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「最初は詐欺じゃないかと(笑)」世界が認めた美声、海宝直人が驚いたオファーとは

ananweb / 2020年5月25日 20時30分

「最初は詐欺じゃないかと(笑)」世界が認めた美声、海宝直人が驚いたオファーとは

主演ありきで企画が立ち上がることの多い日本のエンタメ界において、いまミュージカルの世界は比較的フェアになっているのではないかと思う。要は、歌えるか否か、そして、観客の心を掴む芝居ができるか否か。海宝直人さんという人こそ、まさにその象徴的存在だろう。
子役時代からのキャリアを考えれば、いまの活躍ぶりは当然のことかもしれない。それでも大人の俳優としてミュージカルの舞台に立ち始めた当初は、ソロパートがまるでないアンサンブルのひとりだった。そんな海宝さんが一躍注目を集めるようになったのが’15年の『レ・ミゼラブル』だ。オーディションによりヒロインの恋人となるマリウスを演じたが、幕が開くなりミュージカルファンの間で海宝マリウスが大きな話題に。そこからは、『アラジン』日本初演でのアラジンや、『ライオンキング』のシンバ、『ノートルダムの鐘』のカジモドなど、超有名大作の主役を次々と射止めている。その快進撃も、彼の歌を聴けば納得のはず。楽曲の音の輪郭を細かく丁寧になぞりながら、そこに役の心情を描写してみせる。その圧倒的な歌唱力と表現力には、ただただ脱帽するばかりだ。


「姉が4歳の頃に『アニー』に出演したりして、物心つく前から、自然に歌ったり踊ったりしていたんです。この間、昔のホームビデオを見ていたら姉と競うようにアニーの歌を歌っていて、本当に好きだったんだなって(笑)」

そんな海宝直人さんの初舞台は8歳の時にチップ役で出演した劇団四季の『美女と野獣』。その後には、『ライオンキング』でヤングシンバも経験した。

「当時は学校とミュージカルとの両輪で生活していた感じでした。でも、どちらかというとお仕事の方が楽しくて、自分としてはそっちがメインみたいな感覚でした」

そんな少年がミュージカルの道を選択したのは、ごく自然なこと。大学への進学も考えていた高校卒業間際に『ミス・サイゴン』のオーディションの存在を知る。「いま思えば、あれが大人の俳優としてやっていこうと決めた瞬間だったと思います」と振り返る。

「『ミス・サイゴン』はアンサンブルにソロの場面があったりするんですが、僕にはなくて。そこから多くの作品に出させていただきましたが、やはりメインでお芝居がしたい思いがありました」

ターニングポイントは’15年の『レ・ミゼラブル』マリウス役。その歌唱力だけでなく、役柄への深い解釈に評価が集まり、注目度が一気に増した。その後、『アラジン』『ライオンキング』『ノートルダムの鐘』と大作ミュージカルの主役を次々と演じている。

「幼い頃から出会ってきた方や作品にずっと恵まれてきたんだと思います。それこそ、子役時代にご一緒させていただいた劇団四季の方々は、素晴らしい俳優さんばかり。そういうなかで、自分が何をいいと思うか、どんな俳優になりたいかといったものが形成されていったような気がします」

■ 役を表現するツールとしてテクニックは必要なんです。

海宝さんの魅力といえば、確かな歌の実力はもちろんだけど、何よりその歌の表現力の豊かさだろう。これまで何度となく聴いていた曲なのに、海宝さんの歌で“ああ、こういう曲だったんだ”と気づかされることも多い。

「もともと僕は、この役の心情でこのメロディならばこう表現したいというのが、結構はっきり自分の中にあるほう。それを表現するツールとして、どうしてもテクニックが必要なんです。ただ20代前半の頃は、こういう表現がしたいのにできないとか、こういう音色を出したいのに出ないとかで苦悩していて。例えば高音でメロディが書かれている曲があって、それを歌おうとすると声が細くなってしまったり柔らかい音色になってしまったり、歌のエネルギーが落ちてしまうことがあるわけです。でもそれでは、自分が思う役の心情が表現できない。だとしたら、出せるようにするしかないですよね。苦悩する場面で歌うなら、もっと声帯を閉じた、ガツンと当たった音でちょっと歪みを出したいとか。そのためにボイストレーニングに通うようになったんです」

テクニックを磨くことは、つまり表現の幅を広げるということ。そして、いざ舞台に立った時に歌から自由になるためのもの。

「歌っている時、思うように声が出ないとか何か引っかかりがあると、そっちが気になって役に集中できなくなっちゃうんですね。それが自分の中のストレスになるし、お客様にも伝わってしまう。だから舞台上で余計なことを考えずに済むためのものなんです」

なんと’18年には世界的演劇都市ロンドンのウェストエンドで舞台デビューも果たしている。しかもそれが、舞台で海宝さんの声を聴いたロンドン・ロイヤル・オペラハウスのコンサートマスターのヴァスコ・ヴァシレフさんからのオファーだったというからすごい。

「最初は詐欺じゃないか、と(笑)。でも、こんなチャンスはなかなかないし、飛び込んでみようと思って。右も左もわからないなかでしたが、すごく新鮮な体験でした」

世界も認めたその人は、いまどこを向いているのだろうか。

「この間、『アナスタシア』という日本初演の作品に携わらせていただいたんですが、自分でイチから作っていけるというのは、すごく価値のあることだなと思ったんです。プレッシャーもありますが、やりがいを感じますよね」

■ 転機となった出演作

苦悩しながら成長していく人間味が共感を呼んだ。
’15年を皮切りに、’17年、’19年の『レ・ミゼラブル』でマリウスを好演。「けっしてヒーローではなく、乗り越えられないものの前で苦悩したりする人間くささが魅力的な役です」

制約の多い難役に挑戦。深く丁寧な役づくりが光る。
’16年に日本初演となった劇団四季『ノートルダムの鐘』で、公開オーディションにより主人公・カジモド役を獲得。「肉体的にも精神的にも、自分の極限を試された作品でした」

かいほう・なおと 1988年7月4日生まれ、千葉県出身。舞台を中心に活動する傍ら、ロックバンド・CYANOTYPEのボーカルとしても活動している。

※『anan』2020年5月27日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・望月リサ

(by anan編集部)

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