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『陰の実力者になりたくて!』の公認Discordはファンコミュニティー作りの最前線だ

ASCII.jp / 2024年11月23日 15時0分

人気作『陰の実力者になりたくて!』の公認Discordは、熱量が高い総合コミュニティーとして今注目すべき場所だ

作品コミュニティーの最前線「公認Discord」に注目!

 相次ぐX(Twitter)の仕様変更によってアニメ・ゲームをはじめ、多くの業界が広報宣伝施策の変更を余儀なくされた。その影響は今も続いている。

 そんななか、小説発で広くメディア展開中の『陰の実力者になりたくて!』(原作:逢沢大介)では、すべてのファンが気軽に集える場所としてDiscordに注力していた結果、熱量のあるコミュニティーを保持し続けることに成功。現在では9万人を超える大所帯となっている。

 そこで今回は、株式会社Aiming 事業支援部 マーケティングチームで、ゲーム「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」のマーケティングディレクターを務める小川文也さんにご登場いただき、Discordを選択した経緯、公式ではなく「公認」である理由、コミュニティー運営の実際など広くお話をうかがった。

2022年9月にスタートした『陰実』の公認Discordサーバー「陰の実力者になりたくて!総合コミュニティ」

『陰の実力者になりたくて!』introduction

「陰の実力者」

それは、主人公でも、ラスボスでもない。普段は実力を隠してモブに徹し、物語に陰ながら介入して密かに実力を示す存在。この「陰の実力者」に憧れ、日々モブとして目立たず生活しながら、力を求めて修業していた少年は、事故で命を失い、異世界に転生した。

シド・カゲノーとして生まれ変わった少年は、これを幸いと異世界で「陰の実力者」設定を楽しむことにする。「妄想」で作り上げた「闇の教団」を倒すべく(おふざけで)暗躍していたところ、どうやら本当に、その「闇の教団」が存在していて……?

ノリで配下にした少女たちは勘違いからシドをシャドウとして崇拝し、シドは本人も知らぬところで本物の「陰の実力者」になっていき、そしてシドが率いる陰の組織「シャドウガーデン」は、やがて世界の闇を滅ぼしていく――。

主人公最強×圧倒的中二病×勘違いシリアスコメディ!?

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原作者監修のシナリオをプレイできる! 「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」

主人公のシャドウはじめ、原作でおなじみのキャラクターが登場する完全新作の3DアニメーションRPG。原作者・逢沢大介先生が監修したオリジナルシナリオの存在も見逃せない。2022年11月に全世界165ヵ国同時期リリース、現在はiOSおよびAndroid対応端末、Windowsにてプレイ可能。プレイ料金は基本無料(一部アイテム課金制)。

2024年8月には配信プラットフォームとして新たにSteamが加わった(画像クリックで外部サイトに飛びます)
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あえて高リスクな「アニメ・ゲーム同時制作」に踏み切る

まつもと 最初に小川さんのプロジェクトでの立ち位置からおうかがいしたいと思います。

小川 私はいわゆるマーケティングディレクターです。ゲーム「陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン」(以下、カゲマス)におけるマーケティングプランの策定をはじめ、どういったクリエイティブを作っていくかなども含めたマーケティング周り全般を担当しています。

株式会社Aiming 事業支援部 マーケティングディレクター 小川文也さん(画面中央)にお話をうかがった

まつもと ありがとうございます。今回、お話をうかがおうと思ったきっかけは、Discordのサーバー「陰の実力者になりたくて! 総合コミュニティ」を拝見したからです。本当にびっくりしまして。1つの作品のファンコミュニティーが極めてアクティブに動いていることに驚かされました。

 『陰実』はライトノベル(Web小説)から始まり、コミック、アニメ、ゲームと幅広くメディア展開している作品です。さっそくですが、まずメディアミックスの展開概要をゲーム運営の立場からこの連載の読者に紹介するようなかたちで教えていただけますか。

小川 弊社は今回、アニメの製作委員会にも入らせていただきました。基本的には『陰の実力者になりたくて!』のゲームを制作するためです。そして今回のメディアミックスにおいてかなり特徴的なのは、アニメ第1期の放送中にゲームがリリースされていることだと思っています。

 もちろん、ゲーム会社としてはリスクが高い試みです。“多くのアニメや動画など、コンテンツがあふれる現代において、アニメがどれほど視聴されるか読めない”というなかで、自分たちの目利きだったり、版権元さん(KADOKAWA)との信頼関係をベースに、1期放送中にリリースできるように開発を進めるという展開はかなり珍しいと思います。

