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LGBT向け介護・福祉が登場 当事者起業「安心して利用を」

47NEWS / 2021年7月15日 10時0分

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性が視線入力でコミュニケーションを取るのを介助する佐藤悠祐さん=5月19日、東京都内(訪問介護事業所SAISON提供

 LGBTなどの性的少数者は人口の8~10%いるとされる。高齢者や障害者も例外ではない。本人が隠しているだけで、表面化していないケースは相当数あるとみられる。生きづらさを抱えているはずで、安心して福祉サービスを利用できるようにしたい―。こんな思いからLGBTの当事者が起業した介護や障害福祉の事業所が生まれつつある。(共同通信=市川亨)

 ▽自分が年を取ったら

 「僕が年を取って介護を受けるとき、今の状況では自分らしく生きられないだろうな、と思って」。出生時の身体的性別と自認する性が一致しないトランスジェンダーで、戸籍を男性に変更した佐藤悠祐さん(29)は昨年、東京都八王子市で障害者への訪問介護事業所「SAISON」を始めた。

 性的少数者を支援するNPO法人「Startline.net」を2015年に設立した佐藤さん。高校卒業後、専門学校で介護福祉士の資格を取ったが、LGBTの人権や接し方に関する授業はなかった。介護や福祉の現場では、意外とLGBTへの理解が進んでおらず、差別的な言葉が交わされることもある。そんな環境を変えたいと、以前勤めていた介護事業所を辞め、自ら開業した。


取材に答える佐藤悠祐さん=6月9日、東京都八王子市

 障害者向けの訪問介護を選んだのは、自宅で暮らす重度障害者や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など難病の人へのサービスが圧倒的に不足しているから。広く利用を受け付けており、現在の利用者20人弱の中にはLGBTの人はいない。

 事故で全身まひの障害を負った八王子市内の佐々木良子さん(50)は週2回、佐藤さんから介護を受ける。「トランスジェンダーだからって、何も気にならない。私の意向をよく酌んで真摯しんし(しんし)にケアしてくれる」と感謝する。

 「年内には高齢者への介護保険サービスも始めたい」と佐藤さん。LGBTの雇用を創出したいとの思いもある。従業員でやはり戸籍を男性に変更したトランスジェンダーの介護福祉士荒川優希さん(26)は「利用者との関わり方や自分の悩みを職場で相談しやすいので、心持ちがだいぶ楽」と、働きやすさを感じている。

 ▽同性愛の雑誌が

 大阪市西成区で「にじいろケアプランセンター」を15年から経営するケアマネジャー、梅田政宏さん(55)はゲイ。西成区にある日本最大級の日雇い労働者の街「あいりん地区」で簡易宿泊所などに身を寄せる高齢男性を中心に約100人と介護サービスの利用計画作りを契約している。現在利用中の人を含め5人のLGBTを支援してきた。


自身が起業した「にじいろケアプランセンター」運営会社の事務所前で話す梅田政宏さん=6月29日、大阪市

 「訪問介護に行ったら、同性愛の雑誌があった」「亡くなった高齢者に実は同性のパートナーがいた」。こんな相談が他の事業所から舞い込む。「当事者はなかなかカミングアウトしづらい。僕が間に入ることでサービスを受けやすくなれば」と話す。

 周辺ではLGBTに理解のあるデイサービスや訪問看護事業所も出てきた。「ニーズはあるはずで、もっと広がってほしい」と訴える。

 ▽共同生活でいづらく

 「既存の福祉施設がLGBTフレンドリーになっていないため、当事者は『自分が利用できる福祉サービスはない』と思い込んで、SOSを出さない傾向がある」。そう指摘するのは、ゲイを公表している東京都文京区の前田邦博・元区議(55)。

 LGBTであることを家族に言えなかったり、いじめや差別を受けたりした結果、孤立や貧困といった負のスパイラルに陥り、住まいを失う人もいる。ところが、公的な一時保護施設は男女で分かれ、自認する性では利用できなかったり、共同生活のためいづらくなったりして、路上やネットカフェで生活するケースが出ている。

 前田さんが生活困窮者支援団体のメンバーらと共につくる「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」は、マンション2戸を緊急避難的に使える個室シェルターとして運営。「必要な人にまだまだ情報が届いていない」と、周知に力を入れる。

 ▽分野横断の懸け橋に

 生まれつき発達障害だったり、生きづらさからうつ病など精神疾患にかかったりして、二重の困難に直面するケースも少なくない。

 「LGBTというだけでも仕事を探すのは難しいのに、精神疾患もあるとなるとさらに困難」「障害者向けの就労支援サービスは性的少数者のことを想定していない」。LGBTに関する教育や啓発活動に取り組む認定NPO法人「ReBit(リビット)」にはこうした悩みが寄せられる。

 代表理事の薬師実芳さん(31)も、男性として生きるトランスジェンダーで注意欠陥多動性障害(ADHD)の当事者。大卒で就職したが、障害の特性を理解してもらえず、精神面の調子を崩して半年で退職した。


精神・発達障害のあるLGBTの人向けに就労移行支援事業所の開設を予定している薬師実芳さん=6月8日、東京都新宿区

 LGBTと障害の両方に対応できる相談機関はほとんどなく、就職活動の際には隠す人が大半だ。薬師さんは「複合的なマイノリティーの人が安心して働けるよう、LGBT支援と障害福祉の懸け橋になりたい」と、8月に東京・新宿に就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」を開く。

 自己肯定感を持てるよう精神面のサポートをするほか、連携先の企業で働く当事者に話を聞く機会を設ける考えだ。開設費用に充てるため、7月28日までホームページでクラウドファンディングに取り組んでいる。

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