まるで大学のゼミ!?選手が「課題研究」してプレゼン!熊本西の独自な取り組み(後編)

ベースボールキング / 2019年7月11日 12時0分

トップバッターでプレゼンを行ったのは「自分自身、体が硬く怪我も多かったので股関節について調べた」という石田恭琢(3年)だ。
石田は「股関節は対角線の関係にある肩甲骨とも連動している。また、肩と臓器は密接に関係しているため、股関節の柔軟性を拡げることは一般の生活とも無縁ではない」と発表。また、股関節の柔軟性は体の姿勢とも無関係ではなく、股関節が硬ければ肩こりに繋がり、目の疲れにも直結すると述べた。「これらを向上させるには体幹トレーニングが最適」と結論付けている。



この発表に対して主将の霜上幸太郎が「急激に肩甲骨のストレッチをすると怪我の恐れがある。事前のストレッチを教えてほしい」と疑問をぶつけると、石田は「体が冷え切った状態でやると怪我の危険性が高まるので、自分の手で周辺の筋肉をほぐしてあげたり、全身の緊張をゆるめてあげることも重要」と回答。このように、活発なやりとりが次々と室内を飛び交っていく。

続いて登場したのは「21世紀枠で甲子園に出場した西高をさらに強いチームにしていくため、甲子園に出場したチーム、または近づいたチームの行動や取り組みを学び、自分たちの活動に活かしたい」という野田侑(2年)だ。
野田はプレゼンに動画を用いるなどして21世紀枠で出場したチームの特徴を研究。その結果「21世紀枠で甲子園に出場し、同年の夏に出場した学校は過去に2001年の宜野座(沖縄)、2010年の山形中央のみ。確率でいうと4・4%しかない。また、宜野座や21世紀枠で過去最高のベスト4まで進んだ宮城県の利府のように、決して練習環境に恵まれていない東北や沖縄のチームが近畿の強豪より好成績を収めている。どうやって強くなっていったのか、今後も継続して調査する」と発表し、大きな拍手を浴びている。



最後は藤田青空(2年)が「自分自身、三振が多いので打席でさらなる粘り強さとミート力を付けるために」という動機から動体視力についての研究結果を発表。「動いている物の情報を正確に処理する能力が動体視力。野球においては実際に投手が投げる球と自分の処理能力との間に大きな誤差が生じ空振りや打ち損じが多くなる」と結論付けた。また、動体視力を鍛えるための両手親指を用いたストレッチを紹介し全員で実践。室内の一体感はさらに強くなった。



このように、決して片側通行にならないプレゼンテーションによって、チームワークは醸成されていく。「2、3回目の発表あたりからプレゼンする方も受け取る側も、自分の意見をどんどん表現するようになりました。子供たちが化学反応を起こしたのです」と、横手監督も確かな手応えを得たようだ。

また、冬の練習中には「“あ、これ前に誰かが動画で流していたやつだね”」という会話がグラウンド内でも頻繁に聞かれるようになった。コミュニケーションツールとしても、計り知れないほどの力をチームにもたらしたと言えるだろう。こんなこともあった。

「県営八代球場で練習をした時、普段はあまり表立って発言しないような子が“甲子園に行ったら日差しの向きってどうなるんだろうね”と言ったんです。そこで角度を調べたら甲子園と八代球場はほぼ同じだった。彼に言われなければ、僕らも気づくことはなかった。練習中の時間帯に合わせて“1試合目ならこの角度になる”、“午後からはこういう日差しになる”とか言い合いながら練習できた。これも課題研究の成果だと思います」(元村副部長)

また、同じ日には課題研究の効果が別の形でも表れている。上田謙吾部長が振り返った。

「八代で練習をしたのは、霜上が甲子園の広さについてプレゼンした直後でしたね。練習前に霜上がガイド役になり、全員で球場をぐるっと歩いて回りました。彼は『甲子園のフェンスは高さが2・2m』、『捕手から後ろは15mだ』とか言いながらみんなにレクチャーしていました。そして各ポジションにも行って、霜上が語った球場の特徴を一度頭に入れながら、2か月後に立つことになる甲子園の特徴をあれこれイメージしたのです」



熊本西の課題研究は多くの効果と目に見えない力をチームにもたらしている。発案者の横手監督は言う。

「ウチのスタッフは4人いますが、4人が10のことを教えて40になるよりも、70人それぞれに2の力しかなかったとしても、結集すればこちらの40を100も上回ってしまう。そういう力も確認できましたね」



そして、今春から指導スタッフに加わり、今回初めて部員のプレゼンテーションに立ち会った井上肇副部長も、

「グラウンドでは見られない姿や考えに触れることができる。細かいところへの気遣い、発信を通して、野球以外のコミュニケーションにも活かすことができる。ただひとりの生徒が発表する場ではありません。全員が真剣な姿勢で聞いているし、発表する側もどうすれば上手に伝えることができるかを言葉と資料を使って工夫している。非常にわかりやすかった」

と、その効能を実感した。調べる、まとめる、作る、発表する。そして、生きた議論を交わす。決して他人任せにしない野球を繰り広げる熊本西の強さに触れた気がした。この課題研究は秋以降の取り組みとしてもぜひオススメしたい。実際に秋に準優勝し秋の九州でベスト8。甲子園に出場し、春は九州大会ベスト4。そして今夏の熊本大会は堂々の第2シードだ。課題研究の成果を、まだまだ見続けていたい。(取材・写真:加来慶祐)

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