非正規は賞与、退職金をもらえないのか。最高裁“真逆の判決”を読み解く

bizSPA!フレッシュ / 2020年11月11日 8時45分

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※イメージです(以下同じ)

非正規労働者に賞与、退職金を払わないことは不合理ではない(=払わなくてよい)」。
 2020年10月13日、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件でこのような最高裁判決が出て、多くのメディアに取り上げられました。

最高裁判所

最高裁判所(東京千代田区) CC BY 3.0

 同一労働同一賃金は、安倍晋三前首相時代の目玉政策である働き方改革の中でも最重要課題であったはずなのに、政府の目指す方向性と逆の判決がでてしまい、「会社寄りの判決」と唖然としてしまった方も多いのではないでしょうか

◆非正規だからとあきらめる必要はない

 一方で10月15日の日本郵便における年末年始勤務手当、病気休暇、夏期・冬季休暇、扶養手当などの待遇格差をめぐる裁判では「契約社員にこれらの手当や休暇を認めないのは不合理」という最高裁判決が出ました。
 
 つまり同一労働同一賃金をめぐる判決に明暗が分かれたのです。
 2つの判決は矛盾しているのではないかど思った人も少なくないでしょう。今回の判決に差が出た理由、またこの判決をどうとらえるべきなのか社会保険労務士の視点から解説します

 結論から言うと、最高裁で決定したことなので今後この件に関して結論が変わることはありません。ただし注意しなければならないのは、10月13日の判決も「今回の事例においては支払わなくてよい」ということであって、今後、会社が非正規労働者に対して賞与、退職金を支払わなくてよいとお墨付きが出たわけではないということなのです

◆なぜ賞与、退職金が支給されなかったのか

ボーナス

※イメージです(以下同じ)

 今回の裁判の判断には2つのポイントがあります。

1. 労働契約法第20条の判断要素
2. 賞与、退職金、各種手当の目的と性質

 大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件では1.の「労働契約法第20条の判断要素」をもとに検証されています。具体的には、

① 仕事の内容や責任に差があるのか
② 配置転換やその変更範囲に差はあるのか
③ その他の事情があるのか

 この3点を総合的に考慮して不合理かどうかを判断していました。つまり、待遇差が適切であったいう結論はこの3点を検証して決定されています。

 詳細を見ていくと、大阪医科薬科大学の事例では①の点について、正社員は英文雑誌の編集事務や病理解剖に関する遺族等への説明、部門間の連携を要する業務、その他に毒劇物等の管理業務といった正社員でなければ対応が難しい業務をしていたことなど仕事の内容については一定の差があったとされています。

◆配置転換やその他の事情に格差はあった?

仕事 キャリア

 また、メトロコマース事件においても正社員は契約社員と違って、急に販売員が休んだ際の代替業務を行っていたほか、複数の売店を統括指導していたことなど、こちらも一定の差があったことが確認されています。

 ②についても大阪医科薬科大学では正社員は出向や配置換えを命じられるが、アルバイトには実質的に配置転換されることはなかったという点が挙げられており、メトロコマース事件においては売店の場所は変わっても仕事内容は変わらなかったなど、いずれも正社員との差があることが挙げられたのです

 配置転換があるということは新しい環境に適応する必要があり、場合によっては転居を伴うことも考えられ、心理的負荷もかかることから待遇差を判断するうえで大きな要素となっているのです。

◆正社員への登用制度をどう判断したか

 最後の③「その他の事情」について確認すると、両事件ともそれぞれに登用制度が設けられていました。試験を受けて合格することでアルバイトから契約社員、契約社員から正社員へ登用される仕組みがあったのです。

 登用制度が設けられていてもあるだけで登用された人はいない。もしくは運用はされていても実績として受験者数に対して合格者が極端に少ないなど実質的には登用制度が機能していなかった場合には今回の判決のようにはいかなかったことも考えられます。

 しかし、今回のような登用制度があることによって、ずっとアルバイトや契約社員で居続けるなどそれぞれの地位が固定されることはありません。試験を受けて合格することにより正社員になれる可能性があるのです。

