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「日本一の魚屋」角上魚類、鮮度の良さ・安さのカラクリを新潟まで確認しに行ってみた

bizSPA!フレッシュ / 2021年8月31日 8時47分

写真

他の仕入れ業者に対し、真っ赤な制服が一際目立つ角上魚類のバイヤーの方々

 郊外の街道沿いには、大型チェーン店が濫立しています。ファストファッション店、ホームセンターといった有名チェーンのロードサイド店に並んで、関東圏の一部では「角上魚類」という巨大な魚屋さんが突然現れることがあります。

角上魚類

角上魚類

 当初、角上魚類を知らなかった筆者は「どんなお店なのだろう」と、その賑わいにつられ、興味本位でお店に入ってみました……するとびっくり!

◆鮮度の良い魚が破格の安さで

 広い店内には鮮魚コーナーのほかに、寿司コーナー、惣菜コーナーなどがあり、いずれのコーナーでも客でゴッタ返し、誰もが買い物に高揚している様子。売られている魚を見ると、マグロ、鯛といった定番魚だけでなく、聞いたことも見たこともない魚が、ピチピチの丸物の状態(おろされていない状態)でズラリと並んでいます

 さらに、驚くべきはその価格です。安い魚では1尾数十円からあり、またマグロや鯛といった見慣れた魚であっても、スーパーなどの価格よりも数割も安く、そして量もはるかに多いのです。

角上魚類

鮮度の良い魚が破格の安さで並ぶ角上魚類の鮮魚コーナー

角上魚類

ビッシリ入った甘海老もこのお値段

 いったいなぜそんなことが可能なのか? 今回、新潟にある角上魚類の本社に直談判。「仕入れから販売までのフローを見せて欲しい」と依頼したところ、担当者の方はあっさりと「いいですよ!」と快諾してくれました。というわけで、今回は角上魚類の謎に迫るべくその裏側に密着することにしました(※取材は取材対象者と十分な距離を保ち、可能な限りの感染予防・対策のもとで実施しました)。

◆朝3時半に市場集合!新潟の競りは独特

 直談判したところあっさりと快諾してくれた角上魚類の担当者の方でしたが、「朝3時半に新潟漁協の市場に来てください」と言います。朝3時半! いくら魚の仕入れは朝が早いとはいえかなり早い朝です。しかし、角上魚類の謎を探るためです。朝3時半キッカリに指定の新潟漁協の市場に行きました。

 新潟漁協には船着場が隣接しており、漁師さんたちがまさにこの晩、近海で獲ってきた魚を船着場でおろし、それが市場に並ぶ仕組みです。

 場内には水揚げされたばかりのピチピチの魚が発泡スチロールに入れられ並んでいました。その周囲を鋭い目線で、魚の仕入れ業者が注目しています。この中で一際目立つ赤い制服の7名……そう彼らこそが他ならぬ角上魚類のバイヤーの方々なのでした。

角上魚類

他の仕入れ業者に対し、真っ赤な制服が一際目立つ角上魚類のバイヤーの方々

 4時になると市場内に鐘が鳴り、これと合わせて魚の競りが始まります。全国各地の市場での魚の競りは、おおむね買いたい業者が値を釣り上げていくオークションのような方式がとられています。しかし、新潟は独特。最初に設定された値段から買い手がつかなければどんどん値が下がっていくという競り下げ方式なのだそうです。

◆食品ロス率はまさかの0.05%未満

 極端なことを言えば買い手がつかなければ、魚がパンパンに詰まった一箱でも、たった数百円になってしまうこともあるようです。こういった、その日「鮮度が良いのに、相場より安い」魚ばかりを落札し、客に提供するのが角上魚類流の仕入れ方。

 また、よく口にする定番魚種だけでなく、仮に認知度の低い魚であっても、美味しく食べられる新鮮な魚であれば、どんどん店頭に並べるのもまた角上魚類流なのだそうです。

 しかし、そうは言っても足が早い魚です。「見たこともない魚が多いと、売れ残ったりして食品ロスなどもさぞ多くなるのではないか」とも思います。しかし、小売業の食品ロス率の平均が6%前後であるのに対し、角上魚類はまさかの0.05%未満なのだそうです。本当にどうしてこれが実現できるのか、ますます謎めいて見えます。

◆競りの前後に電話をかける?角上魚類流仕入れ

 ここで角上魚類のバイヤーの人が、何やら携帯電話で話をしています。大事な仕入れの時間なのに私用の電話とかしちゃってる!……と、見てはいけないものを見た気になる筆者でしたが、実はこの仕入れ中の「電話」もまた、角上魚類ならではの仕入れにおける重要なメソッドのひとつなのだそうです。

