北朝鮮で格差が拡大。金正恩氏が「軍事パレード演説中に涙を流した」理由

bizSPA!フレッシュ / 2020年10月30日 8時46分

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平壌市内にある金日成氏と正日氏の銅像 ©︎Maroke

 2020年10月10日、北朝鮮は朝鮮労働党創建75周年の記念日に合わせ、2年ぶりに軍事パレードを実施し、米国への直接攻撃を可能にするよう設計された大陸間弾道ミサイル(ICBM)を披露した。今回公開されたICBMは、北朝鮮が2017年秋に発射したICBM「火星15号」より大きく、多くの弾頭を搭載できるように設計されたとみられる。

金正恩

金正恩 Portrait of the Secretary General of the DPRK North Korea Kim Jong Un. © Alexander Khitrov

 金正恩朝鮮労働党委員長は同日の演説のなかで、「北朝鮮は決して先制的な軍事行動に出るつもりはないが、敵国が北朝鮮にプレッシャーを与え続ける限り、核を含めた抑止力を強化する」と発言している。

◆金正恩氏が演説中に涙する

 一方、金正恩氏は最近の国内事情に触れた際、感情が高ぶり涙を見せつつ、「今年の国難でどれほど国民がつらい思いをしたことだろう。それでも愛国的な献身さを示す兵士らに涙なしに応えることはできない」などと発言した。

 金正恩氏が大勢のいる前で涙を見せるのは異例だが、今日、北朝鮮は新型コロナウイルス、台風などの自然災害、そして経済制裁の三重苦に直面しており、これまでなく国内は厳しい情勢にある。

 今年1月以降、新型コロナウイルス感染拡大によって中朝国境が閉鎖されているが、それによって中国との貿易が9割も減少し、国内で食糧難や失業者の増大がこれまでになく深刻化しているという。

 2019年、北朝鮮の対中貿易依存度は過去最大の95.2%に上ったが、今日ではほとんど物資が北朝鮮国内に入っておらず、国民の4割以上が食糧危機に直面しているとされる国内の情勢が懸念される

◆コロナや自然災害で格差が拡大

 また、最近では台風8号、9号、10号が立て続けに北朝鮮を直撃し、特に穀倉地帯として知られる黄海南北道や江原道などは壊滅的な被害を受け、北朝鮮の食糧事情は厳しさを極めている。

 韓国政府によると、今回被害を受けた農地面積は約3万9000ヘクタールで、2016年の台風被害の4倍に上り、住宅の倒壊や鉄道・道路の寸断も深刻だという。金正恩氏が涙を見せた背景にはこういった事情も影響しているとみられるが、やはり国民からの反発やクーデターを恐れている可能性がある。

 これは以前から言われていることであるが、北朝鮮では首都・平壌市民と地方・田舎の人々の間では、別の国かのような格差があり、新型コロナウイルスや自然災害によってさらに格差が開いているともいわれる

 我々はテレビで、金正恩氏を尊敬したり拍手を送ったりする市民の姿を目にする。しかし、地方や田舎では「平壌で何が起きているか分からない」「毎日どうやって食糧を得るかで精一杯だ」「金正恩氏は何もやってくれないじゃないか」などといった中央への不満が強く漂っており、テレビでの様子とは真反対の状況だという。

◆国内情勢がさらに悪化する懸念も…

平壌 銅像

平壌市内にある金日成氏と正日氏の銅像 ©Maroke

 5月下旬、韓国の脱北者団体が、北朝鮮との国境付近から「金正恩は偽善者だ」「長男である金正男氏こそが本物の血統一族であり、金正恩はそうではない」など同氏を非難する内容のビラを気球に乗せて飛ばした。このことに北朝鮮が激怒し、その後、南北友好の象徴だった連絡事務所を爆破した出来事があった。

 北朝鮮側にはそういったビラを地方や田舎の人々が見て“反金正恩感情”を高め、軍内部にもそういった感情が芽生えはじめ、いつかは金政権に危機が到来するとの恐怖心があるのではないだろうか

 今後の米大統領選挙や米中対立の行方も影響するが、北朝鮮が新型コロナウイルスや自然災害など非人為的なものによって大きなパンチを受けていることは間違いなく、現在の情勢がこのまま続くと、北朝鮮の国内情勢はさらに悪化することが予想される。

<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>

【イエール佐藤】

国際政治学者。首都圏の私立大学で教鞭をとる。小さい頃に米国やフランスに留学し、世界の社会情勢に関心を持つ。特に金融市場や株価の動きに注目し、さまざまな仕事を行う。100歳まで生きることが目標

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