 自分の努力次第で正社員になれる道があるのであれば一定の格差は許容される部分もあると考えられたようです

◆同じ判決結果にならない可能性も

裁判

 以上を踏まえて、今回の事件においては労働契約法の判断要素①~③において正社員と非正規社員の仕事内容に「差があった」とされているわけです。そのため、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件ともに、賞与・退職金は「支給しなくてよい」という判決になったのです

 ただし、今回のケースではそれぞれの会社で適切な運用がされており、たまたま各要素につき差がありましたが、一般的には仕事の役割が明確になっているほうが少ない印象です。アルバイトや契約社員といってもさまざまな仕事が混在しているほうが多いのではないでしょうか。

 今回は差が認められたものの、どれかひとつの要素が欠けてしまっても、同じ結果になっていない可能性があるのです。事実、メトロコマース事件の判決では、最後に1人の裁判官が契約社員への退職金に対して正社員の4分の1に相当する額すら支払わないのは不合理だといった高等裁判所の判断を認めるべきだという反対意見を述べています

 このような点からも一方的に「不合理ではない」という判決が出たわけではなく、ギリギリのラインの判決だったといえるでしょう

◆各種手当、休暇の判断の仕方

 一方で、日本郵便事件で問題となった扶養手当や年末年始勤務手当など手当に関しては、賞与や退職金と違って、支給の目的が明確になっているものが多いです

 つまり、手当や休暇に関しては「2.賞与、退職金、各種手当の目的と性質」の要素を厳格に見ていき、それぞれどんな目的、性質で支払われたものなのかを検証したうえで、非正規労働者にあてはまるのかどうかを判断しているわけです。

 例えば、今回の扶養手当であれば「正社員は長く働くことが期待されるし、働いてもらいたい。扶養家族がいるなら福利厚生として補助します」といった目的で支給がされており、それに対して契約社員の雇用の実態をみて、「契約の更新を繰り返している契約社員なら継続的に雇用される見込みはあるよね。扶養手当が長く働くことを期待される人に支払われるなら、長く働く見込みがある契約社員にも支給されなきゃおかしいよね」といった具合に手当の趣旨に沿って長期的な雇用が見込めるのかどうか検証していき、認められたのが今回の判決なのです。

 手当や休暇については今回の判決のように「1.労働契約法第20条の判断要素」の要素をみて仕事の内容に差があったとしても、「2.賞与、退職金、各種手当の目的と性質」に照らして説明がつかないものであれば、今回の判決のように支給するべきだと判断される可能性が高いでしょう。

◆待遇差の理由は、会社に説明責任がある

経営者

 今回の判決を踏まえて各企業の対応として、給与体系を見直して手当をなくすことや正社員や契約社員、パートアルバイトそれぞれの仕事の役割を明確にしていくことが考えられます。

 そのなかでどうしても与えられている役割に対して心理的負荷が強すぎる。「これって契約社員の仕事なの?」など役割以上の仕事を求められているなど感じることがあれば、いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは自分に与えられた役割を見直してみましょう

 パートタイム・有期雇用労働法では非正規労働者は正社員との待遇差やその理由について会社に説明を求められるようになっており、会社は説明する義務があります。

 したがって、もし仕事の内容を踏まえて、「待遇差に納得できない」というような場合には会社に確認してみるようにしましょう。また判決のポイントにもなる「登用制度」も現在なかったとしても今後は設けられていくことが考えられます。仕事にあった待遇を求める観点からも積極的に登用制度に申込みチャレンジしてみるとよいでしょう。

<TEXT/特定社会保険労務士 土井裕介>

【土井裕介】

特定社会保険労務士/大槻経営労務管理事務所所属。数名規模から数千人規模の事業規模、業種ともさまざまなクライアントを担当し、サテライト勤務や在宅勤務をはじめとしたテレワークを生かした働き方のアドバイスを得意とする。また、M&Aの案件も数多く担当し、クライアントのニーズに応えたサービスを提供する

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