退職後に「実はセクハラされた」は有効?法改正で変わる内部通報制度
bizSPA!フレッシュ / 2022年5月18日 8時47分

※画像はイメージです(以下同じ)
もし会社で自分の知っている人がセクハラで通報されたら、つい誰かに話したくなってしまうかもしれません。しかし、2022年6月から公益通報者保護法が改正されることにより、内部通報窓口 に従事する担当者が守秘義務を守らず他言してしまうことで刑事罰を受ける危険があります。
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従事する担当者は社内でもごく一部の人かも知れませんが、多くの労働者にも関係する内容も今回の法改正には盛り込まれています。本記事ではハラスメント専門家である一般社団法人日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要が法改正の重要ポイントを解説。自身が当事者として通報する場合に備えたリスク回避のアドバイスもお伝えします。
◆公益通報者保護法とは
企業のコンプライアンス(法令遵守)に不正があった場合、内部の関係者が内部通報窓口に通報することによって企業は迅速に状況を把握、改善に向けた対応をすることが可能になります。一方で通報者が不利益な取り扱いを受けないように保護する法律として2006年に公益通報者保護法が施行されました。
しかし、実態としては通報者が会社や行為者から報復行為として人事評価等に不利益な取り扱いを受けた、または退職に追い込まれたなど、本来の公益通報者保護法によって保護されるべき部分が機能していない点が以前より問題視されていました。
そのような背景があり、内部通報制度を強化することが今回の法改正では重視されています。さらに現行法では内部通報に関わる対応が義務化されていなかった点も大きいと言えます。
◆公益通報者保護法改正の重要ポイント
法改正の重要ポイントとして、2022年6月より従業員301人以上の企業、学校法人、医療法人、NPO法人等に内部通報窓口の設置、通報窓口従事者の指定、通報の受付、通報に対する調査等の対応が義務化される点が挙げられます(従業員300人以下は努力義務)。
他に見逃してはならない法改正のポイントとして、通報窓口に従事する担当者には業務上知り得た通報内容を他言してはならない守秘義務が創設されますので、情報漏洩させた場合は刑事罰として30万円以下の罰金刑を受ける可能性があります。通報できる対象者は現役の労働者に加えて、退職後1年以内の労働者、派遣社員、役員も通報できるように拡大されます。
◆日産、オリンパス…内部通報が重要に
(C) Alexandr Blinov
2018年に日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時)が金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された事件は内部通報がきっかけと報道されています。内部通報の対象は幅広く、企業内で起きる「横領」「不正アクセス」「個人情報流出」「データ偽装」「ハラスメント」なども含みます。
2006年には精密機器メーカー・オリンパスの男性社員が上司の不正を内部通報したことをきっかけに「報復人事」「パワハラ」被害に遭うという、あってはならないことが起きています。実態は報復も可能であった会社組織の黒い部分を排除できる法改正になることが期待されます。
企業内の従業員がコンプライアンス問題を担当することは困難になってきています。例えば社内に設置されたハラスメント相談窓口の場合、現状は専任の担当者ではなく通常業務を抱えながら兼任させている企業が多いです。
◆ますます専門性が求められる時代に
2019年に成立したパワハラ防止法では社内のハラスメント相談窓口担当者向け研修の実施が義務化されましたが、今回、公益通報者保護法が改正されることも重なり、担当者はますます専門性が求められる時代になったと言えるでしょう。専門ではないのに担当者として指名され、トラブルに発展してしまう最悪のケースは担当者本人としても企業側も避けたいところです。
筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会が企業の内部通報窓口を担当している事例で、被害者が退職後に「実はセクハラされていて……」と相談をされてきたことが以前にありました。被害者は調査を希望されていましたが、すでに退職していたこともあり、企業側に誠意ある対応をする意思があるかが焦点となりました。
しかし行為者がセクハラ行為を繰り返してはならないので、調査することを強く助言したところ、被害者の希望通り調査が行われ、行為者はセクハラで処分されました。この事例は法改正より前のことですが、今年6月からの公益通報者保護法改正では、上司のセクハラ行為を退職した被害者が報復で通報する可能性もありますので、報復に震える上司が急増してもおかしくありません。
◆「守秘義務が守られていない」ケースも
もし皆さんが内部通報を利用することになった場合に備えて、リスク回避のアドバイスをお伝えしますので参考にして下さい。
大企業ではすでに内部通報窓口が設置されているところが多いですが、中堅企業などではこれから設置が進んでいくでしょう。自身が勤務先の不正などを通報する立場になったとき、当事者である自分は公益通報者保護法を理解していても、会社側の担当者が詳しくないケースも考えられます。
法改正が進み、形では内部通報窓口が設置されているものの、「守秘義務が守られていない」「公平な調査をしない」など実態は異なる場合も考えられますので、勤務先で過去にそのようなトラブルがなかったか可能な限り見極めることも大切です。退職後1年以内は通報できますので、現職の時に通報したほうがいいのか、退職後のほうがいいのかもあわせて検討してください。
◆女性が日々安心して働くために
内部通報するか迷うような出来事が起こらないことが望ましいですが、時間の経過と共に人材の入れ替わりもあり何が起きるかわかりません。そもそも会社に内部通報窓口が設置されているか、わからない人はまずは確認してみてください。
日々安心して働くためには、被害に遭わない意識だけではなく、自身が通報されてしまう側にならないように注意することも大切です。今の時代どこで会話を録音されているかもわかりませんので、場を盛り上げようと思って発言したいつかの雑談が「実はセクハラされていて……」と数年後に言われないように気をつけましょう。
<TEXT/ハラスメント専門家 村嵜 要>
【村嵜 要】
1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。 Twitter:@murasaki_kaname
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