仕事や家事に追われてない? 幸せにつながる「魔法の呼吸法」#6
ananweb / 2019年10月23日 20時30分
毎日瞑想していると話すと、「難しそう」「そんなヒマは無い」と言われることがあります。でも、それが実はたったひと呼吸だとしたら? 息を吐くと活性化される瞑想ならぬ迷走神経は、心と体をリラックスさせてくれるだけではなく、信頼感や愛情も深めてくれるというツワモノ。しみじみ幸せホルモンの分泌を促す迷走神経をオン!する簡単な呼吸法 ルナブレスで、頭の中のいじわるなおしゃべりを手放してみませんか。
取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani
【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 6
瞑想って、どうやったらいいの? なんだか難しそう。「たった10分でいい」と言われたって、10分でさえも座り続けられない! その気持ち、よくわかります。それに対して、Google社の元エンジニアでマインドフルネスをベースにした研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(Search Inside Yourself)」を開発したチャディー・メン・タンさんは画期的な答えを出します。
「ひと呼吸を瞑想に」と。
彼の著書『ジョイ・オン・デマンド』(NHK出版)に書かれている「マインドフルなひと呼吸」はとても簡単、そのポイントは3つです。
1. 目は閉じていても開いていてもいい。
2. ゆっくりと深呼吸。
3. 息を吸ってから吐くまで、すべての注意を呼吸に集めて感じる
(鼻からお腹の感覚に意識を向けてみるといい)。
以上! これなら時間が無くても、できるでしょう? チャディーさんによると、10分、20分、1時間……という瞑想は、言うならばこれの繰り返しなのだとか。不思議なことですが、ゆったりとしたひと呼吸を感じてみると、吐く息とともに肩の力が少し緩み、ゆったりとした気持ちになります。ため息をついたときの感覚にも少し似ていますね。何度かこの呼吸を繰り返すと、「こうじゃないといけない」という思考の声が静かになっていくことにも気づかされます。
生涯を禅修行に捧げられた内山興正老師は、それを「思い手放し」とおっしゃいました。頭のなかの考え、つまり思いを手放し、思いを手放し、と繰り返していくことで、頭で思っている自分ではない自己、生命そのものに目覚めていくのだとか。
けれどもなぜ深い呼吸に意識を向けることに、思いを手放し、本当の自分を目覚めさせる力が備わっているというのでしょうか。その鍵は、私たちの体の成り立ち、神経系にあるようです。
■ ピースフルになれる鍵は、瞑想ならぬ迷走神経。
その神経の名前は、瞑想神経? おしい! 字が違って迷走神経です。ユニークな名前でしょう? 道草続きの人生を送る私にとっては、親近感を覚えるほどです。
迷走神経(vagus nerve)は、脊髄のてっぺんから始まって体じゅうを走り巡り(なので迷走神経と言います)、発声に関わる顔筋組織、胸、肺、腎臓、肝臓そして消化器官とつながるという、とっても長い神経です。息を吐くときに活性化され、心拍数を下げて私たちの心と体をリラックスモードにしてくれます。
また迷走神経は、信頼感と愛情を司る“しみじみ幸せホルモン”オキシトシンを受け取り、私たちが利用できるように変換してくれる受容体とも直接結びついています。
カリフォルニア大学バークレー校心理学部教授のダチャー・ケトナー博士によれば、迷走神経が活発になると、声は仲良しモード、そして心臓血管の働きはゆったりとしてオキシトシンの発生を刺激し、「他の人に対する温かな気持ち、信頼感、献身的な愛を!」と全身を駆け巡って指令を出すのだとか(1)。つまり吐く息とともに思いを手放すことで、ホッとできるだけでなく、友好モードになって、相手ともっとつながることもできるのです。
私がカリフォルニア州エサレン研究所という場所で暮らしていたときに、この迷走神経を活性化するための特別な呼吸法を教わったことがあります。それはルナ・ブレス(月呼吸)と呼ばれ、ポイントは以下の3つ。こちらも、とても簡単です。
1. スターターに数回普通よりも少しゆっくりめの呼吸をする(吸う息も吐く息も鼻から)。
2. 吐く息をほんの少し長めにし、完全に鼻から吐き切る。
3. 息を吐いている間は、声帯から響く微かな音に耳をすませる。
吐く息を通じて聞こえてくるのは、微かなそよ風に吹かれた木々から生まれた風のささやきのような音。小さい頃にやった、貝殻を耳に当ててその奥の音に耳をすませたときのように、聞こえるか聞こえないかというそのわずかな振動に心を傾けていると、しだいに頭の中のおしゃべりが遠ざかっていくのが感じられます。
百聞は一見にしかず。試しにルナ・ブレスを数回やってみてください。目は閉じても閉じなくてもお好みで大丈夫です。ゆったりとした呼吸を続けながら、耳を傾けてみてください。
ところでとても尊敬していた編集の大先輩が会社を辞められるときに、一枚の葉書きを贈ってくださったことがあります。そこに書かれていたのはひとこと「ときどき、深呼吸」。彼が日常的に瞑想をやっていたという話は一度も聞いたことがありませんが、とても的確なアドバイスでした。というのも私には記事を書いていてときどき「いい人に見られたい」とか「賢そうだと思われたい」という気持ちがわき起こることがあるからです。
昔はその思いがもっと強くありました。それを認めるのは恥ずかしいし辛かったですが、無視し続けるのはもっと居心地が悪かった。そこで、今は気づいたら大先輩の言葉を思い出して、ひとつ深呼吸。吐く息と一緒に、こう見られたいという思いを手放すようにしています。それは原稿が面白いか、読んだ人の役に立つかには関係ないことだからです。
そしておそらく、その思いを手放した先で、読み手であるあなたとも出会えるのかもしれないと感じるからです。
■ 土居彩
編集者、ライター、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
1.Keltner, D. Born to be Good The Science of a Meaningful Life. (New York,NY:W.W.Norton & Company,Inc, 2009)
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