PHS終了、代わりとして期待の「sXGP」とは
ASCII.jp / 2023年7月12日 7時0分
今年、PHSが終了した。そもそも個人向けサービスは2021年1月末に終了していたのだが、法人向けサービスがなかなか終了できずにいたのだ。
個人向けのPHSサービスは安価な通信料金プランで若者を中心に人気が出たものの、通信方式の違いから「すぐ切れる。圏外が多い」と敬遠され、つながりやすい携帯電話に取って代わられてしまった。
一方で、法人向けや自動販売機の在庫データ管理などに使われてきた。特に、PHSの電波は携帯電話に比べて医療機器に干渉しにくいとして医療機関での内線電話として普及してきた。
病院内だけで使えて、公衆網には接続しない「構内PHS」として運用すれば今後もPHS端末は利用できるが、公衆向けサービスが停波したことで端末の調達は今後さらに困難になると言われている。
そんななか、構内PHSの代わりとして期待されているのが「sXGP」という通信規格だ。
PHSと同じ周波数の通信規格
sXPGは、PHSと同じ1.9GHz帯の周波数を利用しており、自営通信向けの通信規格となっている。
sXGPを使うのに免許は不要だ。構内PHSを利用する際は「PBX」という巨大な設備やアンテナが必要であったが、sXGPを導入する際には小さなパソコンぐらいの機器とアンテナがあればいい。
sXGPはTD-LTEという、ソフトバンクやKDDIの子会社や、NTTドコモが利用している通信規格をベースとしている。
そのため、シャープや京セラ、アップル・iPhoneやiPadといったスマートフォンを利用可能だ。
sXGPに対応したSIMカードをデュアルSIMに対応したスマートフォンやタブレットに挿入すれば、病院内では内線電話的に、病院の外ではキャリアが提供するセルラーネットワークにつなげる。
例えば、これまでのお医者さんは、病院内で内線電話的に構内PHS端末を持ちつつ(医療ドラマなどでは首から赤いストラップをぶら下げていたりする)、外出時の連絡手段として、スマートフォンを持つという2台持ちがされていた。
しかし、構内PHSがsXGPに置き換わることで、お医者さんはiPhone1台でsXGP網につなげ、内線電話的に使いつつ、患者のデータ管理などができるようになるというわけだ。
病院や工事現場で活用が期待
ちなみにsXGPの通信速度は5MHz幅を用いて下り12Mbps、上り最大4Mbpsとなっている。キャリアが提供しているLTEや5Gネットワークに比べるとかなり見劣りしてしまうが、病院内などの構内での利用であれば問題ないレベルだ。
sXGPは、これまで構内PHSが導入されていた病院だけでなく、工場や工事現場など幅広いところでの活用が期待されている。特にアンテナや基地局設備が持ち歩けるぐらいコンパクトであるため、ビルなどの工事現場に持ち込むという運用が可能なのだ。
5Gが登場し「ローカル5G」という特定エリアや設備内で5G電波を使い、IoT機器などを管理するという取り組みもある。ローカル5Gは政府が後押ししていることもあり、世間的にはかなり期待されているようにも見えるが、ローカル5Gで運用するには免許が必要となるため、導入のハードルがかなり高い。
そんななか、sXGPは何より免許不要ですぐに電波を飛ばせるという点が大きい。
もうひとつsXGPで期待されているのが、セキュリティ面だ。限られた場所での運用はWi-Fiでも可能ではあるが、セキュリティ面に関してかなり不安だ。一方、sXGPはSIMカードをベースとして認証を行っているため、セキュリティ面で安心感がハンパないのだ。
ローカル5Gより「プライベートLTE」
また、sXGPの1.9GHz帯は、ほかにDECTというデジタルコードレス電話規格で用いられている程度でしか使われていない。
すなわち、ほかに干渉する通信機器がほとんどないので、安定した運用が可能というのも大きなメリットになっている。特に繁華街にある工事現場だと、周辺からWi-Fiが飛びまくっているので、Wi-Fi網を使った連絡手段では、円滑なコミュニケーションができないとされている。
実はローカル5GよりもsXGPも活用した「プライベートLTE」のほうが、導入を検討する企業側にとってはコストの負担も少なく、免許も不要と言うことで、現実的なソリューションになろうとしている。
特にiPhoneとiPadがこの4月からsXGPに対応したことで、豊富な法人向けアプリをsXGPのネットワーク内で使えるようになったのが大きい。
iPhoneに標準搭載された通話アプリを利用し、内線電話的に利用することもできる。
法人向けPHSサービスが終了し、1.9GHz帯は今後使われずに終わっていくのかと思いきや、PHSはsXGPという通信規格に生まれかわり、ローカル5Gにも対抗できるネットワークに進化していたのだった。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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