なぜベルトドライブを採用しているバイクは少ないのか
バイクのニュース / 2021年8月3日 9時0分
ベルトドライブはメンテナンスの頻度が少なく、定期的な注油が不要とされるバイクの駆動方法。もっと多くのバイクに採用されてもよいはずの機構ですが、実際にベルトドライブで駆動するバイクの数は少ないといえます。なぜでしょうか。
■なぜベルトドライブを採用しているバイクが少ない理由
バイクの駆動方法でドライブチェーンとベルトドライブはとても似ています。しかし、ベルトドライブを採用しているバイクは全体では少数となっています。メンテナンスの手間や調整が少なくすむはずのベルトドライブを採用するバイクが少ないのはなぜでしょうか。
先に答えからお伝えすると、ベルトドライブを採用するための条件を多くのバイクはクリアできないとされるからです。その条件とはベルトの上下の張り具合、テンションをなるべく均等にしなくてはいけないというもの。
まずは、大半のバイクのリアタイヤの動きについてご説明します。ドライブチェーンで駆動するバイクのリアタイヤは、路面のデコボコからの衝撃に対してスイングアームを上下させながら、リアサスペンションが伸び縮みして衝撃を吸収しています。この機構のおかげでリアタイヤは路面に対してすばやく反応でき、スポーツ走行の急旋回やオフロードの悪路が走破可能です。
この上下に動くリアタイヤとスイングアームの動きに合わせて、チェーンも上下し、チェーンの上側と下側の張り具合も同じく変化します。この上下の動きで不具合がでないようにチェーンには一定のたるみ(あそび)が必要になり、定期的な点検と調整をしなくてはいけません。
ベルトドライブの採用は、張り具合を大きく変化させない構造になっています
この上下に動く運動と変化する張り具合があるとベルトドライブの採用は難しくなります。ベルトドライブはベルトの上下の張り具合がおよそ同じくらいでないとプーリーとベルトのかみ合わせが抜けやすくなるとされます。
つまり、ベルトドライブを採用するためにはフロントスプロケットとスイングアームの軸(ピボット)、リアタイヤがおよそ同じぐらいの高さで、ベルトドライブの張り具合を大きく変化させない構造になってないといけません。
構造として自転車がわかりやすいでしょう。ほとんどの自転車は後輪が上下しない構造となっています。ベルトを採用しているモデルは、ベルトの上下のテンションを見ると均等な張り具合に見えると思います。
ハーレーダビットソン「FortyEight」
バイクでベルトドライブを採用する有名なメーカーはハーレーダビッドソンになるでしょう。アメリカンタイプのバイクのリアタイヤの配置を想像すると、フロントスプロケットからリアタイヤまでがだいたい一直線になる構造です。それに対し他の一般的なバイクはフロントスプロケットの高さがリアタイヤより高い位置に配置され、リアタイヤはやや下に位置しています。
まとめると、平らな舗装された道を走り、スイングアームを大きく上下させない走りをするバイクでないと、ベルトドライブの機構を搭載するのは難しいといえるのではないでしょうか。
実際にベルトドライブの機構を採用するバイクの具体例をあげると、ヤマハ「BOLT」、カワサキ「バルカン900クラシック」、BMW「F800S」、ドゥカティ「Xディアベル」などバイクのジャンルがツアラーに偏っているといえます。
それでもベルトドライブはチェーンドライブにはない魅力があるといえるでしょう。
■ベルトドライブのメンテナンス方法とは
ベルトドライブの魅力はメンテナンスの少なさにあります。さらにドライブチェーンと比べて駆動音が少なく、静粛性に優れ、ベルトドライブ自体が変速時にかかる衝撃を吸収する役割もあるため、乗り味が穏やかであるとされています。
ベルトドライブもチェーン駆動と同様に日頃の点検が必要です
メンテナンスの頻度が少ないとはいえ、全くメンテナンスフリーというわけではありません。頻度が少ない分、チェーンドライブより手抜きをするとベルトドライブの寿命を縮めてしまいます。寿命を縮めないために日ごろからベルトドライブの点検を乗り手がしなくてはいけません。
乗り手が簡単にできる点検は外からのチェックです。ベルトとプーリーのかみ合わせに小石や異物がかみ込んでいないかの確認、ベルトの張り具合(テンション)のチェック、それとベルトドライブの特有の現象“鳴き”の確認を行いましょう。
“鳴き”の原因は、ベルトがプーリーのベルトガイドなどに擦れて音が発生するといわれます。そのときは、ドライブベルト用のシリコン製のグリスをベルトの両端に少し塗ってやると音は収まるとされます。もし“鳴き”が続くようなら、点検作業を修理工場や販売店に依頼するようにしましょう。
ドライブチェーンは切れるまえに激しい異音や加速の低下、たるみの調整が適切にできなくなるなど何かしらの不具合で気づきやすいとされます。ところがベルトドライブに関してはベルトの劣化具合、張り具合を日ごろからチェックしておかないと、前触れなく突然ブチっと切れて一気に走行不能になります。
ベルトの交換時期は、メーカーが定めた交換時期とベルトとプーリーの摩耗具合で判断が必要です。ドライブベルト自体は耐久性が高く、上手に乗ると交換時期よりも長い距離を乗れることがあります。しかし、切れるタイミングが正確に予測できないため、走行距離と摩耗具合で早めに交換したほうがトラブルを避けられるでしょう。
ベルト交換後数百キロで切れたという話もあれば、5万キロ走っても耐えられたという個人の体験談は多くあります。しかしこれらは個人のバイクの使い方の違いであり、はっきりしない部分があるので、定期的な点検と整備士の意見を聞くようにしましょう。
ヤマハのベルトドライドライブ採用者「BOLT」
ヤマハのドライブベルトの定期点検項目表によれば、初回点検(1000kmまた1カ月)以降の定期的なメンテナンスは4000kmごととされています。定期的なベルトの張りの確認と調整をして、摩耗が進んできたと判断されたら切れる前に交換を依頼するのがよいのではないでしょうか。
点検はしておいたほうが事前にトラブルを発見できる可能性が高いといえます。ベルトドライブはメンテナンス不要とされながらも、日ごろの確認作業だけは欠かさず、乗り手がしなくてはいけないといえるでしょう。
※ ※ ※
ベルトの張り具合を上下均等にしておかないと、不具合が発生しやすいとされるベルトドライブ。ドライブチェーンよりメンテナンスが少なくすみ、静粛性が優れているとされながらも、多くのバイクには不向きな特性かもしれません。
メンテナンスが少なくすむといっても日常的に点検を行い、事前にトラブルの察知と回避につながるようにバイクの手入れをしましょう。
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