根深い「アスリートの性的画像」問題。盗撮でも罪に問えないのはなぜか
bizSPA!フレッシュ / 2021年2月16日 15時46分

根深い「アスリートの性的画像」問題。盗撮でも罪に問えないのはなぜか
開催か延期か大きく揺れる東京オリンピックを前に、女性アスリートに対する写真や動画による性的ハラスメントが、人権問題として大きく報じられています。競技中にきわどいアングルで撮影された、女性アスリートの画像が流出拡散してしまうこの問題。対策はないのか、弁護士で公認会計士の資格を持つ後藤亜由夢氏に聞きました。
画像はイメージです(以下同じ)
◆訴訟を起こすことはできるのか
2020年11月に日本オリンピック委員会(JOC)らスポーツ関係団体は、女性アスリートに対する性的な撮影被害やSNSへの画像拡散といった被害に対して、共同で対策に乗り出す方針を発表。
これを受けて体操の田中理恵さんやバレーボールの大山加奈さん、競泳の田中雅美さん、ビーチバレーの坂口佳穂さんらが次々とコメントを発表しています。
被写体にされたアスリート本人が撮影者を相手取って訴訟を起こすことはできないのでしょうか。
「競技中の女性アスリートを盗撮した写真に性的なニュアンスが含まれていたとしても、そのこと自体を直接取り締まる法律は現状日本にはありません」
◆名誉棄損や損害賠償に当たるケースは?
「盗撮については迷惑防止条例で規制されていますが、『通常衣服で隠されている下着又は身体』を盗撮した場合に適用されます。例を出すと、エスカレーターの下からスカートの中を盗撮したような場合です。
競技中の女性アスリートに対する盗撮は、多くはユニフォーム姿なので『通常衣服で隠されている下着又は身体』にあたりません。よって迷惑防止条例が適用されないのです。
とはいえ、撮影者が、アスリート個人がわかるような形で盗撮写真をインターネット上にアップし、かつそのアスリートの名誉を棄損するような卑猥なコメントを付け足して、SNS上で拡散した場合は名誉棄損罪が成立する余地はあります。
あるいは、民事上の責任として盗撮者がアスリートに対して、名誉棄損や肖像権侵害を理由とした損害賠償責任を負う可能性もありえます」
◆一般人がどう思うかで「性的な意図」を判断
競技中のアスリートの写真であれば、そこに性的な意図があるかどうか判別が難しそうです。意図したか否かを判断する基準はどこにあるのでしょうか。
「盗撮等の場合で、性的な意図で撮影されたかどうか自体が直接問題になることはあまり考えにくいです。あるとすれば、性的な写真が拡散されたことによる名誉棄損の成立の有無が裁判で問題になった場合です。
名誉が棄損されているかどうかは、『一般読者の普通の注意と読み方』において判断されます。つまり、撮影者が性的意図ではないと言い張った場合でも、その写真を一般人が普通に見たらどう思うかという基準で判断されるということです」
その写真や表現が掲載されたメディア媒体などを考慮し、最終的には一般読者を基準に、性的意味の有無が判断されるようです。
◆ボカシが入っていても特定できれば…
また、流出拡散された性的な写真に被写体の顔が映っていない場合や、顔にボカシが入っていた場合、撮影された本人は撮影者を訴えることは可能なのでしょうか。
「その写真が特定人だと本当にわからなければ、名誉棄損が成立することはありません。刑事上も民事上も、名誉棄損は『特定人の名誉が毀損(棄損)された場合』に成立するためです。
つまりは、誰かわからない写真を拡散されても、特定人の名誉が棄損されたとはいえない、ということです。ただし服装や体型、その他周りの状況から特定人とわかれば、名誉棄損が成立する余地があります。例えば、顔が映っていなくてもユニフォームなどから『あの人に間違いない』といえるような写真であれば、名誉棄損が成立する余地があるのです」
◆週刊誌の無断掲載はどうなの?
今回のアスリートの件とは別に、芸能人が写真週刊誌のすっぱ抜き記事などで、本人に無断で写真が掲載されるケースが以前からありました。これまで法的にも倫理的にも問題視されていなかったのはなぜでしょうか。
「芸能人に対する名誉棄損やプライバシー侵害は、一般人に対するものと比べると、裁判所で認定されにくいのが理由のひとつであると思います。写真週刊誌の記事が、芸能人個人の名誉を棄損するものであれば、理屈としては出版社に刑事上の名誉棄損罪の成立することや、民事上の損害賠償責任が発生することとなります。
しかし、名誉棄損の考慮要素の判断のひとつとして、『事実の公共性』や『目的の公共性』の有無が必要となります。ざっくりいうと『みんなその記事に興味あるよね』となると、名誉棄損にならないということです。
この要件があるため、一般人に比べて芸能人の名誉棄損は、刑事上も民事上も成立しにくいといえます。これまで問題視されなかった背景については、芸能人が名誉棄損についての訴訟を起こすことにより、事業上のさまざまな弊害(時間がかかる・世間の印象がよくない・負けた時のイメージが悪いなど)が生じることがあることが考えられます」
男女を問わず、写真撮影によって不快な思いをするアスリートが減ることが一番ですが、現状の法律では解決に程遠いようです。だからこそ、アスリート側や競技団体や賛同者が声を挙げることで、東京オリンピック開催までに状況が改善されることを願いたいです。
<TEXT/目黒川みより>
【目黒川みより】
フリーペーパーを発行する出版社勤務を経て、現在はWEBデザイン会社にてディレクターとして勤務。お忍びで「心の問題」を扱う執筆活動を続ける
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