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ベンチ結果で判明「15インチMacBook Air」はProに匹敵するパフォーマンス

ASCII.jp / 2023年7月12日 8時30分

アップル「M2搭載MacBook Air 15インチ」。価格は19万8800円〜

 MacBook Airとして初めて15インチディスプレーを採用したモデルは、今年(2023年)のWWDCで発表され、即日注目受付が開始された。すでにレビュー記事「15インチMacBook Airは「余裕たっぷりの画面サイズ」で実用度No.1」は公開したので、ここではベンチーマークテストの結果と考察をお届けしよう。

この3機種に2020年のM1搭載のMacBook Air 13インチを加えて比較した

 今回の比較の対象は、Apple Silicon以降のMacBook Airに、参考として最新のMacBook Proを加えた4機種とする。具体的には、2020年のM1搭載のMacBook Air 13インチ、2022年のM2搭載のMacBook Air 13インチ、新しいM2のMacBook Air 15インチ、2023年のMacBook Pro 14インチの4モデルの結果を比べて検討する。

 また、例によって「低電力モード」と通常のモードで、どれだけパフォーマンスが変化するかも評価する。これについては今回主役のMacBook Air15インチモデルについてのみ、条件を変えて計測、評価している。

パフォーマンスを比較するMacBook Air+Pro、4モデルのスペック

 まずは、今回のテスト対象として取り上げた3モデルの、主要スペックをざっと確認しておこう。

・2020年型M1搭載MacBook Air 13インチモデル 8コアCPU/7コアGPU/8GBメモリー/256GBストレージ

・2022年型M2搭載MacBook Air 13インチモデル 8コアCPU/10コアGPU/16GBメモリー/1TBストレージ

・2023年型M2搭載MacBook Air 15インチモデル 8コアCPU/10コアGPU/16GBメモリー/512GBストレージ

・2023年型M2 Pro搭載MacBook Pro 14インチモデル 10コアCPU/16コアGPU/16GBメモリー/512GBストレージ

 MacBook AirのCPUはいずれも8コアだが、MacBook Proのみ10コアとなっている。GPUについては、MacBook AirのM1モデルが7、M2のMacBook Air 13インチと15インチは10、そしてMacBook Proは16コアという違いがある。M2の13インチモデルでは、標準モデルは8コアGPUで、10コアGPUはオプション扱いだが、メモリー、ストレージも含めてカスタマイズされた個体だ。また、M1チップは、M2以降のチップが搭載するメディアエンジンを搭載していないという違いもある。今回のテストでは、ビデオのエンコード処理の性能に影響する可能性が高い。

 一方、搭載メモリーの容量によって、チップ構成の違い以上に大きく結果が異なることがあるので要注意だ。今回の対象モデルの中では、M1のMacBook Air 13インチのみ8GBで、M2のMacBook Air 13、15インチ、MacBook Proは16GBを搭載している。ストレージの容量が、直接的にテスト結果に影響することはなさそうだが、容量によってもSSDのロットや特性が異なる場合があり、ストレージがらみの性能に影響を与えることもある。

 ハードウェアの性能以外にも、テスト結果に影響を与えるものがある。それはもちろんソフトウェアで、macOS本体や、それに付属するアプリのバージョンによっても結果が影響を受ける。例えばGPUを扱う際のAPIとなるMetalは、macOSのバージョンによって最適化が進み、同じハードウェアでも新しいOSほど処理が速くなる傾向がある。また、ブラウザーを使ったテストでは、やはりSafariのバージョンが新しいほど有利という傾向が見られる。

 今回の3機種のテストは、それぞれのモデルが発売された直後に実施したものなので、OSや付属アプリのバージョンは異なる。したがって、新しい機種ほど有利な結果が出ていると考えられるものもある。

 各モデルのテスト時のmacOSバージョンを以下に示しておこう。

・M1搭載Mac Book Air 13インチモデル:11.0.1 ・M2搭載Mac Book Air 13インチモデル:12.4 ・M2搭載Mac Book Air 15インチモデル:13.4.1 ・M2 Pro搭載Mac Book Pro 14インチモデル:13.2

