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遺伝性難聴の根本的治療に成功

@Press / 2015年4月6日 17時15分

図1
【概要】
順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座・池田勝久教授、飯塚崇助教、神谷和作准教授らの研究チームは、遺伝性難聴(*1)の根本的治療を目指してヒトの遺伝性難聴に等しい疾患モデルマウスの作製に成功しました。続いて、このマウスへの遺伝子治療により聴力の回復にも世界で初めて成功しました。この疾患モデルマウスはヒトの遺伝性難聴の最大の原因であるGJB2(コネキシン26遺伝子)を変異(*2)させており、周産期のGjb2変異マウスの内耳に正常のGjb2遺伝子を導入することで、聴力と内耳細胞の発育の改善がみられました。ヒトの遺伝性難聴の仕組みに等しい疾患モデルマウスの聴覚を回復できたことは、ヒトの遺伝性難聴の根本的治療法の開発に貢献することが期待されます。なお、この研究は理化学研究所、がん研究所、帝京大学との共同研究で行われました。本研究成果はHuman Molecular Genetics オンライン版4月2日付に公開されました。

【本研究成果のポイント】
・Gjb2遺伝子の欠損マウスは生後より高度難聴を示し、ヒトの遺伝性難聴のモデルとなる
・周産期に内耳に正常のGjb2遺伝子を導入することで聴力の回復に成功した
・遺伝子治療は、ヒトの遺伝性難聴の根本的治療法開発に期待できる

【背景】
先天性難聴は出生時からの高度な聴覚障害を示し、先天性疾患の中で最も高頻度に発生する疾患の一つです。言語発育の障害や明瞭な会話の制限といった著しいハンディキャップをきたします。1000出生に1人の発症で、その半数以上は遺伝子異常が原因とされています。治療として補聴器や人工内耳によって会話能の向上がなされていますが、根本的な治療とはなり得ていないのが現状です。遺伝性難聴の原因遺伝子としては現在までに60以上が同定されており、最終的には150程度の難聴遺伝子が推察されています。これらの難聴遺伝子の中でGJB2遺伝子変異が最大の原因とされており、30~50%を占めています。GJB2変異による遺伝性難聴は日本で3万人以上、全世界で130~220万人とされ、新生児での発症人数は日本で年間100~160人、全世界で年間2~4万人と推察されます。しかしながら、GJB2変異による遺伝性難聴の根本的な治療法は未だ存在しません。

【内容】
聴覚障害は最も汎発する感覚器疾患であり、先天性の遺伝性難聴は1,000出生に1人に発症します。また人種を問わず、最も高頻度の遺伝性難聴はギャップ結合(*3)タンパクであるコネキシン26をコードするGJB2の劣性変異に起因することが解っています。そこで今回、池田教授らの研究チームはヒトのGJB2変異による遺伝性難聴に等価の疾患モデルマウスを作製し、遺伝子治療により聴力の回復を試みました。既存の治療戦略では聴覚能を完全に回復させることはできていません。今回作製したGjb2を欠損したマウスは出生時より高度難聴を示し、ヒトの先天性難聴と全く同等の所見でした。内耳の組織像(図1)において正常では音を感じ取るセンサーの役割をしているコルチ器の立体構造が形成されていましたが、Gjb2欠損ではコルチ器は立体構造が形成されず、虚脱していました。つまりGjb2遺伝子 はコルチ器の分化、発育に必須な役割を果たしていることが判明しました。またコルチ器から脳に音を伝えるラセン神経節細胞も時間経過とともに徐々に変性することもわかりました。    
次に、研究グループは出生直後のマウスの内耳にGjb2遺伝子を導入しました。導入して10~12週後に聴力を測定すると、Gjb2を投与した側の耳は遺伝子導入しない耳に比較して有意に聴力の回復がみられました。聴力が回復した内耳では、コルチ器の正常な立体構造が形成されていました(図2)。音を内耳から脳に伝える伝導路であるラセン神経節細胞は遺伝子の未導入では細胞変性が著しく生じていましたが、導入側ではラセン神経節細胞構造が良く維持されており(図3)、聴力回復の機能結果と一致していました(図4)。

【今後の展開】
現在まで、この遺伝性難聴に対しては人工内耳や補聴器の適用はあるものの、根本的な治療法や治療薬は存在しません。今回のヒト遺伝性難聴の等価の疾患モデルマウスにおける根本的な治療の成功はヒトへの臨床応用を実現化させる大きな牽引力となり得ます。しかしながら、ヒトへの応用には解決しなければならない課題もあります。マウスとヒトの内耳では発達様式が異なっており、マウスの周産期はヒトでは胎生期に相当するため、ヒトでは胎生期の遺伝子治療が要求されます。またコルチ器の発育期のみにコネキシン26が必須である点を考慮すると、永続的なコネキシン26の発現は必要ではないと考えられます。現在、研究チームでは、今回作製されたGjb2欠損マウスを用いて、iPS由来細胞による再生治療とGjb2の遺伝子治療を組み合わせた難聴治療の研究を試行し、すでに良好な成果を得つつあります。このように、本研究結果はGJB2変異による遺伝性難聴の治療戦略を明確に示し、聴覚障害の根本的治療を目指す新時代を切り開くと考えられます。

【用語説明】
*1:先天性難聴・遺伝性難聴
先天性難聴は世界中で出生児1000人に1人の割合で発症し、最も多い先天性障害である。その半数以上は遺伝子に原因を持つ遺伝性難聴とされている。遺伝性難聴は難聴以外の症状を伴う症候群性と難聴を主症状とする非症候群性に分類される。

*2:コネキシン26・GJB2変異遺伝性難聴(コネキシン26遺伝子変異型難聴)
コネキシン26は遺伝子GJB2(GAP JUNCTION PROTEIN, BETA-2)により合成され、内耳のギャップ結合を構成する主要タンパク質の一つ。世界で最も高頻度に検出される遺伝性難聴の原因因子。 GJB2変異遺伝性難聴(コネキシン26遺伝子変異型難聴)は、我が国では遺伝性難聴の50%以上もの割合を占めるとされており、常染色体劣性と常染色体優性の遺伝形式を持つ感音性難聴。まれに皮膚疾患を伴うものもあるが、主には非症候群性。

*3:ギャップ結合
コネキシンは細胞膜で6個の集合体により分子の通り道を作り、隣の細胞の集合体と連結してギャップ結合を作る。このギャップ結合は分子量約1000以下の低分子やイオンを濃度勾配によって透過させ、細胞間の物質輸送を可能とする。

原著論文:「Perinatal Gjb2 gene transfer rescues hearing in a mouse model of hereditary deafness 」
Takashi Iizuka; Kazusaku Kamiya; Satoru Gotoh; Yoshinobu Suginani; Masaaki Suzuki; Tetsuo Noda; Osamu Minowa; Katsuhisa Ikeda
Human Molecular Genetics 2015
doi: 10.1093/hmg/ddv109

なお、この研究は文部科学省科学研究費 基盤(B)、基盤研究(C)、若手研究(B)、厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、テルモ科学技術振興財団などの研究助成により行われました。



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プレスリリース提供元:@Press

【関連画像】

図2、3図4

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