なぜ?ツムラが生理痛を可視化するベイントを中止判断…当事者の“我慢”を分かり合う難しさ
オールアバウト / 2024年11月29日 22時5分
ツムラが、開催予定だった体験型イベントを中止すると発表した。当事者からの声を踏まえての判断だという。生理痛やPMSを我慢する女性たちは、日ごろどんな苦しみを抱えているのだろう。
漢方薬品メーカーのツムラが、11月29日から都内で開催予定だった体験型ポップアップイベント『ちょっと生理いま邪魔しないでよプリ』の中止を発表した。
「企画に対するご意見」で中止の判断
同社は公式Webサイトの中で、「生理痛やPMSに対するご自身の経験を踏まえたお声や、企画に対するご意見を頂戴し、協議の上、中止する判断に至りました」と報告している。生理痛・PMS(月経前症候群)などの症状によるつらさを可視化したキャラクターがモーション付きで写りこむプリ機(プリントシール機)の体験型ポップアップイベントで、生理痛の可視化という興味深い観点でのイベントだっただけに、いったいどうして中止になったのか、SNSではさまざまな声が寄せられている。
生理に関しては、女性同士の間でも分かり合えないところが多々ある。まして男性にはもっと分からない。それを可視化し、男女問わず話し合っていける機会を失ったのは残念だ。
私は……生理による体調変化にビクビクしながら生きてきた
「私は生理痛がひどいんです。時には1日寝込むほど。婦人科でピルを処方してもらったこともあるんですが、体に合わなかったみたいで服用をやめました。頭痛、めまい、腹痛はもちろん、食欲もなくなるし起き上がれなくなることも。いつもそうではないだけに、今月はどうなるんだろうとビクビクしながら生きてきました」マサヨさん(28歳)はそう言う。社会人として、時に仕事に支障を来すこともあるため、毎回、痛み止めなどの薬で対処するしかないという。特に婦人科系の病気にはかかっていないのは分かっているから、余計に根本的治療がない。
「昔から母親に『生理は病気じゃないんだから、つらそうな顔をしてはいけない。他人に、生理中だと分かられてしまうのは女性として恥ずかしいこと』としつけられたんですよ。だから女友達に言うのさえはばかられて、いつも平気なふりをしていました」
「生理は人に悟られてはいけない」ものと教わった
だが、今の会社では女性社員が多いこともあり、生理の話はごく普通の日常会話となっている。中には「もうダメだ、今日はつらい。誰かこの仕事代わって。ランチ奢(おご)るから」とあっけらかんと頼む女性もいるという。「あれ、言っていいんだと目からうろこでしたね。私もつらいのと言ったら、いい病院紹介するよと言ってくれる人もいて。私だけじゃないんだと分かったことで、少し気が楽になった。紹介してもらった病院でも漢方などを処方してもらって、最近は前ほどひどくはなくなりました」
それでも中には「生理ごときで……」という目で見る同性がいないわけではないと、彼女は社内事情を語る。
出世した女性役員から「生理痛なんてことを言ってたら仕事できないでしょ」と叱責(しっせき)された先輩もいる。いまだにそういう思考回路を持つ人がいるのも事実なのだ。
僕は……彼女のPMSを分かったふりをするしかない
付き合って4年、一緒に住んで2年になる同世代の恋人・ユミさんがいるタケトさん(36歳)。2人とも仕事優先で暮らしているが、普段のユミさんは明るくて、あまり感情的にならないタイプだから話が弾むという。
「ところが月に数日、彼女が極端に不機嫌になる時期がある。僕はそれが生理中なのかと思っていたら、生理前なんだそうです。どんより暗くて、何を言ってもあまり笑ってくれないし、何でも投げやりなんですよ。おいしいパスタでも食べに行こうよと誘っても、普段なら『行く。どこどこ?』と乗ってくる彼女は『うーん』と言うだけ」
半年ほど前、PMSについてもっと話してほしいとタケトさんはユミさんに頼んだ。どういう状況なのか、どういう気分になるのか。ユミさんはぽつりぽつりと話してくれた。頭では理解できても、もちろん心身ともに分かったとは言いがたい。
「でも彼女は、分かってくれるよねという感じだったので、分かったと言うしかなくて。実感として分からなくても、理解はしたつもり……だったんですが」
「PMSによる八つ当たり」としか思えない彼女の言動
タケトさんに分かってもらえたという安心感からなのか、彼女はその時期、彼に自分のイライラをぶつけてくるようになった。以前は我慢していたのだろう。それも分かったから、受け止めようとは思ったが、「PMSによる八つ当たり」にしか思えないことも増えてきた。
「家事を全部押しつけられます。この時とばかりに網戸掃除までやらされる。まだいいんじゃないのと言うと、『今すぐやって! 汚れているのが耐えられない』って。なんだかPMSをいいことに甘え過ぎじゃないの?ということが多くなった。
仕事が立て込んで残業しているのに『プリン食べたい。どこそこのプリンじゃないとダメ。買ってきて』とLINEがくる。かなりイラッときますよ」
生理が来れば、そんなことがあったのを忘れたかのように普段の彼女に戻る。あんなにいろいろ命令してくるのはちょっときついとタケトさんが言ったら、「そんなこと言ったっけ」と覚えていない様子。
「医者にPMSのこと相談してみたら?」と言っても、ずっとこうやってきたのだから大丈夫と言う。
「多分、以前からずっと我慢してきて、初めて僕が分かってくれた人だと言っていたから甘えているのかもしれませんが、僕にも我慢の限界というものはあるんですよね」
タケトさんの表情がどんより曇っていた。
もちろん、生理は10人いれば10人とも症状が違う。生理痛で苦しむ人がいる一方、「うっとうしいだけでほぼ痛みはない」という人もいる。PMSも同様だ。
他人が理解するのは難しいが、振り幅広くさまざまな人がいるということだけは忘れてはならない。恋人や友人と、もっとオープンに話せるようになればいいのだが。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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