角上魚類

競りの途中で電話をする角上魚類のバイヤー

 角上魚類の仕入れは新潟だけでなく、東京の豊洲市場でも同時間帯に行われます。つまり新潟仕入れの魚、豊洲仕入れの魚双方が店頭に並んでいるというわけですが、仕入れの際その日に市場に並んだ特定魚種の相場を、新潟・豊洲双方で、毎朝電話で確認し合うのだそうです。

 どちらの市場に入った魚の鮮度が良く、安く仕入れられるかを判断し、優れたほうを買い付ける……という角上魚類ならではの独特の手法のようです。

 この合理的な連絡網により、角上魚類のバイヤーの方々が、新潟・豊洲双方で少しでも安く良い魚を仕入れ店頭に送り込んでいるというフローになっているというわけです。

◆市場をハシゴし、仕入れた魚は即トラックに!

 なるほど、こうやって鮮度の良い魚を安く仕入れて関東圏の角上魚類のお店に直送するのか……すごいぞ角上魚類! と感動する筆者でしたが、角上魚類のバイヤーの方々はさらに「この後、別の市場に仕入れに行く」と言います。言わば仕入れのハシゴです。もちろん筆者もついて行くことにしました

 続いて向かった先は、新潟中央卸売市場。最初の新潟漁協から車で20分の場所にあり、ここでは競りが5時から行われると言います。結構慌ただしいですが、角上魚類ではこのルーティンを毎朝行なっているのだそうです。

角上魚類

続いて向かった新潟中央卸売り場

角上魚類

新鮮な魚を前に、こちらの市場でも様々な業者と競りを行う角上魚類のバイヤー

 新潟漁協が近海の魚ばかりが集まるのに対し、こちらは日本海を中心に全国の魚が集まるのだそうです。ここでも同様に競りが行われ、角上魚類のバイヤーのお眼鏡にかなった魚ばかりが仕入れられていくわけですが、ここで驚いたのが仕入れられた魚の手配の速さです。あっという間に冷蔵トラックへと運ばれていきます。

角上魚類

仕入れ後、新鮮な魚は即座に冷蔵トラックに積み込まれます

◆朝10時の開店に合わせてトラックへ

角上魚類

市場の搬入口に後付けされた角上魚類の冷蔵トラック

 新潟中央卸売場には複数台の角上魚類の冷蔵トラックが後付けされており、仕入れたその場でどんどん積荷されていきます。トラックの脇には「相模原」「日野」など、角上魚類の関東圏の店名が記載されており、つまり1台のトラックが巡回するカタチで各店に魚を納品していくという仕組みです

 この時点で朝5時半。早いお店では朝10時の開店に合わせて、新潟で仕入れた新鮮な魚が店頭に並ぶことになります。なんという合理的かつスピーディな仕入れと納品。シンプルではありますが、複数の巨大店舗を展開する角上魚類でなければ実現できない仕入れ術だと思いました。

◆鮮度の良い魚を安く提供することで大人気に

 今回は新潟漁協、新潟中央卸売市場のみを密着しましたが、これに加え、角上魚類の本社がある新潟・寺泊界隈では夕方に行われる市場もあり、そちらでも地場の美味しい魚を仕入れるのだそうです。

 角上魚類の考えは「魚屋さんに来るお客さんのうち、『今日はこの魚を絶対に食べる』という意思を持ってくる人は少ない。それよりも、その日に上がった鮮度が良く、安く、美味しい魚を選ぶ。特定魚種を高値で仕入れるのではなく、こういった魚を店頭に並べるのだ」というものだそうです。

角上魚類

朝5時台に仕入れられた魚は、関東圏の早いお店では朝10時の開店時には、店頭に並ぶという仕組みです

 確かに自分を振り返ってみても「今日は絶対ブリ。今日の俺はブリじゃなくちゃダメなんだ」という強い意思を持ってスーパーマーケットや魚屋さんに行くことはなく、店頭にある獲れたてで安い「今日入ってる魚」を選びます。この角上魚類のシンプルで正しい営業方針が客のニーズと合致し、絶大な支持に至っているようです。

 角上魚類の謎は、謎でもなんでもありませんでした。ごくごくシンプルで実直に客が喜ぶためにだけを考え、鮮度の良い魚を安く提供することで大人気となり、ロードサイドや郊外で絶大な支持に至っていることがよくわかりました。

<取材・文・撮影/松田義人>

【松田義人】

音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある

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