注目作家オススメの“官能小説” 官能を書く喜び、読む楽しみを語る
ananweb / 2021年7月11日 19時10分
今年4月に発表した作品で、見事第165回直木賞にノミネートされた一穂ミチさん。昨年出版したデビュー作が、いきなりベストセラーリストに入った新川帆立さんと蝉谷めぐ実さん。注目の作家3人が、具体作を紹介しながら語る、官能を書く喜び、読む楽しみとは!?
3人が語る、小説世界における「性愛」の秘密。
新川:官能成分のない小説を書いている人間なので、どんな本をおすすめしたらいいんだろうと悩んだのですが、私はエログロ好きなので、筒井康隆さんや中島らもさんを交ぜました。筒井さんの「喪失の日」は、童貞喪失の日に主人公がてんやわんやする話。中島さんの「DECO-CHIN(デコチン)」は、チンの画期的な使い方を編み出した短編。どちらも、めちゃくちゃ面白いです。
一穂:私は選書がかぶってしまったらどうしようと思っていました。いま新川さんの基準を聞いていたら、杞憂でしたね。かぶる要素が全然ない(笑)。LiLyさんみたいな、ザ・官能な作家さんのも選んでらっしゃいますね。
新川:『SEX』は、きっと女子は大好き、男子はドン引きな本です! 5編それぞれいろいろなタイプの男女が出ているので、自分の好みを探すのもいいかもしれません。友だちと感想を言い合いたくなる作品集です。
蝉谷:一穂さんの挙げた山田太一さんの『飛ぶ夢をしばらく見ない』はどういう物語ですか。
一穂:主人公の中年男性は、病院で衝立越しにいる女性と性的な交流を持つのですが、翌朝、彼女は自分よりずっと年上のおばあさんだとわかり、ショックを受けるんですね。ところが、女性はどんどん若返っていくんです。ひとり逆行していく時間を生きる彼女に何ができるかと、主人公が苦悩する悲恋物語です。最初に読んだのが中学生のときなので「性の描写なんて要らない。そこがなければ美しい話なのに…」と思っていたんですが、大人になったいまは、「官能描写は貴重だな。あった方がいい」と大転換。
「喪失の日」筒井康隆
童貞喪失を夢見る青年は、官能の扉を開けられるか。
主人公は、24歳の会社員。ある日、童貞喪失のチャンスが巡ってくる。しかも相手は会社のマドンナ的存在。目の前の目標に囚われ、朝からハイテンションな青年は、仕事はミスし、挙動が同僚に不審がられる。「性愛で頭がいっぱいになった人間の滑稽さが味わい深いです」。(『最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集 1―』に所収)新潮文庫 605円
「DECO-CHIN」中島らも
ぶっ飛んだ世界観で描かれる音楽と性愛と生の三つ巴。
主人公が出会ったのは、奇形のメンバーで構成されている奇妙なバンド〈ザ・コレクテッド・フリークス〉。この短編が不慮の事故でこの世を去った著者の遺作でもある。「狂気じみた性愛を切り取ったラストシーンが圧巻。誰しもが持つ破滅願望を突き付けられ、背筋が冷えます」。(『君はフィクション』に所収)集英社文庫 576円
『SEX』LiLy
女性主体の性愛のかたち。共感ポイントも多いはず。
マッチングアプリで出会った男女の一夜限りのアフェア、ずるずる続くオフィスラブ…身近なシチュエーションがリアル、性愛にまつわる5編を収録。「女性が主体的にありのままに描かれているので、読んでいても清々しい。表現に臨場感もあって、『これぞ官能』と思わずときめいてしまうような圧巻の小説集です」。幻冬舎 1650円
『飛ぶ夢をしばらく見ない』山田太一
限られた時間の中で、性愛は切なく燃え上がる。
「読み返して惹かれたのは、時を遡っていく恐怖に苛まれながら、束の間の蜜月を繰り返す睦子の強さと聡明さ。彼女の言葉〈私にこんな思いをさせている神様かなにかには、意志も善意も悪意も理性もなくて(略)、私の方には理性だって意志だってあるのだから、それでわずかに対抗するしかないと思うわ〉が気高い」。小学館 電子版 671円*編集部調べ
一穂ミチさん 「ずっとBL(ボーイズラブ)作品を書いてきました。そのときは、女性が読んで萌えるのは近づき、行為に至るまでのプロセスで盛り上がるのかがいちばん大切だと感じていました。それは、男女間を描く場合でも同じだと思います。官能性というのは、関係性なのだとあらためて感じました」
新川帆立さん 「官能どころか恋愛小説も依頼が来たことがなかったので、この機会に書いてみたいと思いました。最初は、自分の好きなシチュエーションを織り込んでいましたが、実際の行為の様子は恥ずかしくなってしまい、最終的にシチュエーションを変えました。思いがけない体験で楽しかったです」
蝉谷めぐ実さん 「お引き受けしたものの、意識して書いたことのない世界なので、書き進めながらも手探り。『官能? う~ん、わからんぞ~』とぼやきっぱなしでした(笑)。私は、秘めたものや見えないところがいちばんエロい、と思っているので、そこに共感していただけるよう、腐心しました」
※『anan』2021年7月14日号より。取材、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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