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アップルは今秋「Apple Intelligence」と同時に「機械学習」も推していく(西田宗千佳)

ASCII.jp / 2024年9月11日 11時45分

iPhone 16。カジュアルだが機能的にはApple Intelligence推し

 秋のアップル新製品といえばiPhone。そして、今年のiPhoneといえば「Apple Intelligence推し」だ。

 iPhone 16シリーズはまさに「Apple Intelligence世代のiPhone」なのだが、同時に今秋の新製品では「高度な機械学習」を軸にした機器・機能もアピールされた。

 AIと機械学習の関係は少しわかりづらいところだが、アップルの全体戦略として考えると、なかなかに味わい深いところがある。そういう意味では、「今年iPhoneを買わない」人であっても、アップルが狙う戦略を感じられるのだ。

 それはどういうことか、ちょっと解説してみよう。

プロセッサーは「Apple Intelligenceレディ」

 冒頭で述べたように、今年のiPhoneである「16シリーズ」は、Apple Intelligenceを前提とした作りになっている。

 昨年中に発売済みのiPhoneだと、Apple Intelligenceに対応するのは「iPhone 15 Proシリーズ」のみ。プロセッサーとして「A17 Pro」を搭載していることが条件だからだ。

 iPhone 16は、スタンダードモデルの「iPhone 16系」も上位モデルの「iPhone 16 Pro系」も、新しい世代である「A18シリーズ」を搭載している。iPhone 16 Pro系は「A18 Pro」、iPhone 16系は「A 18」と性能は異なるが、プロセッサーの世代が違っていたiPhone 15系とiPhone 15 Pro系に比べると、差が小さくなっていると予想できる。

A18シリーズに刷新され、全機種がApple Intelligenceレディ

 半導体製造を担当するTSMCの製造工程も、昨年に比べれば生産効率が上がっていると考えられる。だから、昨年だと「どちらも新世代」が厳しかったが今年は緩和したから……というところかもしれない。

 しかし「普及モデルではプロセッサー性能を抑えたくなるところだが、今年はそうではなかった」と考えた方が良さそうだ。

 スマートフォンの差別化は難しくなっている。性能が上がっても多くの人には体感しづらく、カメラ性能も良いに越したことはないが、不満は少ない……という感じかもしれない。

 スマホのバッテリー劣化や故障は(究極的には)避けられないものなので、誰もが一定期間で買い替えていく機器ではある。とはいえメーカーとしては、どこかで「新しさ」を打ち出し、積極的に付加価値の高いものを販売していきたい、と考えるものだ。

 そこで出てきたのが生成AIである。

 スマホの場合、プライベートな情報を使って「個人のためのアシスタントを目指す」という方向性がある。プロンプトで命令を与える形だけを軸に置くのではなく、画像や音声、アプリの利用履歴やメッセージなどのテキストデータを活用し、あくまで「持ち主のために、生活を楽にする機能」になることを目指す。メールの要約や写真の「自然文による検索」などは、そのわかりやすい例かと思う。

Apple Intelligenceはプライベートなアシスタントとして機能
写真を自然文で検索できるようになると、写真アプリの使い方も変わる可能性がある

 まだ英語でも正式リリース前であり、日本語では2025年の提供となる。だから、Apple Intelligenceが素晴らしく便利で、これからのiPhoneのキラー機能になる……とまでは断言できない。

 しかし、Apple Intelligenceは「近年アップルが投資している技術の中でも中核の存在」であるのは間違いなく、素早く普及させるためにも、できる限り幅広い製品で使えることを目指している。そういう意味では、iPhone 16シリーズすべてでApple Intelligenceに対応するのは当然とも言える。

新しく搭載された「カメラコントロール」

「カメラコントロール」もApple Intelligenceに通ず

 Apple Intelligenceへの注力に関しては、プロセッサー以外からも傾向が読み取れる。

 iPhone 16シリーズには「カメラコントロール」という新しいボタンが搭載された。これは単なる押しボタンではなく、タッチセンサーを併用してズーム変更や撮影設定変更もできるというもの。画面をタッチせずにカメラを素早く操作するという意味で、かなり面白い機構である。

