなく、中道の立ち位置は想定できない。日本政府は、核の傘を提供する米国と、核廃絶を求める多くの国民の双方を同時に満足させようとしているが、それは非常に困難だ。

 ―ベルギーなど北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の一部で、条約に肯定的な動きも出始めている。

 興味深いが、難しい問題もはらんでいる。核抑止力を根幹とするNATOの加盟国が、条約に参加できるのかどうかという問題だ。私が条約を読む限り、NATOに加盟しながら条約に参加することは難しいように思える。

 ジョージ・パーコビッチ氏 米バージニア大で博士号取得。89~90年、上院議員時代のバイデン大統領の政策顧問とスピーチライターなどを務めた後、カーネギー国際平和財団入り。専門は核戦略や核不拡散。

  ×  ×  ×

 ▽安保と一線、核兵器被害救済で貢献を(③長崎大・核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎副センター長)


鈴木達治郎氏(本人提供)

 ―核兵器禁止条約は、人道的な側面が柱となっているのが大きな特徴。

 国家の安全保障を要とする核拡散防止条約(NPT)とは違い、核禁止条約は、核兵器が持つ非人道性から全人類を守るというコンセプトでできている。そのため、対人地雷やクラスター(集束)弾の禁止条約と同じように、第6条で全締約国に自国の核被害者の救済と汚染された環境の修復を義務付けている。

 ―大国の核実験で被害を受けたような国であっても、自ら国民や環境を守る責任がある。

 国際人権法に基づく条約なので、加害者だけでなく全ての国が救済の責任を負うという発想でできている。ただ、締約国には原子力技術がない国や途上国が多く、救済したくても必ずしもノウハウや財源がない。核保有国が核禁止条約に反対する中、日本が条約に加わり救済に貢献することへの期待は大きい。

 核禁止条約の条文は、具体的な支援方法までは示していない。核被害者や環境汚染をどう定義付け、何をもって救済・回復と判断するかは、今後の締約国会議での課題となるだろう。支援条件を定めるのは難しく、ここで日本の経験が生きてくる。

 ―日本は具体的にどう貢献できるか。

 日本ほど被害者の救済制度が整っている国はない。被爆者援護法で、爆心地からの距離や被爆状況により被爆者と認定されれば医療費が無料になるなど、原爆被害者による国への長年の陳情や法廷闘争で支援が拡充されてきた。

 放射線被害の治療経験もあり、旧ソ連時代の核実験で放射線による健康被害が指摘されているカザフスタンで、医療支援をしてきた。東京電力福島第1原発事故での除染作業の実績もある。

 核禁止条約に反対する米国などの核保有国でさえ核の非人道性は否定しておらず、人道的側面からの条約への支援は反対しづらい。

 ―条約は、核の危険性への意識を高めることの重要性にも触れている。

 この点でも核廃絶を訴えてきた日本政府の貢献が求められる。広島、長崎の被爆の実態を世界に伝えることは被爆国としての大きな責務だ。条約の精神にのっとり、加盟国と共に軍縮教育を推進すれば、大きな信頼を得られる。人道的側面での協力を進めなければ、被爆国としての世界的な地位が損なわれる。

 ―日本政府は、核兵器を直ちに禁止することについて、安全保障の観点が欠けているとして反対している。

 日本が目指す核廃絶を達成する上で、核兵器の非人道性と核禁止条約は否定できない。すぐに批准できなくてもオブザーバーとして参加し、核被害への援助や軍縮教育を担うべきだ。国民は支持するだろう。

 ―日本が参加するメリットは何か。オブザーバーでも運営資金を負担することになるが、核保有国の反発を招かないか。

 日本政府は、核保有国と非保有国の「橋渡し」をすると主張しているが、人道的側面から条約を支援することこそが具体的な方策となる。核抑止力の議論とは関係がないため、核保有国からの批判を避けながら非保有国との間で立ち回ることができる。

 日本の参加は、日本に「核の傘」を差し掛けている米国にとって不快なため外交努力を要するが、日米関係はこれくらいで崩れるものではない。日本がこれまで訴えてきた人道性の分野で条約の加盟国と協力することは、非常に説得力がある。

 ―米国などが不参加のままでは、実効性に欠けるとの指摘もある。橋渡し役を自任する日本に期待することは。

 いますぐに禁止できなくても、核兵器は二度と使ってはいけないという規範を強化すべきだ。そのためにも、日本が核兵器の先制不使用を支持し、非保有国には核攻撃をしないと約束する「消極的安全保証」を保有国に強調させる。双方が納得できる核軍縮議論を日本が打ち出せば、真の橋渡し役としての役割が果たせる。

 鈴木達治郎氏 1951年大阪府出身。東大で博士号(工学)。長崎大教授。専門は核軍縮・不拡散。原子力委員会委員長代理などを歴任。

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