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我が子の命奪ってしまった罪、どう償えばいい 知的障害の娘を見守り続ける母親が社会に望むもの 乳児窒息死事件

47NEWS / 2021年10月13日 7時0分

裁判で尋ねられていることがよくわからないと母親に打ち明けている手紙の一部(画像の一部を加工しています)

 北海道南部にある就労支援施設で2020年3月に起きた乳児窒息死事件。殺人罪で逮捕、起訴された、乳児を産み落とした被告の裁判員裁判は21年1月、函館地裁201号法廷で始まった。

 5日間の公判の結果は懲役3年の実刑判決だった。だが、知的障害がある被告は一度に複数のことを聞かれると分からなくなってしまうこともあり、自分の考えをうまく言葉にするのも得意とは言えない。推定精神年齢は8、9歳とされる。筆者が傍聴していても、裁かれる意味を十分に理解できていないようにみえた。

 このまま刑務所に入ったとして、本当の意味で罪の重さを知り、そして償えるのか。疑問に思った母親は控訴を決めた。(2回続きの下、共同通信=下道佳織)


裁判員裁判が開かれた函館地裁

 ▽短いやりとり、沈黙も

 「何を決める裁判か分かりますか」「ちょっと分からないです」。黒いスエットにグレーのジャージーを履いた31歳のまゆみさん(仮名)は、被告人質問でうつむきながら、マイクに向かってか細い声で話した。弁護人や検察官、裁判官からの質問には「うん」「はい」など短い言葉ばかり。時には検察官の質問に沈黙する場面もあった。

 ―赤ちゃんを便器の穴に押して、見えなくなるようにしたかったのかな?

 (沈黙)

 ―質問の意味分かる?

 はい。(沈黙)

 ―違う質問をするね。赤ちゃんを押すことで、他の人に見つからないようにしたかったということかな。職員さんに見つからないようにしたいという気持ちはなかったのかな。

 (長い沈黙)

 ―便器に赤ちゃんを押し込んだらどこに行くと思う?

 トイレのタンクの中。

 ―トイレのタンクに赤ちゃん入るとどうなると思う?

 死んじゃうと思う。

 ―どうして?

 息とかできなくなる。

 ―なんで息できなくなっちゃうかな?

 (沈黙)

 ―赤ちゃんのお母さんはまゆみさん?

 はい。

 ―本当は赤ちゃんを守らなければならなかったのを分かっている?

 はい。

 ―赤ちゃんを死なせたのは分かる?

 はい。

 ―赤ちゃんの死ぬ時の気持ちを考えた?

 なかった。

 ―どうしたら赤ちゃんを死なせずにすんだと思う?

 お母さんとかに言っていれば。

 被告人質問は2日間行われた。弁護人は検察側の質問が終わった後、追加で質問した。

 ―質問の意味分かった?

 はい。

 ―うまく答えられなかったのあった?

 少しだけ。

 ―分からなかったけど「うん」と言ったのはありますか。

 (沈黙)

 ―分からないかな。

 はい。

 毎回傍聴していた母親(53)は、質問を理解していないと思った。

 まゆみさんは目で見たことを理解するのに比べると、耳で聞いたことを理解することが苦手だ。一度に複数のことを聞かれると分からなくなってしまうこともある。自分の考えを言葉にするのも上手ではない。

 裁判が始まるまで、母親は裁判関係者に「分かりやすい質問を心掛けてほしい」と訴えていた。だが、実際に傍聴してみると「娘の障害を理解してないんだな」と感じる質問ばかりに思えた。まゆみさんは、分からない質問でも「はい」と答え、分かったふりをしているように見えた。求刑後、まゆみさんから届いた手紙には「倹事さんの言っている事は、言葉がむずかしくていまいちよくわからない(原文ママ)」と書かれていた。

 弁護側は、事件当時の被告は心神喪失あるいは心神耗弱で殺意はなかったとし無罪を求めていた。函館地裁は1月末、完全責任能力と殺意があったことを認め、懲役3年(求刑懲役5年)の実刑判決を言い渡した。妊娠に気付けなかったのは精神遅滞や性教育を受ける機会の乏しさが影響し、出産の動揺も大きかったとして刑を減軽、殺人の法定刑5年を下回った。


乳児の位牌に手を合わせるまゆみさんの母親

 ▽「まゆ」に込めた思い

 一審判決後、母親は自宅で共同通信の取材に応じた。まゆみさんはおいっ子をかわいがり、小さな動物をたたいたこともない。「突然の出産に驚き、押し込んでしまったのだと思う」と訴えた。

 もちろん、小さな命を奪った娘の行為は許されない。

 母親はこれまで週に一度面会に通った。そこで何度も、まゆみさんが拘置所にいる間に赤ちゃんの遺体を小さなひつぎに入れて火葬したことを話した。事件のことも繰り返し説明し、犯した罪を理解してもらおうとした。

 死なせてしまった赤ちゃんのことを忘れないようにと、亡くなった赤ちゃんに「まゆ」と名付けた。「火葬から納骨まで見せれば、自分の罪の重さが分かったと思う。ちゃんと教えたかった」と悔やむ。

 裁判をきちんと理解できていない娘が刑務所に3年間入ったとしても、心から償えるのか―。周囲のサポートも受け、母親は控訴を決断した。

 6月3日、控訴審判決で札幌高裁は「4時間以上もトイレの個室にこもって独力で出産したことが異常な行動」「交際相手の求めに応じるがまま避妊せずに性交を繰り返した結果妊娠し、中絶する機会も与えられないまま突然出産する事態に直面したという意味では被害者としての側面もある」と指摘。事件当時は責任能力が限定され、確定的な殺意は認められないとして懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。

 まゆみさんはこの日に拘置所を出た。収監されてから、約1年が経過していた。


札幌高裁=2019年撮影

 ▽まゆちゃんとともに

 まゆみさんは実家に帰宅した翌日、住職から改めて事件のこと、亡くなったまゆちゃんの話を聞いた。

 毎朝ご飯とミルク、おもちゃをまゆちゃんの位牌の前にお供えし、そして、母親がまゆちゃんの代わりにと買ったぬいぐるみと一緒に寝ているという。毎日、ノートに「天国に行ってやすらいで下さいひどい事して本当にごめんね(原文ママ)」など、まゆちゃんへの思いをつづっている。


まゆみさんが反省の言葉をつづったノート(画像の一部を加工しています)

 6月末、まゆみさんは住み慣れた寮に戻った。引き続き就労支援施設に通い、調理作業に励みながら調理師の資格習得を目指す。

 母親は、週に一度まゆみさんの寮に行き見守り続けている。事件のことは根気強く話していくという。妊娠させた男性には一度会って話したいが、住所も電話番号も分かっていない。

 やりきれなさはあるが「二度と同じ悲劇が起こらないよう、事件のことを伝えていきたい。障害者への理解が進み、いつか障害者という言葉がない社会になってほしい」と話した。(終わり)

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