再生医療「毛包器官再生による脱毛症の治療」に関する共同研究の開始について
@Press / 2016年7月12日 14時30分
京セラ株式会社(社長:山口悟郎 以下、京セラ)、国立研究開発法人理化学研究所(理事長:松本紘 以下、理研)および株式会社オーガンテクノロジーズ(社長:杉村泰宏 以下、オーガンテクノロジーズ)は、再生医療分野である「毛包器官再生による脱毛症の治療」に関する共同研究契約を締結し、今後、毛包器官を再生して脱毛症を治療する技術や製品の開発を共同で実施することといたしましたのでお知らせいたします。
1.共同開発の背景
脱毛症は、男性型脱毛症をはじめ、先天性脱毛や瘢痕(はんこん)・熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などが知られ、現在、日本全国で1,800万人以上(出典:男性型脱毛症診療ガイドライン2010 年版)の患者様が存在すると言われています。脱毛症は、人々の生活の質に大きな影響を与えるため、育毛剤や脱毛阻害薬、自家単毛包移植術[1] など、幅広い治療が行われており、大きなマーケットを有しています。しかしながら、これらの治療技術は全ての症例に有効ではなく、自家単毛包移植術による外科的処置によっても毛包の数を増加させることはできません。そのため脱毛症に対する毛包再生医療の開発に大きな期待が寄せられています。毛包は毛髪を生み出す器官であり、再生医療の中でも幹細胞移入療法や組織再生に次ぐ、次世代器官再生医療の先駆けになると期待されています。
2.これまでの経緯 マウスの毛包器官の再生技術の開発
理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チーム(チームリーダー:辻 孝)は、これまで歯や毛包、分泌腺(唾液腺、涙腺)など幅広い種類の器官再生が機能的に可能であることを実証してきました。ほとんどの器官形成は胎児期に起こるため、器官再生のための幹細胞は胎児組織から採取する必要があります。一方、器官の中では唯一、毛包は出生後に再生(毛周期 [2])を繰り返す器官であることが知られています。研究チームは2012年、成体マウスのひげや体毛の毛包器官から、バルジ領域に存在する上皮性幹細胞と、間葉性幹細胞である毛乳頭細胞 [3]を分離し、研究チームが開発した「器官原基法」[4]により毛包原基を再生する技術を開発しました。この再生毛包原基を毛のないヌードマウスに移植すると、再生毛包へと成長し、毛幹(毛)を再生できることを実証しました。再生毛包原基移植による器官再生は、周囲組織である立毛筋や神経と接続すると共に、正常と同様の毛周期を繰り返すなど、機能的な器官を再生することが可能です。また色素性幹細胞を組み込むことにより毛髪の色を制御できるほか、再生毛包原基が再生する毛包器官の数を制御することも可能であることから、脱毛症に対する審美治療への応用可能性が示されています。さらに本年、研究チームは、iPS細胞 [5] から毛包器官や皮脂腺、皮膚組織を丸ごと含んだ機能的な皮膚器官系 [6] の再生にも成功※しており、器官再生では世界をリードする技術を有しています。
※ 2016年4月2日 プレスリリース 「マウスiPS細胞から皮膚器官系の再生に成功」
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160402_1/
3.共同研究の概要
これらの最先端の毛包再生技術をヒトの脱毛症治療へと展開するため、今後、京セラと理研、オーガンテクノロジーズの三者が協力し、ヒトへの臨床応用に向けた共同研究を実施することといたしました。本共同研究では、細胞培養技術や移植技術の確立、および移植に向けた機器開発を進め、2020年の実用化を目指します。尚、本共同研究は、理研融合連携イノベーション推進棟(兵庫県神戸市)[7]を拠点として実施いたします。京セラは、長年培ってきた微細加工技術や生産技術を応用し、細胞加工機器の開発などの技術開発を担当します。一方、理研、およびオーガンテクノロジーズは、毛包由来幹細胞の培養・増幅技術やヒトへの臨床応用に向けた細胞操作技術の開発、製造工程の確立、モデル動物を用いた前臨床試験などの技術開発を担当します。
【主な役割分担】
京セラ:
細胞加工機器開発など
理化学研究所、オーガンテクノロジーズ:
幹細胞培養・増幅技術開発、細胞操作技術の開発、製造工程の確立、前臨床試験など
4.ビジネスモデルの概要
毛包再生医療は、患者様ご自身の毛包から幹細胞を採取して加工し、患者様ご自身に移植する自家移植が中心となります。最も患者様の数が多い男性型脱毛症では、医療機関にて、少数の毛包を採取し、受託製造会社はその毛包から幹細胞を分離して、培養、増幅し、器官原基法により再生毛包原基を製造します。この再生毛包原基をパッケージして医療機関へと搬送し、医療機関において患者様に再生毛包原基を移植治療することになります。京セラは、将来のヒトでの臨床応用を見据え、オーガンテクノロジーズと連携してこのビジネスモデルの受託製造会社へと発展することを目指して、今回の共同研究を進めてまいります。まずは2年間の本共同研究において実用化への道筋をつけ、受託製造のビジネスモデルの具体化を進めてまいります。
5.補足説明
[1] 自家単毛包移植術
男性型脱毛症の患者様の後頭部から皮膚を採取し、毛包単位へと分離。その毛包単位を男性型脱毛症部位へ移植する治療方法
[2] 毛周期
一定期間ごとに毛包が退行と成長を繰り返すことにより、毛幹が生え変わる現象。胎児期に形成された毛包は、アポトーシスにより退行し、毛乳頭細胞が上皮性幹細胞と相互作用し、毛包の可変部(毛球部)を再生する。ヒトの頭髪の場合、毛周期は3~7年と考えられている。
[3] 上皮性幹細胞、間葉性幹細胞
ほとんどの器官は、胎児期に上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の相互作用によって誘導される器官原基から発生する。器官発生は、胎児期に起こるため、器官誘導能のある上皮性・間葉性幹細胞は、毛包を除いて、胎児期にしか存在しないと考えられている。
[4] 器官原基法
2007年に辻チームリーダーらによって開発された器官原基を再生する三次元的な細胞操作技術。コラーゲンゲルの中で、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を高密度に区画化して再構成することにより器官原基を再生する技術。
[5] iPS細胞
人工多能性幹細胞。
[6] 皮膚器官系
器官系とは複数の器官、組織によって構成される系統を指す。消化器系や循環器系などが有名。皮膚器官系は、ヒトの体の中で最大の器官系であり、毛包や皮脂腺、汗腺、表皮組織、真皮組織、皮下脂肪組織から構成される。
[7] 理研融合連携イノベーション推進棟
理化学研究所が、産官学の共同研究を連携して進める研究拠点。平成27年度からスタート。所在地:兵庫県神戸市中央区港島南町6-7-1
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プレスリリース提供元:@Press
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