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女子トイレで聞いた「悲しい現実」|12星座連載小説#121~水瓶座10話~

ananweb / 2017年7月19日 21時15分



12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第121話 ~水瓶座-10~


『仕事を……一緒に……?』

好美と仕事を一緒にできるのは嬉しいけど、一体私はどんなことをすれば良いのか想像ができない。

「そう。私とレナで。私は主にブログで商品紹介をしていて、そこで仲良くなったお友達に商材を販売しているの。……つまり、コンテンツといった“ソフト”の部分を作るのは得意なのね」

フンフンと好美の話に聞き入る。

「だけど、ホームページだとか、LPといった外側の“ハード”を作るのは得意じゃないの。というか、知識がないからできないんだよね」

―――そこまで聞いて、ピンときた。

『なるほど、そしたら私がその“ハード”の部分を作るってわけね!』

私だって、腐ってもIT企業に勤めている身だ。Webデザインからシステムエンジニアの真似事くらいならできる!

「うん、私はブログだけしか販売経路がないから限界を感じてたの。本当はメルマガとか流したいし、リストも欲しかったんだよね」

テヘッと可愛く舌を出す。

そっか……私はソフトを作るのはあんまできないけど、好美はコンテンツ作りが天才的に上手いからな……。こりゃあ、もしかしたらもしかするかも!

『さっすが、好美ちゃん!』

ギュウと好美を抱きしめて軽くキスをする。

「だけど、ひとつだけ!」

好美が真面目な顔をする。

「ずっと、私とだけ一緒に仕事して欲しいの」

『え……?』

「いや、あの、ほら別に変な意味とかじゃなくって」

手を小さくブンブン振って焦っている。

「私かレナ、もしかしたら両方に彼氏ができても、結婚しても、仕事だけは私としていて欲しいの。私、別にレナを独り占めしたいわけじゃなくて……レナといつまでも一緒にいたいの……」

少し涙ぐんでいる。

『うん、分かったよ。ずっと一緒に仕事しよ……』

男と女のかりそめの誓いよりも、さらに深く強固な“女同士の絆”がそこにはあった。

―――退職を決心した夜だった。

それからいつものように、二人でお風呂に入って“酒盛り”タイムだ。今回は、二人だけのネットビジネス立ち上げに「乾杯!」だ。

「ねぇ、レナ。私たち二人だと規模は小さいけど、キチンとターゲットを絞ってやっていけば、イイ線行くと思うの」

『おうよ! 好美と一緒なら、何だってできるわ! アホ社長をギャフンと言わしてやる!』

「そうだ、そうだ~!」

好美と将来の夢を語り合う。

理不尽なうちの会社の社長の顔が浮かんだ。よくも私の案を潰して、さらには外部の人たちの顔にも泥を塗ってくれたわね。

きっと、営業の三橋はあれこれ奔走して平謝りしていることだろう。売れる・売れないを判断する“先見の明”ってのも大事かもしんないけど、人の心を無視したやり方で上手くいくとは思えないね。

『明日にでも、退職届を出してくるよ。ただ……』

「ただ?」

『届けを出してから三ヶ月経つまでは辞められないから、その間準備をしながら通うよ、一応』

「へぇ~、レナにしては殊勝な心がけだこと」

好美が私の二の腕をツンツンつつく。

『もう! 私だってちゃあんと社会人やってます!』

残っているプロジェクトの引き継ぎと……三橋のことも心配だ。貯蓄もそこそこあるし、お金にはそう困りゃしないけど、ハードを構築するのはちと時間がかかるしな……。

残り三ヶ月、社内で学べることは今のうちに学んでおこう。……で、時間を見て二人のサイトを構築すっか。

『ねぇ、好美……早速簡単なサイトの製作準備に入って行きたいんだけど』

「ええっ! レナレナ早いよぅ~。どこでスイッチが入っちゃったの!?」

そう言いながらも、好美は嬉しそうだ。

「待っててね、明日レナが仕事から帰ってくる頃までには、お家でまとめておくからね!」

『はは、頼りにしてるよ、相棒!』

「はぁい!」

二人でキャッキャしていると、時間が経つのも早い。もう二時を回っていた。

部屋の明かりを消す―――。

『お休み、好美』

小さく呟く。

行き場のない私を助けてくれて、ありがと。

意識のブレーカーも落ちる―――。
今朝は、大忙しだ。案の定、寝坊してしまった。

ただ、昨日途中退社している手前、遅刻は絶対にできない。

好美は夜型だから起こさないでおく。途中LINEでも入れておいてやろう。メイクもせず、朝ごはんのパンを口にくわえながら、適当に服を選ぶ。

心の中で「行ってきます!」と言い、家を飛び出た。

社内に到着して時計を見ると、遅刻スレスレ始業2分前だった。

急いでトイレに駆け込み、“クイック”メイクをする。

ついでに用も足しとくか……そう思って、ドアを開けて便座にしゃがんだ時、女子社員の話し声が聞こえてきた。

「ねぇ、聞いた? 新規ゲームアプリがダメになったって話」

「うん、聞いた。あの、コンテンツ部の中野さんが担当してたやつでしょ?」

「そうそう。お気の毒さまだったわよねぇ……社長の思いつきで」

「うん、でさ、そのアプリの引き継ぎなんだけど……」

―――息を飲む。

「今年、新卒で入ってきた若い女の子が抜擢されたんだって……」

唇を噛み締める。

「中野さん、社長の好みじゃないからねぇ……若くてフレッシュな子の方がお好みなんでしょ」

「あはは……ひっど~い」

ダンッ!

声が遠ざかるのを確認して、私は思い切り目の前のドアを蹴飛ばす―――。

【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。
(C) Look Studio / Shutterstock
(C) TeeRoar / Shutterstock

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