「球数制限」と共に、もっと頭を使って考えて練習すべき

ベースボールキング / 2019年6月12日 12時0分

小林敬一良氏は1980年から2007年まで大阪の浪速高等学校硬式野球部監督。強豪校ひしめく大阪府大会を勝ち抜き甲子園に2回出場。多くの社会人、大学、プロ野球選手を育成。現在も小中学生から大学生までを指導している。小林氏に「球数制限」をめぐる問題について聞いた。




■投手の異状に気が付くのが指導者


僕は高校野球の指導者時代に球数を意識したことはありません。「この投手は疲れているな」「ちょっと無理だな」と思ったらそのタイミングで変えていました。
他の指導者のように「限界を超えて投げてみろ」とは思いませんでした。根性で限界を乗り越えさせるのは無理です。
本来、指導者は、そんな制限をしなくても「この子はこうなったら限界だ」とわかるような目を養わなければならないと思います。

投手と言っても置かれている立場によって様々です。確固としたエースピッチャーと、2番手、3番手、4番手、5番手では状況が違います。
5番手あたりになってくると、毎回の練習試合の結果でベンチに入れるか入れないか決まってきます。だから機会が与えられれば、練習試合でも必死で投げます。でも確固たるエースは練習試合ではいろんなことを試したり調整したりすることができます。エースが9回投げたときの疲労度とベンチ入りをかけて必死で投げている投手の疲労度は違います。
たとえイニング数が短くても、控え投手の方が疲れます。体だけでなく神経も疲れます。神経を使うことは筋肉だけでなく内臓にもダメージを与える可能性があります。それが肩ひじに悪影響を与える危険性もあります。考える過ぎる投手は疲れるのが早く、感性が鋭く、ひらめきで投げるタイプは疲労しにくい傾向にあります。
そういう事情も指導者は見抜かなければなりません。
今は指導者の中には、自分が投手指導についてよくわかっていないことを自覚していない人がいるように思います。率直に言って、 将来ある投手を何人も潰している指導者は、たとえ甲子園に何回出ていても資質がないといっても良いのではないでしょうか。

■新人の起用には慎重


僕は、春に入部した新人投手を起用することには慎重でした。その選手のことが良くわからないうちに投げさせるのは危険ですし、受験勉強などで体を動かしていない可能性もある。
でも、有力私学や公立の強豪校などでは、入ってきたばかりの投手をすぐにマウンドに上げて投げさせることが多かった。1年の夏休みには新チームでがんがん投げさせている学校もありましたが、僕はそれをしなかった。完投なんてとんでもないと思っていました。
今、大学の硬式野球部で教えていますが、ここでも新人の起用には慎重です。他の大学では2月、3月からフルで投げさせているところもありますが、僕はそうはしません。高校時代に故障の経験があったり、体力的に不安がある選手を、気温が低いうちから投げ込ませるのは危険だと思うからです。

■日程の問題


今の高校野球は日程にも問題があります。勝ち進んでいけばどうしても先発投手の酷使を生んでしまう。なぜあんなタイトなスケジュールでするのかよくわかりません。
例えば、甲子園大会も夏休みの前半と後半に分けてもいいかもしれない。
地方大会ももっと早くした方がいい。僕らが現役の頃は、地方大会は試験が終わってから始まっていましたが、今は試験中に部活をやっている例もあります。夏の予選と期末テストが重なる学校もあります。
それならもっと前倒しにして、6月に予選、地方大会を実施してもいいのではないですか。
6月に地方大会があれば、終わってから思い切り試験が勉強できます。試験が終わってすぐに予選に入ると熱中症、ケガの可能性が高まります。

■考えながら投球練習をしないと


投手の投げ込みについても問題になっていますが、僕は高校生や大学生の場合はある程度の球数は投げないと、投手としての感覚は身につかないと思います。
ただ、投球練習は頭を使ってやらなくてはいけないと思います。
投手はキャッチボール、遠投をしてからブルペンに入りますが、肩慣らしを十分にしているにもかかわらず、そのあとでブルペンで捕手を立たせて立ち投げを延々とする投手がいます。で、肝心の投球練習はカーブやスライダーなども含めて3,40球。これでは投球技術は身につきません。
キャッチボール、遠投の段階からフォームやコントロールの確認をしていたら、ブルペンで捕手を立たせなくてもいいし、そんなに投げなくてもいいはずです。頭を使えば、そんなに投げ込まなくても技術練習ができます。
キャッチボールや遠投もただ単にアップではなくて、技術練習、投球練習だということを認識してほしい。「球数制限」とともに、そういう意識づけが必要ではないでしょうか。

■分業に伴う問題


球数制限が導入されれば、投手の分業が進みます。そうなると新たな問題も出てきます。先発とは異なり、短いイニングを投げる投手には、また違ったリスクも出てきます。短いイニングを抑えようと力むから、テイクバックで必要以上に腕に力が入ります。これがダメージにつながりやすい。プロ野球でもセットアッパーやクローザーは寿命が短いですが、同じようなリスクがあると思います。

また、単に投球するだけでなく、フィードバックも必要です。何をテーマに投げて、どんな収穫があったか。何ができるようになったか。投手本人も、指導者もそれを大事にしなければなりません。

今の子供は、ゲームやスマホを使い慣れているせいか、広いところで遊ばないせいか、奥行きの感覚がないと感じます。空間認識能力が低いんです。
僕は小学校から大学まで投手を指導するときには「ボーリングのスパッツを空間に作る感覚で投げなさい」と言います。こういう風に腕を動かしたら、ここにボールが行くというのを空間として認識しなければならなりません。

高校野球はいろいろ改革すべきことがあると思います。「球数制限」は、その一つの手がかりとして導入すればいいのではないでしょうか。(取材・写真:広尾晃)

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