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奇抜すぎる! 石川宗生『半分世界』は壮大な“うそばなし”

ananweb / 2018年5月22日 20時0分

読み手をたちまち虜にする、奇抜で可笑しくて冴えたアイデア。その土台に新人離れした筆力と巧みな比喩を積み重ねて、壮大な“うそばなし”の城を作り上げる。石川宗生さんの『半分世界』は、度肝を抜かれること間違いなしの傑作短編集だ。


収録されているのは4編。「吉田同名」は、吉田大輔という人物が突如、大量発生してしまい、そこから派生する奇妙な情景が描かれる。

「この作品の着想について、解説のところでは、〈『開門神事福男選び』という正月に大勢の男性が神社を走って一番を競う行事をテレビで目にしたとき〉とさらっと嘘をつきました。本当はなんでも大量発生すると話題になるなと思ったことでした。プランクトンでもエチゼンクラゲでもいいんですけれど、いちばん面白そうなのは人間だなという話です」

表題作では、家の道路側が消失し、ドールハウスのように中が見える家があり、そこに住む藤原家4人の暮らしと、それをウォッチングする人々の様子が描かれている。

「手の内を明かすようで少し恥ずかしいんですが、イタロ・カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』という小説が好きで、頭の中でいろんなものを縦にまっぷたつにするというブームがあったころに思いつきました」

「白黒ダービー小史」では、サッカーを彷彿させる「白黒ダービー」という競技に取り憑かれた町を舞台に、ロミオとジュリエットのような恋物語が繰り広げられる。

「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」は、999の路線がある巨大なバス停で、いつ来るかわからない自分のバスが来るのを延々待ち続ける人々のサバイバルが描かれる。

諧謔ずくめのものすごい大ボラの中に、大真面目に、哲学や歴史考察、文明批評などを滑り込ませてくる。

「書いていて行き詰まると憑依芸ではないですが、この作家さんの気持ちになったつもりで…と頭を切り替えてみるとうまくいったりします。ひとりの作家だけではなく、何人もが入り交じっています」

筒井康隆や円城塔の作風と比較されることもあるが、著者によれば、エンリーケ・ビラ=マタス、カート・ヴォネガット、リチャード・ブローティガン等々、石川さんの小説の土壌は主に海外文学にあるようだ。本当に本当に、次回作が待ち遠しい。

いしかわ・むねお 1984年、千葉県生まれ。米大学卒業後、イベント営業、世界一周旅行、スペイン語学留学などを経て、作家、フリーの翻訳家に。収録作「吉田同名」で創元SF短編賞を受賞。

帰宅途中の吉田大輔氏は、1万9329人に増殖してしまい…。巻末に著者インタビューを含む作品解題付き解説あり。作品世界がより身近に。東京創元社 1900円

※『anan』2018年5月23日号より。写真・土佐麻理子(石川さん) 大嶋千尋(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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