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「突然の中止」「空席ガラガラ」なイベントはなぜ発生する? 増え続けるK-POPアワードの“厳しい現実”

オールアバウト / 2024年12月14日 18時15分

「突然の中止」「空席ガラガラ」なイベントはなぜ発生する? 増え続けるK-POPアワードの“厳しい現実”

さまざまなアーティストが一堂に会するK-POPアワード。1度に多くのアーティストが見られるメリットがある一方で、チケット代の高騰やアワードの乱立に対する懸念の声も上がっています。その背景とは……。

M世代の韓国エンタメウォッチャー・K-POPゆりこと、K-POPファンのZ世代編集者が韓国のアイドル事情や気になったニュースについてゆるっと本音で語る【K-POPゆりこの沼る韓国エンタメトーク】。韓国エンタメ初心者からベテランまで、これを読めば韓国エンタメに“沼る”こと間違いなし!
K-POPゆりことZ世代編集者がゆるっとトーク
今回のテーマはK-POPアワードや大型イベントについて。1度に多くのアーティストを見られるというメリットがある反面、チケット代の高騰やアワードの乱立に対する懸念の声も上がっています。時には「突然の中止」「空席でガラガラ」というケースも発生。その背景についても取り上げます。

なぜ韓国ではなく海外、それも日本なのか

編集担当・矢野(以下、矢野):「MAMA AWARDS(以下、MAMA)」など、長年続くK-POPの代表的な年末アワードが日本で開催されるのって……改めて考えるとすごいことですよね。 なぜ韓国ではなく海外、それも日本なのか気になります。

ゆりこ:2000年代のMAMAの前身となるアワードは韓国でしたが、2010年代は主に香港で開催していました。意外でしょう。

矢野:なぜ香港? という感じですね。日本よりもK-POP市場が大きいとも思えません。

ゆりこ:理由は2つあるといわれています。まずは「アジア規模のお祭りである」というブランディングのため。MAMAとはMnet ASIAN MUSIC AWARDSの略称です。前身となるアワードには「ASIAN」というワードが入っていませんでしたが、2009年に改名した際に加わりました。2009年といえば東方神起やBIGBANG、少女時代など第2世代の全盛期です。

矢野:ちょうどK-POPが日本をはじめとするアジア圏で爆発的に売れ出したタイミングとも重なる。

ゆりこ:そうなんです。そしてなぜ香港だったのかについては、一説としてチャイナマネー獲得を目的としていたとも。

矢野:中華圏のスポンサー……莫大なお金がチラつきます。そこからなぜ日本へ? という疑問。

K-POPの大型イベント会場として「日本」が選ばれる理由

ゆりこ:2016年の中国による「限韓令(※1)」の影響も少なからずあったのではないでしょうか。2016年はまだ香港開催ですが、メインスポンサーから中国企業が外れました。2017年も一部香港で開催されていますが、同時にベトナム、日本でも開催し始めたんです。振り返ると“脱・中華圏”が始まっていました。2022年からは日本での開催が続いています。(※2)

※1:2016年に韓国と米国の在韓米軍THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に対して中国政府が「報復措置」の一環として行ったといわれている韓国関連の取引を制限するもの(中国政府は認めていない)
※2:2024年はアメリカ・LAでも実施

矢野:香港や中国の情勢や政治は先が読めない部分も大きい。一方日本はK-POP人気も強固で安定していますし、なんといっても音楽の一大市場です。

ゆりこ:冒頭のご質問「なぜ韓国ではなく日本なのか」の答えも、そこにあると思います。チャイナマネーほど莫大ではないかもしれないけれど、まだまだ外貨獲得には悪くない市場です。韓国国内だとスポンサーになりうる企業の数も限られます。そして「海外にも通ずるアワードである」というブランディングも成り立つ。

矢野:日本は世界の音楽市場でも2位といわれるほど大きなマーケット。そんな国で大型イベントを開催するとなれば、ゆりこさんの言う「海外にも通ずるアワードである」というブランディングは十分に達成されるのではないでしょうか。

