「ダンダダン」7話で描かれたアクさらの過去― そのリアルな描写が示す現実の理不尽
アニメ!アニメ! / 2024年11月29日 16時0分
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アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
- 敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第52弾は、『ダンダダン』のアクロバティックさらさらの魅力に迫ります。
サイエンスSARU制作のテレビアニメ『ダンダダン』の第7話「優しい世界へ」が大きな話題となった。このエピソードでは、主人公の綾瀬桃(以下モモ)と高倉健(以下オカルン)が対峙した悪霊「アクロバティックさらさら(以下アクさら)」との決着と、アクさらの生前のエピソードが描かれた。
とりわけ、評判となったのがアクさらの生前エピソードの描写だ。その演出力と作画力が素晴らしく、『ダンダダン』という作品がコミカルさや性的ネタばかりではなく、世の中の理不尽に対する鋭い眼差しも持っていることを示したエピソードだ。
モモとオカルンの敵役の一体として登場したアクさらという存在には、そんな本作のスタンスが如実に表れているといえる。世の怪異の背景には、社会の理不尽があるのだ。
◆シングルマザーの「ありふれた」悲劇
アクさらは、長い髪と赤いドレスを着て、オカルンたちの同級生の白鳥愛羅に「お母さん」と呼ばせることに執着している悪霊だ。「娘」という存在に対して強い想いを抱いているが、その想いが狂気にまで高まり、暴走状態にある。その悪霊としての在りようは、彼女の生前に端を発している。
彼女は生前、シングルマザーとして幼い娘を育てていた。安そうなアパートで2人暮らし、清掃とコンビニの仕事を掛け持ちし、それだけでは生活費が足りなかったのだろう、売春をしている描写も見受けられる。働きづめで過酷な生活だが、家に帰って娘の笑顔を見れば心が満ち足りた。
しかし、そんなささやかな幸せを享受していたある日、借金取りがやってきて子どもをさらっていく。必死に追いかけるも見失ったアクさらは、絶望から飛び降り自殺を図り、悪霊となった。
日本社会におけるシングルマザーの貧困率は極めて高い。ひとり親世帯の相対的貧困率(全国民の所得中央値の半分を下回っている割合)は、44.5%(2021年の調査)、2世帯に1つが経済的困窮に置かれているのだ。全国でひとり親世帯は130万世帯以上あり、その9割近くが母子家庭だ。
厚労省の調査では、母子世帯のうち、8割は就業しているが、そのうちほぼ半数が非正規雇用であり、所得が極端に低い状態に置かれている。OECSD36ヶ国のうち、ひとり親世帯の貧困率は、ワースト5位である。アクさらのような人は全国にありふれた存在なのだ。
◆社会の理不尽は現実にあるということ
アニメはそんなアクさらの生前のエピソードをこの上なく、リアリティを与えて描いている。7話の冒頭、手持ちカメラの手振れを再現した一人称視点のカットは、視聴者に現実の中にいるような印象を与える。作画も小さい女の子のほうれい線まで描き込むようなリアル調の作画で挑んでおり、いつも以上にリアルを重視している。そうした方針によって描かれたこのエピソードは、通常以上に「痛み」を視聴者に感じさせる内容となっていた。このエピソードは、アニメであっても絵空事ではないと主張しているかのようだった。
『ダンダダン』はコミカルにオカルトの題材を扱っているように見えて、都市伝説や悪霊の話が生まれる背景について目配せすることを忘れていない。ターボババァが心霊スポットとなっているトンネルにいたのも、そこで多くの女性が命を落としたことが背景にあると説明されていた。現実の心霊スポットにも、そんな悲劇が背景にあったりすることが多い。
『ダンダダン』は、そういう社会の理不尽を描くことも忘れていない作品なのだ。アクさらの描写は、それを最も端的に象徴するものだ。
サイエンスSARUは、その想いを最大限受け止めた映像に仕上げてみせた。彼女のような存在が少しでも平和に暮らせる「優しい世界」になりますようにという願いもまた絵空事ではなく、視聴者に受け止められてほしい。
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(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
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