まつもと “とりあえず青田買いしてアニメが当たったらゲームも作り始めよう”みたいな形ではない、ということですよね。ですがアニメ制作と並走するというのは、相当なご苦労があったかと思います。

小川 開発からは“ゲームで使える素材がまだ存在しない”ことには苦労したと聞いています。

 アニメも制作している最中にゲーム作りを並行して進めるかたちになるので、十分な資料がないことがあったそうです。「まさに今、アニメ用の資料を作ってます!」というなかで(アニメ版のデザインをもとに)進める必要があったので、開発期間もかなりタイトになりました。

 とは言え、放送中にサービスを開始することは、ゲームにとってはもちろん、作品にとっても非常に大きな効果をもたらすと考えているため、ゲーム開発でよくある『もう少しブラッシュアップすれば、もっと良くなるから開発期間を延ばそう!』という考えを捨てたと聞いています。

まつもと 放送日時がすでに決まっているわけですものね。あと、たいていアニメスタジオは本編制作で手一杯になるので、ゲーム側で急遽“決めカット”みたいなものが必要になっても供給は困難でしょうし。

小川 はい。ゲームの都合でアニメ放送をズラしてくださいとは言えないので。そういう点でも今回のメディアミックスは、関係各所の協力と信頼を基に、Discord以外の部分でも極めて珍しい展開をしていたのかなと思います。

まつもと もう少し基本的なところもうかがいたいのですが、まずアニメとゲームがほぼ同時に進み始めて、「カゲマス」がリリースされたのはいつ頃でしょう?

小川 リリースは2022年11月29日で、アニメは第1期の第8話放送後から9話放送直前のタイミングです。ただ、9月下旬のアニメ開始直前の生放送番組で「ゲーム化します」という発表はさせていただきました。

『陰実』は“これから歴史を作っていく”作品

まつもと 前述の通り、『陰実』は原作小説のほかコミック・アニメ・ゲームと3つのメディアミックスがあります。Discordのお話に入る前に、それぞれどういったプレイヤー/ファン層なのかもうかがいたいです。おそらくDiscordを選択された理由ともつながると思うので。

 小川さんは、作品に紐づいたファンって、マーケティング的にどんなふうに分析をされていますか?

小川 私たちのなかで明確になっているのは2つです。まず男女比は9対1。そして何より、リリース前から海外人気がすごく高いことですね。それこそPVをはじめとする動画を公開すると、海外からのコメントが目立っていました。

 ですから、“これから始まる作品”としては、ある程度グローバルな地盤はあったと思います。ただ、Discord利用に関しては『陰実』のプレイヤープロファイルがきっかけではないんです。

まつもと それは興味深いですね。年齢層はいかがですか?

小川 年齢層はゲームとアニメで異なると思います。アニメは10代も多いのですが、ゲームは20代後半から30代がメインですね。

まつもと 案外ばらけています。

小川 それに関しては、そもそも我々がそうした年齢層に対してアプローチしたという理由もあります。ゲームは20代後半から30代をメインターゲットにしていますので。

まつもと ゲームの中身だけでなく、広告を打つときの媒体選びなどにも関わってくるわけですね。

作品の歴史は「水着衣装」の枚数でわかる!?

まつもと Aimingさんはさまざまなゲームを手がけられていらっしゃいますが、マーケティングやマーケット的な面での他作品との違い、「カゲマス」ならではの特徴はありますか?

小川 マーケット的な違いですと、たとえば10年以上メディア展開されているような作品との違いは特徴的です。つまり、これから歴史を作っていく作品と、すでに歴史がある作品の違いです。これは明確に感じています。

 歴史がある作品には、その歴史に紐づいた多くのファンがいます。そんなファンのみなさんに何かを打ち出しても、すでにその要素は過去のコンテンツなどで満たされている場合が多いのです。結果、反響が広がりにくい傾向があります。良い意味で、その作品にはさまざまなコンテンツがあふれているからですね。

まつもと 具体的には?

小川 ゲームでシーズナルのイベントを開催するときは、「このキャラのこんな衣装が見られます!」といった宣伝文句が定石だと思うのですが、歴史を重ねた作品とは異なり、『陰実』には“このキャラのこんな衣装”自体がまだほとんど存在しないのです。結果、「カゲマス」でしか見られないものが増えます。

 また、キャラの深掘りも済んでないので、「このキャラってこんな側面があったのか!」というキャラクターへの関心も非常に高くなります。そのため、ファン層のアンテナがゲームに集中しやすくなる側面もあります。