Geekbench CPU性能比較

チップの世代の差がはっきり現れるGeekbench結果

 Geekbenchは、良く知られたベンチマークテストの1つで、その中のCPUテストは一般的なCPU性能を測るもの。テスト結果は、CPUコアを1つだけ使った場合(Single)と、実装しているコアをすべて使ったマルチコア(Multi)の各場合ごとに独自のポイントで表示する。この値が大きいほど高性能ということになる。

 CPU性能は、1つのコアでもマルチコアでも、M1よりM2の方が若干高い。他の要素の影響はほとんど考えにくいので、純粋なCPU性能が向上しているものと考えられる。同じM2でも、13インチより15インチが速いが、値は誤差範囲と言える。M2とM2 Proを比較すると、シングルコアでは違いはさほど目立たないが、マルチコアでは大きく異なり、8対10というCPUコア数から類推するよりはるかに大きな違いとなっている。M2 Proの10コアCPUの内訳は、高性能6+高効率4で、高性能4+高効率4のM2と比べると、合計コア数以上の違いがあるのは当然だ。

 なお、ここで使用しているGeekbenchアプリのバージョンは、5.5.1で旧タイプだ。テスト実行時の最新バージョンは6.1.0で、14インチMacBook Proと15インチMacBook Airについては最新版でも計測しているが、バージョン5と6ではポイント算出の基準が異なるので単純に比較できない。比較対象となる他の2モデルはバージョン5でしか計測していないので、今回はバージョン6の結果は示さない。今後、比較するモデルの計測が、すべてバージョン6で揃った時点で、切り替えることにする。

 GeekbenchのCompute(バージョン6以降では「GPU」)は、OpenCLとMetalの各APIを使って、GPUの数値演算性能を評価する。

Geekbench GPU性能比較

 M1搭載モデルはGPUのコアが7で、M2のMacBook Airは10だが、それ以上に大きな差が付いている。同じM2の13と15インチモデルは、やはりわずかに後者の方が速い。数字としては、これも誤差範囲と考えられるが、上のCPUテストも含めて、傾向としては15インチモデルの方が若干速いと言えそうだ。GPUのコア数が16のMacBook Proは、さすがに他を大きく引き離している。これは単純にGPUのコア数の違いによるものと考えていいだろう。

GeekBenchのCPUと同傾向のCinebench結果

 Cinebenchは、(GPUではなく)CPUを使って3Dグラフィックを描く処理の性能を評価する。ほとんど純粋なCPU性能を計測することになるため、結果はGeekbenchのCPUテストとよく似たものとなった。

Cinebench CPU性能比較

 グラフの形も似通っていて、1つのコアでも複数のコアでも、M1よりM2の方が若干速く、同じM2では13インチより15インチが「わずかに速い」というもの。このCinebenchのマルチコアのテストでは、CPUに最大の負荷をかけたまま、最低でも10分間は連続運転となる。そのため、ファンレス設計のMacBook Airでは、発熱を抑えるために、途中で自動的にCPUクロック周波数が調整される可能性がある。強制空冷機構を持ったMacBook Proとのマルチコアでの差が、Geekbenchよりさらに大きくなっているのは、そのためと考えられる。

JetStream 2性能比較

世代が進むと速くなるJetStream 2

 JetStream 2(https://browserbench.org/JetStream/)は、ウェブブラウザー上で動作するウェブアプリで、主にCPUの性能を評価する。1つのCPUコア上で動作するため、どの機種で動かしても大きな性能差とはならないのが特徴だ。日常的なウェブアプリの体感速度を測るものと考えればいい。

 やはり、GeekBenchのCPUテストのシングルコアと同様の結果を示している。違うのは、M2 Pro搭載のMacBook Proが、M2搭載の15インチMacBook Airよりも遅いこと。この結果は、チップには関係なく、macOSが新しいほど速いことを示している。

 その要因と考えられるのは、テストに使用したmacOS標準ブラウザー、Safariの進化によって、ウェブアプリの実行が徐々に速くなっていることだ。

13インチのM2 MacBook Airが最速のFinderによるフォルダーコピー

 これ以降は、実際のファイル操作やアプリでの実行時間をストップウォッチで計測するテストとなる。グラフに示す数値の単位は秒で、数値が小さいほど(棒グラフのバーが短いほど)高性能ということになる。