ゆりこ:あと現実問題として、韓国に大人数を収容できる会場が少ないということもあります。ソウル最大級の会場「コチョクスカイドーム」も座席数は1万8000席。ステージ設置を考えると立ち見席を採り入れても収容人数は最大2万人程度です。仁川に新設されたインスパイア・アリーナにも行ったことがありますが、代々木競技場や大阪城ホール、ポートメッセなごや、マリンメッセ福岡の規模。

矢野:首都圏だけではなく地方都市にもドームなど大規模会場があるのが日本の特徴だと思います。韓国より広い場所でダイナミックな演出と集客ができる、というのも日本開催のメリットなのかもしれません。

ゆりこ:一方でチケットをたくさん売らないと、かなり悲惨な結果になるということでもあります。

矢野:ここからがある意味、「本題」かもしれません。この大型K-POPイベントをテーマに取り上げたいと思ったきっかけが、あるニュースだったのです。今年大阪で開催された某K-POPイベントが「空席だらけでガラガラだった」というものでした。

K-POPイベントの「突然の中止」「空席ガラガラ」なぜ起こる?

ゆりこ:私も報道で知りました。ステージに近くなるほどチケット代が上がるシステムで、なかなか高額でしたね。 たまたま用事が重なって行けなかったのですが、スッと諦めきれた(笑)。その前にも開催予定だった別の大型イベントが急きょ中止になっていまして。発表された表向きの“理由”とは別に「実はチケットの売れ行きが不振」「スポンサー探しにも苦戦」という声が漏れ伝わってきていました。

矢野:僕はもう“K-POPだから”人が集まる、チケットが売れる時代ではないと感じています。ビジネス規模がここまで大きくなり、グループもどんどん増えて、結果的にファンも分散化している。今はもう「K-POPファン」ではなく「〇〇(グループ名・個人名)のファン」という感覚の人のほうが多いのではないでしょうか。

ゆりこ:あぁ……それは私も感じ始めています。2000年代の韓流ファンから始まり、2010年代までは「韓国モノなら全方位に興味津々」「K-POPオルペン(オールファン)」みたいな人が少なくなかった。どちらかといえば私はそっち寄り。でも特にコロナ禍以降にK-POPハマった人の中で、そういったタイプの人は少数派なのかもしれない。日本における韓国エンタメ市場が“秘境のオタク村”から“開かれた大国”に成長拡大した証拠だともいえます。

矢野:今や「知名度のあるグループを複数キャスティングすれば人が集まる」はもう通用しないのかもしれません。合同イベントは、特定のグループだけ追っている人からすると非常にコスパが悪いのがイタいところ……。最悪の場合、数分間で(その人にとっての)お目当てが終わってしまいます。その一瞬のために数万円を支払うのか。それなら単体のコンサートに行ったほうが満足度も高いし、チケット代も安いでしょう。

ゆりこ:ある人にとっては「この値段で1度に数組も見られるなんてラッキー」と思えるメリットも、ある人によってはデメリットになりうるということ。それに“雑食派”の立場からも、アーティストの頭数をそろえればいいってわけじゃない、そのラインアップと構成で果たしてチケット価格は見合っているのか? と問いたいケースもあります。そこに、「推し活費用」の圧迫に経済不安が重なると、お財布の紐もギュッと固くなる。

矢野:あと正直なところ……最近K-POPのアワードや祭典が多過ぎませんか? 1年中何かしら行われている印象があります。

韓国の音楽業界も危惧する中、増え続ける「K-POPアワード」とその背景

ゆりこ:シンプルに「儲かる」のですよね。うまくいけば、というただし書きが付きますが。もちろん韓国の音楽業界も「近年のアワード乱立」を課題として認識しています。どの賞が本当に権威や価値を持っているのかも分かりにくくなっている。長年韓国の音楽業界が育ててきた授賞式や祭典さえもブランド価値が下がりかねない。分散化するとそれに比例してアーティストやファンの負担も大きくなります。それを危惧した「韓国音楽コンテンツ協会」は主催していた「サークルチャート・ミュージックアワード(※3)」を今年から無期限延期としました。2012年から長年続いていたアワードだったのですが、勇気ある英断だったと思います。

