正社員なのに手取り12万円…28歳が見た「映画業界のツラすぎる現実」

bizSPA!フレッシュ / 2020年11月26日 15時45分

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正社員なのに手取り12万円…28歳が見た「映画業界のツラすぎる現実」

 現在はコロナ禍で厳しい状況にあるとはいえ、映画の仕事に憧れる人は今も昔も少なくありません。今回お話を聞いた方も苦労して映画業界に入りましたが、その内実を知って失望することになったそうです。

映画撮影

画像はイメージです(以下同じ)

 

◆証券会社に入社しても諦めきれず…

 証券会社から映画の製作会社に転職した角野智也さん(仮名・28歳)にとって、映画業界で働く日々は驚くことだらけだったと言います。

「お金と関係の深い業界にいたことも関係しているんだと思いますが、映画業界のビジネスがどんな風に回っているのかを理解して、いろいろなものが崩れ去りましたね」

 角野さんは証券会社で、同期の中でも優れた成果をあげていましたが、どうしても夢が捨てきれず転職を決意したそうです。

「昔から映画が好きで、新卒の就職活動の時に映画会社も受けたんですが、その時は全敗でした。それで区切りをつけたつもりだったんですが、ずっとモヤモヤした未練が残っていたので、映画ビジネスを学べる学校に通うことにしたんです」

◆優秀な人間だけを社員登用するシステム

残業

 それでも映画業界に入り込むのは大変だったと言います。

「学校が就職先を紹介してくれましたが、正社員となると募集自体が少ないんです。バイトだと募集は結構あったので、どんな形でもいいから入り込もうと思って泥臭く探し続けました。あるのは短期のものばかりでしたが、ようやく長期のバイトで入ることができたんです」

 しかも、その会社は、社員登用も望める会社でした。

「変わった社員の採用方法をとっている会社で、一度に何人かアルバイトを取って、その中から優秀な人間を社員登用するという制度でした。なので、同じタイミングでバイトとして入った人間は仲間でありながらもライバルみたいな不思議な関係でした

 そこであらゆる雑用をやることになったそうです。

◆地味な仕事ばかりで心が折れそうに

残業

「企画書作りの手伝いから、制作現場での下働き、社外のプロデューサーのご機嫌取りで宴席で一発芸をさせられたこともありました。基本的には、試写会の案内の送付作業など地味な仕事ばかりで心が折れそうでしたが、それでもなんとか食らいつきました」

 そうして頑張れたのも、励みにするものがあったからだと言います。

社員の人たちがカッコ良かったんです。映画業界の第一線で働いているということもそうですが、社長が身だしなみにうるさいこともあって、みんなお洒落でした。自分もあんな風になりたいと思いました」

 必死に働きぶりをアピールした角野さんは、社長から嬉しい一言を告げられます。

◆社員登用で提示された給与は、手取り12万円

「『社員にならないか?』と言われたんです。ですが、提示された条件に驚きました。手取り12万円だったんです。バイトにフルで入った時と1万円ぐらいしか変わらない額です

 それでも社長から「がんばれば給料は上がるから」と言われた角野さんは、社員になる道を選びます。ついに念願だった映画会社の社員になった角野さんでしたが、やはりお金の問題で苦労することに……。

「可能な限り食事は自炊していましたが、それでも生活は厳しかったですね。撮影現場に行った時の交通費が出なかったり、立て替えた費用は申請してもなかなか振り込まれなかったりしたこともあって、貯金を食いつぶす日々でした。出社時間は遅かったですが、深夜まで働くことも多かったので、こっそりバイトすることもできませんでした」

 それでも、早く先輩たちのようになりたいと努力を重ねた角野さんでしたが……。

◆同僚は全員お金に困っていた

映画業界

「会社が関わった映画が封切られた時に、打ち上げで先輩たちと飲みに行ったんですが、10歳近く上の先輩が酔った勢いでポロッと年収を漏らしたんです。240万とのことでした。他の人にもお金の話を聞いてみると、借金して服代を工面していたり、親のすねをかじっていたりで、年齢や業界経験相応の生活をできている人はほぼいなかったんです」

 家庭を持つことを考えていた角野さんは、大きなショックを受けました。

「社員は未婚の男性が多くて、結婚していても子供がいない人ばかりだったんですが、その理由がわかりました。酔った先輩たちは、いかに映画の仕事が素晴らしいか語っていましたが、以前なら前のめりに聞いていた話なのに、聞けば聞くほど気持ちが冷めていく自分がいました……」

『カメラを止めるな!』のように小規模な予算の作品が大ヒットして、何十億もの収益を上げたという夢がある話も聞きますが……。

「自分が関わったのは小規模な作品ばかりでしたが、そこまでのヒットになる映画なんて数千本に1本、下手したら何万本に1本とかそんなレベルですよ。小規模作品の9割以上は製作費を回収できてないんじゃないですかね? 下手したら宣伝費すら回収できないなんていう映画もザラにありましたし」

◆映画との適切な関わり方を見つけられた

転職イメージ

 そうした現実を見て、角野さんの心境に変化がありました。

「とてもこの業界ではやっていけないと思うようになって、映画業界から離れることにしました。大手になればまた状況は違うと思いますが、自分が考えていたよりもビジネス的にずっと厳しい世界でした」

 それでも、角野さんは映画界で働いたことを全く後悔していないと言います。

「あのまま挑戦していなかったとしたら、ずっとモヤモヤを抱えたままだったと思うので。今は金融系の仕事についていますが、地元のフィルムコミッションの仕事をボランティアで手伝っているので、映画と完全に縁が切れたわけではないんです

 フィルムコミッションとは、映画などの撮影がスムーズに進行するようサポートする活動を行なっている団体です。

「映画業界に入って現実を知ったからこそ、適切な関わり方を見つけられたので、本当によかったと思っています」と話す横顔は後悔ひとつない晴れやかなものでした。

<取材・文/和泉太郎 イラスト/パウロタスク(@paultaskart)>

【和泉太郎】

込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

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