 Finderによるフォルダーコピーは、サイズが3GB近くで、項目数が約2万4000の「フォルダー」(実際にはiMovieアプリのバンドル)をFinder上でコピーするテスト。通常はここまで複雑でファイル数の多いフォルダーをコピーする機会はそうそうないと考えられるが、CPUの処理能力×ストレージの性能を測るテストとなる。

Finderフォルダーコピーにかかる時間

 やはりM1の13インチがもっとも遅いという結果となったが、もっとも速いのは意外にもM2の13インチモデルだった。ここまでに測ったCPU性能を逆転しているので、これはストレージ性能の偶然的な違いと考えられる。

モデル間の違いはわずかなXIPファイル展開

 XIPファイルの展開は、「アーカイブユーティリティ」によって、11.44GBのXIP圧縮ファイル(Xcode 12.2のインストーラー)をアプリ(バンドル)として展開するテスト。圧縮データの伸長処理を除けば、Finderによるフォルダーコピーと似たような処理となるが、時間はどのモデルでも4分以上かかる。

XIPファイル展開にかかる時間

 順番は、MacBook Air間ではFinderによるコピー時間と同じになったが、いちばん速いのはMacBook Proだった。単純なフォルダー/ファイルコピーよりもCPU処理の比重が高いので、MacBook Proが有利になったと考えられる。

iMovieで4Kビデオを540p(480p)で出力するのにかかる時間

メディアエンジンの効果が分かるiMovie出力

 iMovieによって再生時間が約50秒の4Kビデオ(ファイルサイズは約125MB)を、再エンコードして、低解像度の540pで出力するテスト。ただし、M1の13インチモデルをテストした時点では、iMovieの同クラスのオプションが480pだったので、M1搭載モデルのみ480pで出力している。

 この結果は、M1とM2で大きな差が付き、M2とM2 Proでも大きな差が確認できる。M1とM2の違いは、ビデオのエンコードを加速するメディアエンジンの有無で説明できるだろう。このテストでは、処理するデータ量が比較的多いため、メモリー帯域幅が、M2 ProではM2の2倍の200GB/sとなっている効果も現れていると考えられる。

実装メモリーの大小による違いによる差が著しいFinal Cut Pro出力

 Final Cut Proによるテストは、iMovieと同様のテストになるが、全部で25個の8Kビデオクリップをつなぎ合わせながらエンコードして、約43秒の4Kビデオファイルとして出力するもの。一度に扱うデータ量がiMovieのテストよりさらに多くなるため、実装メモリーの容量が結果に大きく影響する。

Final Cut Proで8Kビデオを4K出力するのにかかる時間

 M1の13インチだけ実装メモリーが8GBなので、極端に遅い。同じ16GBのM2、M2 Pro搭載機では、順番はiMovieの場合と同じになっている。このテストでは、同じCPU性能でもメモリーが大きいほど速くなる。同じMacBook Airでも24GBを実装すれば、さらに高速化されることが期待できる。

バージョンの影響も小さくないXcodeによるアプリのビルド

 アプリ開発ツールXcodeを使って、アップルがデベロッパー向けに提供している「SwiftShot」というiOS用ARゲームのサンプルコードをビルドするテスト。それぞれテスト時点で最新のXcodeを使っているが、アプリのバージョンによる影響が最も大きいと考えられるテストとなっている。

Xcodeで「SwiftShot」をビルドするのにかかる時間

 結果のグラフからは、ほぼ等間隔で、M1よりM2の13インチ、さらのM2の15インチが速いことが読み取れる。M2 Proは、M2 MacBook Airの15インチよりもわずかに遅い。CPU性能の違い以上に結果への影響が大きいのは、やはりXcodeのバージョンの違いだろう。M2 Proの計測時のXcodeのバージョンは14.2だったのに対し、15インチMacBook Air計測時には14.3.1となっていた。

電源アダプターよりバッテリーの方が速い!? 「低電力モード」オン/オフのパフォーマンスの違いを検証

 ここからは、MacBookシリーズが搭載するバッテリーの「低電力モード」のオン/オフによるパフォーマンスの違いを検証していく。これまでのベンチマークテスト用アプリや、一般のアプリによるテストを、それぞれ電源アダプター仕様時の低電力モードのなし/あり、バッテリー使用時の低電力モードのなし/あり、の4種類のモードで実行した結果を比較する。