※3:2022年まで「ガオンチャートミュージックアワード」という名称で開催

矢野:本来であればアーティストの活躍や成し遂げたことをたたえる場だったものが、収益目的の商業イベント化していると。そういえば最近、また新しいK-POPアワードがやっていたのをSNSで見たんです。これまで聞いたことがないタイトルでした。

ゆりこ:「KOREA GRAND MUSIC AWARDS(KGMA)」のことでしょうか。今年から始まったんですよ。KGMAを主催する日刊スポーツ(韓国)は以前、最も歴史の長い「ゴールデンディスクアワード」を運営していましたが、今では中央日報やJTBCを擁する中央グループという別のメディアが主催となっています。だからいっそのこと、自分たちでも新しく始めてみよう!といった具合でしょうか。

矢野:蓄積されたノウハウもコネクションもあるから可能になる。しかしそういう場が増えれば増えるほどアーティストは疲弊しそうです。練習にレコーディング、リリースイベント、そこに国内外のツアーも抱えているわけでしょう。だからといって出演依頼が来たら断りにくいだろうな、とも思うのです。先のイベントのことではないと断りを入れつつ、“出演してくれる人を優先に賞が与えられる”という暗黙のルールもあるのではないかなと……。

ゆりこ:単なる「参加賞」になってしまうのは本末転倒なので、不在のまま受賞する人がいて当然で健全、というのは大前提。ただ実情として、不参加のアーティストが大きな賞を取ると会場の盛り上がりがトーンダウンしたり、出演アーティストのファンから不満の声が上がったりするのも“あるある”です。おっしゃる通り「出演依頼を断りにくい」点も否定できないでしょうね。それは各アワードやイベントの主催者を見れば、自ずと想像がつきます。

矢野:新聞社や放送局……大手メディアが多い。なるべく仲良くしておきたい、少なくとも敵には回したくない存在。HYBEとミン・ヒジンさんのバトルの裏にもメディアを通じた激しい報道合戦がありました。いくらSNSが発達した世の中とはいえ、まだまだメディアの影響力は大きいと思っています。メディアの報じた内容が社会の抱く印象を左右する可能性は十分にあります。

ゆりこ:そして放送局は音楽番組を持っているから決して無視できない、持ちつ持たれつの関係にあります。韓国のメディア企業がいまだにアワードや大型イベントに“うまみ”を感じている間は、なかなか減らないのでは? と思う一方、アーティストとファンの体力や時間、お金にも限界があるので、選ばれるものとそうでないものに分かれて淘汰(とうた)されていく未来が考えられます。そして、また新しいのが出てきてしまうかもしれない(苦笑)。

矢野:その結果、チケット販売不振でキャンセルになったり、空席の目立つイベントも出てくると。結局また最初の話に戻ってきてしまいました。

ゆりこ:実のところ、K-POPイベントの突然中止やトラブルは昔からたびたび起こりますし、今に始まったことではありません。古くからのK-POPファンは「またか」と諦めている部分もあると思いますよ。ただ、その“やらかし規模”が市場とともに年々大きくなってきているようにも感じます。

矢野:主催側としてはうまくいけば儲かるから簡単にはやめられない。でも……かなり根深いものを感じます。ゆりこさんが思う、この背景って何だと思いますか?