 ただこの機能は「写真や動画を撮影する」ために搭載されているわけではない。Apple Intelligenceとの組み合わせにより、「自分の周囲の写真からの情報を活用する」ことができるようになる。ポスターからスケジュールを生成したり、気になった商品を検索したりといった使い方だ。

 要はAndroidにおける「Googleレンズ」なのだが、iPhone内のさまざまなアプリとの連携が強化されていることなど、使い勝手は変わってくるだろう。

 また、カメラコントロールという専用ボタンがあり、それが「スマホを縦持ちした時に押しやすい」位置にあることも大きい。「軽く押してApple Intelligenceを起動する」ような使い方もできるわけだ。

 昨年、iPhone 15 Proシリーズには「アクションボタン」が追加された。カメラの起動はこれでもできるのだが、アップルはまた別のUIを、カメラとAIのために用意してきた。それも、上位モデルだけでなく全モデルにである。

 カメラなどのUI刷新という観点だけでなく、「Apple Intelligenceへの注力」を示すものであるのは疑いない。

健康や音声での「機械学習」による差別化はアップルの強み

 とはいえ、日本でApple Intelligenceが使えるようになるのは2025年になってからだ。2025年のいつ、というアナウンスはないが、もっとも長い場合、ほぼ1年先まで使えない可能性もある。「だったら今年は……」という発想も出てくるだろう。

 では、アップルが新機軸を別に用意していないのか、というとそうではない。新機軸は周辺機器での「機械学習活用」にある。

 「Apple Watch Series 10」などに搭載された「睡眠時無呼吸の兆候検出機能」や、「AirPods Pro 2」へのソフトウエアアップグレードで提供される「聴覚の健康をサポートする機能」だ。

睡眠時無呼吸の検出や聴覚の健康補助など、周辺機器での「ヘルスケア」機能は魅力を増している
 

 どちらも健康に関わるものだが、重要なのは、医療用の特別なハードウエアを使っているわけではない、ということだ。

 医療機器として診断に使われる機器は精密なもので、民生品で同じデータは得られない。だが民生品であっても、科学的裏付けのあるデータ収集と解析手法を使うことで、健康の維持や病気の予兆検知を助ける情報を得ることはできる。それを可能にするのは「研究に裏付けされた機械学習処理」だ。

 そうしたアプローチはアップルだけが実施しているわけではないが、特にアップルが熱心に開発し、製品化している領域であることは疑いない。

 またiPhone 16 Proシリーズでは、「ビデオ撮影時の空間オーディオ収録と編集」や、「録音済みの曲に合わせて声を重ね後から調整する」というマルチトラック収録的な機能もある。これらも音声に高度な機械学習処理を重ねることで実現されている。

iPhone 16 Proでは「ビデオとともに空間オーディオを収録」できるが、音の定位認識や非破壊編集にはもちろん、機械学習が活躍する
 

 「AIと機械学習」という書き方をしたが、実のところ、両者に大きな差はない。処理の規模や方向性が違うだけだ。同じiOSの中でも、AIと機械学習処理は両方入っているし、機能によっては機械学習が「AI」と呼ばれているものもある。

 Apple Intelligenceがまだ使えなくても、アップルが開発した「機械学習による機能」は製品全体に組み込まれている。それらを魅力的だと感じたら、使い続ければいい。iPhone 16を買わなかったとしても、それら新機能が与えてくれる価値は小さいものではない。

 そしてなにより、それらの周辺機器や新機能は、結局のところ「iPhoneなどのアップル製品を使い続ける」モチベーションになる。アップルから見れば、同社のエコシステムに入っていてくれれば、いつかは「最新のiPhoneやMac」を買ってくれる可能性につながる。

 その結果として、Apple Intelligenceも普及していく……ということになるのだ。

 

筆者紹介――西田 宗千佳  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「生成AIの核心:「新しい知」といかに向き合うか」(NHK出版)、「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。

 

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