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フィクションの枠を超えた身につまされるメッセージで社会に警鐘を鳴らす攻めた作品

ASCII.jp / 2023年7月14日 21時15分

 6月12日に「第13回衛星放送協会オリジナル番組アワード」の最優秀賞が発表され、番組部門ドラマでは特集ドラマ「ガラパゴス」(NHK BS4K/BSプレミアム)が受賞した。

 同番組は、相場英雄の同名小説を織田裕二主演でドラマ化したもので、5年間不明だった男性遺体の身元調査に奔走する刑事の姿を通して、非正規雇用問題と世界標準から孤立化した日本産業の実態を描いた社会派サスペンス。

 捜査一課継続捜査班の刑事・田川(織田)は、鑑識課の木幡(桜庭ななみ)に頼まれて身元不明の死者リストを調べていた。リスト「903」の男性が自殺に見せかけて殺害されたことを見抜いた田川は、その男性が沖縄出身の派遣労働者・仲野(満島真之介)であることを突き止める。一方、特殊班捜査係の鳥居(伊藤英明)は田川に目を光らせつつ、裏で大手人材派遣会社社長・森(髙嶋政宏)、自動車メーカーの松崎(鶴見辰吾)と緊密な関係を結んでいた、というストーリー。

 まず、40代、50代の世代にとって「織田裕二の刑事役が観られる」ということだけで期待感が高まり胸躍り、観れば「さすが織田裕二!」の一言に尽きる。織田は、“閑職にある初老の刑事”という田川役を繊細かつ重厚に表現。人の思いや信念にしっかりと向き合う人柄を、言葉数は少ないながらも真っ直ぐ真摯に演じる“織田らしさ”全開の芝居で見せてくれる。ファンにとっては「これぞ織田裕二」と膝を叩きたくなるほど期待に応えてくれており、さらに期待以上の“今の織田だからこそできる表現”で魅了してくれる。

 そんな織田を取り巻く共演者たちも豪華で、田川をアシストする木幡役を桜庭、回想シーンで視聴者の感情を揺さぶる被害者役を満島、田川の捜査を妨害する側の伊藤、鶴見、髙嶋に加え、上地雄輔、泉里香、駿河太郎、野間口徹etc.と名優ぞろいで、ひとくせもふたくせもあるキャラクターたちを熱演。役者たちの芝居によって、どのシーンをとっても“重み”がある。

 織田を筆頭に役者陣の芝居は同作品の大きな見どころの一つなのだが、それと双璧を成す見どころが、テーマとして「日本産業の実態」を取り上げているところだ。ニュースでは取り上げられない、正規社員と差別されワーキングプア化する非正規雇用労働者の職場環境の実態や中央と地方の格差、雇用する側とされる側の貧富の差など、日本産業の構造的な問題にフォーカスし、それらを社会に問いかけている。スポンサーのある民間放送では扱いづらいところに斬り込んだ“攻めた”姿勢に、制作陣の強い情熱を感じざるを得ない。フィクションを通して、芯のあるメッセージを発信するメディアの矜持が垣間見えるからだ。

 豪華な役者陣が紡ぐ重厚な社会派サスペンスとして物語を楽しみながら、今も日本のどこかで発生し続けている目を背けてはいけない問題にスポットを当てた制作陣の“攻めた”姿勢から発信されるメッセージを受け取ってほしい。

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