芸能界のスターたちが戦った86年前の「桃色争議」、今に通じる「世論が味方」の戦法

弁護士ドットコムニュース / 2019年7月15日 9時35分

歌劇部も待遇の悪さは音楽部と同じでした。女生徒たちが争議の激励と支援を頼むために、彼女たちの父兄に送った手紙に、当時の待遇の悪さが表れています。「日夜過労を強い、公演につぐ公演、練習につぐ練習で、しかも疲れを休める控室は南京虫、のみで充満している不潔さであり、これに加えて本社から支給される僅かな手当はその一部が与えられるかまたは全然皆無となって途中で消え失せるのです」(中山『タアキイ』183頁)。

こうしたこともあり、歌劇部も音楽部に同調することになりました。この時のことを、水之江は「家族を養っていけないって言うから、そいじゃ可哀相だ、応援しようよって、それが始まり。」(中山『タアキイ』175頁)と振り返っています。音楽部と歌劇部は、待遇改善の嘆願書を提出しました。以下内容を列挙します。

・退職手当支給 ・本人の意思によらない転勤をしない ・最低賃金制の制定 ・定期昇給の実施 ・公傷治療費の会社負担 ・公傷及び疾病による欠勤は給料全額支給 ・運動手当支給 ・衛生設備等、施設の改善 ・公休日、月給日制定 ・兵役・軍事招集中の給料全額支給 ・中間搾取の廃止 ・不当解雇された女生徒の復帰 ・医務室の設置 ・生理休暇制定

この要求を突きつけ、水の江以下約230名の少女部員は、6月15日に神奈川県にある湯河原温泉郷の大旅館に立てこもりました。

東京の歌劇部と同様に大阪でも、松竹楽劇部が、待遇条件の改良要求が拒否されたことから、争議に突入しました。部員たちは、トップスターの飛鳥明子を団長に据え、舞台をサボタージュし、部員が高野山に立てこもりました。

●人気者の労働争議、世論を味方に戦う

当時はまだ労働者の権利が保障されている訳ではなく、労働争議も非合法でした。しかし、当時人気絶頂だった水の江瀧子が中心となっていると言うことで、世論も彼女たちの味方をしています。

7月12日に、水の江は、支援者の1人だった女優の原泉などと、7月12日に思想犯として特別高等警察(特高)に検挙され、浅草象潟(きさかた)警察署に留置されました。象潟署は、松竹座のあたりの管轄ということで、捕まえた警察官は顔見知りでした。水の江は「象潟署っていったら、松竹座あたりのロックの管轄だからね、全部知ってるのよ、コンチハー、なんて言って、陽気なもんよ(笑)」(中山『タアキイ』195頁)と振り返るように、留置される悲壮感などは全く感じられませんでした。

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