 M2チップでは、低電力モードを選択した際の効果が大きいことが知られている。言い換えれば、それだけパフォーマンスが低下し、バッテリー使用時には持続時間が延長される。

 まず、ベンチ専用アプリ、つまりGeekbench CPU、同GPU、Cinebench、JetStream 2の結果を確認しよう。

電力モードによるGeekbench CPU性能の比較
電力モードによるGeekbench GPU性能の比較
電力モードによるCinebench CPU性能の比較
電力モードによるJetStream 2性能の比較

 この結果については、細かな考察をしてもあまり意味がないので、大きな傾向だけを見てみると、特にCPU性能では低電力モードとそうでないモードで大きな性能差が出ている。おもしろいのは、GeekBenchのシングルコアやCinebenchでは2倍近い差となっているのに対し、GeekBenchのマルチコアでは、そこまでの差にはなっていないこと。

 一方のGPU性能は、低電力モードにすると、通常のモードから2割弱ほど性能が落ちるものの、CPU性能ほどの落ち込みは見られない。

 次に一般的なアプリケーションの結果を見てみよう。

電力モードによるFinderフォルダーコピーにかかる時間の比較
電力モードによるXIPファイル展開にかかる時間の比較
電力モードによるiMovieでビデオ出力するのにかかる時間の比較
電力モードによるFinal Cut Proでビデオ出力するのにかかる時間の比較
電力モードによるXcodeでアプリをビルドするのにかかる時間の比較

 実際のアプリケーションでも、電力モードによる性能の差はかなり大きい。特にCPU性能が結果に大きく影響するテストほど、その違いが大きくなっているのが分かる。たとえば、Final Cut ProやiMovieでのビデオエンコード処理では電力モードによる差が大きい。Xcodeによるアプリのビルド処理でも比較的違いが大きいが、それらに比べると、FinderによるコピーやXIPファイルの展開では差は小さくなっている。

結論:メモリーは16GB以上を搭載しよう

 今回のテスト結果を総合的に考えて、現行のM2搭載のMacBook AirとM2 Pro搭載のMacBook Proを比較検討してみよう。純粋なCPU/GPUテストでは、確かにM2 Proの性能は高く、M2が引けを取っているように見える。しかし、一般的なアプリケーションでは、その差はかなり小さくなり、体感できるような性能差は見られない。

 ただし、大量のデータを処理する必要のあるビデオのエンコーディングでは、M2とM2 Proの差がはっきり体感できるほどの処理時間の違いが出る。それでも、メモリーを十分に搭載していれば、大量のデータ処理が極端に遅くなるということもない。

 具体的に言えば、4K程度の解像度のビデオ処理でも、8GBの実装メモリーでは明らかに不足する。今回は、8GBのM2モデルはテストしていないが、8GBではM2でも、今回示したM1程度の性能しか発揮できない可能性は高い。

 それなのに、現行のMacBook Airのモデルのメモリー容量は、未カスタマイズでは8GBのものしかない。量販店などで、いわゆる「吊るし」のモデルを購入すると8GBしか選べない場合も多いだろう。もちろんAppleストアでカスタマイズすれば、+2万8000円で簡単に16GBに増量できるが、最初から16GBを搭載したモデルも用意して欲しいところだ。

 一方、M2 Pro以上を搭載する14/16インチのMacBook Proでは、メモリー容量は最低でも16GBになっている。これは、8GBでは十分に性能を発揮できない場合があることをアップルも認識しているからだろう。それは、実はM2でも同じと考えられる。「ビデオのエンコーディングなど一生するつもりがない」という人以外は、16GB以上を実装したい。

 ちなみに、15インチのMacBook Airにメモリー16GB、ストレージ512GBを搭載すると、25万48000となる。それに対して14インチのMacBook Proのエントリーモデル(CPU10コア/GPU16コア)は、同じ16GB/512GBの構成で28万8800円だ。その差は3万4000円。このあたりは選択に迷うところだろう。本体の厚みは、MacBook Airが1.13cmで、14インチMacBook Proは1.55cm。その差は4.2mmだが、実際には数字以上に違いが大きく感じられる。MacBook Airの最大の特長である薄さを重視するなら、MacBook Air選んで後悔はないはずだ。

 

筆者紹介――柴田文彦  自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

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