(C)逢沢大介・KADOKAWA刊/シャドウガーデン (C)マスターオブガーデン製作委員会

まつもと なるほど……! 私がDiscordを見て“異様な熱量”だと感じた理由が少しわかった気がします。

小川 メディア展開含めて長い歴史がある作品ですと、「あのキャラの水着衣装、もう5~6パターンは見たよ……」という反応が見られることもあります。

まつもと しかも、下手にこれまでのイメージから外れたデザインにするわけにもいかないでしょうし……。

小川 歴史がある作品は、各キャラクターの深掘りや異なる衣装の発表もすでに済んでいることが多いので、かなり踏み込んだ設定を用いたシナリオを作る必要があります。とは言え、これまで積み重ねてきた歴史から踏み外すとファンのあいだから、「それって“解釈違い”だよ」という声が挙がってしまうかもしれません。

まつもと 良かれと思ったファンサービスが逆効果に。

小川 はい。歴史がある作品にはそのぶん積み上がったイメージもしっかり存在していますから。そこが『陰実』との違いだと感じています。

まつもと 今のお話で「カゲマス」の位置づけがかなり明確になってきたと思います。ではいよいよ、Discordの件をおうかがいしたいと思います。

プロも驚いた『Discordに2~3万人も集まるの!?』

まつもと インタビュー前のやり取りで、“Xの仕様変更はDiscordサーバー開設の理由ではない”ということを強調されていました。ゲーム化に際しては早い段階で「SNS戦略どうしよう?」という話し合いがあったと思うのですが、Discordが選択肢に挙がった経緯を教えてください。

小川 これは正確に言うと、競合タイトルの分析をしているときに“すでにアニメ化した、とあるスマホゲームのKPI”に注目したことが出発点です。

 その作品に対して我々は『アニメの反響以上の盛り上がりが作られている』という印象を持っており、その要因を調べていくなかで、たどり着いた1つがDiscordでした。

 我々がそのスマホゲームのDiscordを見たときの最初の感想は……多分、まつもとさんが私たちのDiscordを見てくださったときの感想とほぼ同じです。アニメ以上にすごく盛り上がっている。『熱量高いな、ここ!』って。

 そしてその熱量はゲーム内のKPIにも良い影響を与えていると思いました。そこで仮説ベースではありましたが(Discordサーバー開設を)チャレンジさせてほしいと社内に話して理解を得た上で進めた、というかたちです。

まつもと なるほど、少なくとも先行事例があったのですね。マーケティングのプロである小川さんから見ても熱量を感じたとのことでしたが、どんなところにインパクトを受けたのですか?

小川 一番の理由は、Discordというクローズドなコミュニティーにその時点で2~3万人も参加していた、というところですね。『こんなに人が集まるの!?』と。

 つまり、件のスマホゲームのDiscordを見たときは、まだまだ“濃いゲーマー”が多く集まっているような時代だったのです。私たちが始めたときでも“ようやく認知が広がってきたかな?”ぐらいの感覚です。

 最近は「Apex Legends」や「VALORANT」などを遊ぶ際はボイスをつなぐというムーブメントが大きくなったおかげで、Discordを導入する人も増えましたが、国内の利用者数で言えば、今でもメジャーとまでは言えないと思っています。

Xの代替ではない“異なる場所”が出現したという感覚

まつもと 大学でも仕事をしている私の例で言うと、有料化したSlackの代替サービスになるかなとDiscordを試してみたところ、学生がズラリとアクティブになっていてびっくりしました。

小川 (笑)

まつもと Slackは全然使ってくれなかったのに……。

小川 Discordだと積極的に話してくれる、と。

まつもと はい。ついでにどんなゲームをしているかも丸わかり、みたいな。現在はそういう雰囲気ですけれど、小川さんが驚いたタイミングはもっと前ですよね。それが今では9万人が『陰実』のDiscordに参加しています。

 なお、Xの変化は直接影響しなかったということですけれど、仕様変更前はゲームの告知って結構Xが中心だったと思います。現在は、その中心が変わったのか、それともXとは異なる場ができたのか、どういう捉え方なのでしょう?

小川 我々としてはもう完全に“異なる場ができた”ですね。Xは今でも最重要視しています。

まつもと では、異なる場とおっしゃったDiscordを、どのようなコンセプトで運営されているのかうかがいたいです。

〈後編は明日公開〉

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 IT・出版・広告代理店、映画会社などを経て、ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。情報メディア・コンテンツ産業に関する教育と研究を行ないながら、各種プロジェクトを通じたプロデューサー人材の育成を進めている。デジタルハリウッド大学院DCM修士(専門職)・東京大学大学院社会情報学修士(社会情報学)。経産省コンテンツ産業長期ビジョン検討委員(2015)など。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

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