うまくいかないK-POPイベントの裏にあるもの

ゆりこ:原因は1つではないと思いますが日本開催のイベントに限っていうと、うまくいかないイベントの裏には韓国側の「見切り発車」と日本側の「見立ての甘さ」がセットで存在すると考えています。お話ししようか迷ったのですが……今年の前半、ある失敗に終わったK-POPイベントの打ち合わせを偶然カフェで聞いてしまったことがあり、予想が確信に近づきました。

矢野:えっ、そんな重要な話をカフェでしちゃいけないのに。とはいえ、内容が気になります! どんな内容だったんですか? 差し支えない範囲でお願いします。

ゆりこ:まず打ち合わせに出ている日本側の人たちが出演者のことやファンダムの規模をしっかり把握していなかった。韓国側も情報をやや“盛り気味”かつ“曖昧”に伝えているように感じられました。そして開催まで日にちが迫っているのに、スポンサー周りの重要な部分も決まっていないというグダグダさでした。「その状態で成功させるのは厳しいだろう」と内心思いましたよ。何より隣に“K-POPオタク”が座っているかもしれない場所で、その打ち合わせはお控えください案件。リアルに「マックの女子高生が〜」ってやつですが、うそみたいな本当の話。

矢野:そして実際に結果も散々だったと。もしかしたら何か事情があってカフェで打ち合わせをしていたのかもしれませんが……ファンはコンテンツのクオリティーに対して鋭敏に反応するものだと考えています。何も粗探しをしようとしているわけではないのに、無意識的に脊髄反射的に“中途半端なところ”に気付いてしまう。ファンの目をごまかすのは容易ではないはずです。

ゆりこ:過去にイベント主催側も経験したことがあるので、いかに大変な仕事かも理解しているつもり。理想通りにうまくいったことなんて、ほぼないです。でも韓国側からの情報の“盛っている部分”“曖昧にされている部分”を丁寧に詰めて、“実際のところ”を浮き彫りにして把握するという細かい調整をしていくことで大事故は防げると思います。それを分かっている人がコアとなるスタッフにいるかいないか、周囲がその人の話に耳を傾けて受け入れる環境であるかがキーポイント。これは完全に裏側の話になりますが。

矢野:楽しみにしていたイベントがキャンセルになってしまうと、精神的にも物理的にも結構ダメージ大きいです。チケット代が戻ってきても、遠方からの参加であれば旅費は返ってこないこともある。この日を待ち焦がれていたファンの落ち込みは相当なものです。

ゆりこ:そのイベントに行くために、皆さん学校や仕事や家庭の中でスケジュールを調整して準備しているわけで。あと……これもお話しするか迷ったのですが言っちゃう。デイリー新潮の記事に韓国芸能関係者のコメントが掲載されていて、赤裸々かつ納得してしまう内容だったんです。

矢野:「K-POP業界の裏側」みたいなお話ですか?

ゆりこ:そこが記事の本題ではなかったのですが、「ライバル社が始めたものは、上司から“ウチはどうなってるんだ”と叱られる前に先手を打たねばならない」ゆえに「市場調査もまともに実施しないまま“日本で展開すれば儲かるはず”と強引に実行しがち」。加えて「チャレンジ精神にあふれる反面、リスク対策や緻密さに欠けることもある」という内容でした。このような韓国エンタメ企業の“社風”も否定できないと思うのです。

矢野:なかなか辛辣(しんらつ)ですね……。

ゆりこ:少し強めの言葉で書かれているとは思います。匿名だし、一個人の意見でしょ? と思う人もいるかもしれない。でも韓国企業で働いていた日々を思い起こすと、うなずける部分もあります。

矢野:韓国側も日本側もイベントを成功させたいという思いは同じはず。ただ、現在のK-POPイベントを取り巻く環境がいいものだとは決していえないでしょう。原点に立ち戻って互いに歩み寄る必要があるのかもしれません。

ゆりこ:もしかしたら毒吐き回になってしまったかもしれませんが、毎年K-POPのアワードや大型イベントを楽しみに参加しているからこそ思うこともあるよ、というお話でした。

矢野:さまざまアーティストが一堂に会するイベントはまるでお祭りのようで、会場全体が一丸となって盛り上がるあの瞬間は何にも代えがたいエンターテインメント。これからのK-POPイベントも楽しみにしています!

【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。

編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。

<参考>
デイリー新潮「K-POP日本公演『ガラガラ』の衝撃 最高3万円『高額チケット』にファンも反発」
(文:K-POP ゆりこ)

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