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トビウオ並みの“おいしさ”=厄介者だったエソ 未利用魚×就労支援→『新しい働き方』のモデル

BSN新潟放送 / 2024年9月28日 5時50分

BSN

ちょっとグロテスクで、新潟では市場に流通しないこの魚をご存じでしょうか?
『エソ』。いわゆる“未利用魚”です。

この「未利用魚」を就労支援に活用し、おいしい出汁を作る…。
そんなプロジェクトが始まっています。

9月11日の新潟港に、水産業を営む井村洋人さん(50歳)の漁船を訪ねました。
この時期は、旬の魚アマダイなどが揚がります。
そんな中、新潟ではまだ“見慣れない魚”があがりました。

【ななみ社長 井村洋人さん】
「エソですエソ。未利用魚。近年すごい勢いで増えていますね」

爬虫類のような顔で細かい歯が並び、見かけはちょっとグロテスクな『エソ』。
小骨が多いうえに鮮度の落ちも早いため、いわゆる”未利用魚”として新潟県内では市場に出回りません。

「もともと新潟では食べられていなかったんですよね」
「本来すごく美味しい魚なんですが、新潟ではまったく馴染みのない魚で…。要は市場に出しても見向きもされないっていう魚です」

もともと、日本の南から台湾にかけての“海水温が高い海”に生息するエソですが、新潟でも2018年ごろからまとまって水揚げされるようになったそうです。

【ななみ社長 井村洋人さん】
「正直、邪魔な存在になるわけですよね、あと他の魚も傷んでしまったりとか…。例えば、のどぐろ10匹の中にエソが500kgとか1トンとか、そういう入り方をする未利用魚なんですよ」

エソは、西日本では高級かまぼこの原料として知られています。
この日は200kgのエソが水揚げされ、山口県の練り製品業者へ送られました。

一方で新潟では、エソはまだ使い道がない魚、やっかいもののような魚なのです。

「いまだに未利用魚なんだよね。それがまさかね…」
「本当にすごい人に出会ったなと思ってさ。あの人ならやるよ」

井村さんはこの日、1箱分(5kg)のエソを新潟県上越市に送りました。
“やっかいもの”を有効利用するプロジェクトのためです。

漁師の井村洋人さんが期待を寄せる”あの人”とは、新潟県柏崎市で障がい者の就労支援を行っている『With You』の小林俊介社長です。

【就労支援事業所 With You 小林俊介社長】
「水産の課題解決に就労支援が重なったってのは本当に偶然というか。でも、必然みたいなところもあるとは思うんですけど…。よくぞ、この話がうちに来たなとは思いますよね」

小林さんは私たちに、上越市の実家を案内してくれました。
エソを出汁の原料にできないか?という、スタートしたばかりのプロジェクトを、ここで進めているんだそうです。

「今はまだ試作段階なので、実家のキッチンとかガレージを使いながら、“ラボ”みたいな感じにして…」

その加工を障がい者に担ってもらい、就労支援につなげるのが狙いです。

「可能な限り安全に配慮して…。キッチンバサミを使い、包丁は全く使いません」

この日、新潟県柏崎市にある就労支援事業所『With You』から来た2人が「エソの加工」に挑戦しました。

まずはエソのうろこをはがし、ヒレと頭を切り落として、内臓を取り除いたら、下処理は完了です。

【加工に初挑戦…】
「最初は触ったことがなかったのでできなかったんですけど、やっていくうちにだんだんとやり方も分かってきて、進められるようになりました」

さばいたエソを250℃のオーブンで15分焼いた後、乾燥機で丸1日乾燥させます。
試行錯誤を4か月繰り返し、ようやく今のスタイルができたそうです。

そして、エソからつくった出汁!
― 味はどうなのでしょうか?

【記者レポート】
「香りメチャメチャ良いですね。おいしい!意外とあっさりで、上品ですね…」

エソ出汁の“おいしさ”は、データからも明らかです。

新潟県水産海洋研究所が調べたところ、エソの出汁はイワシと比べると酸味や苦味が少なく、トビウオにも似た「高級だし」として評価されました。
また、他の出汁と同じくらいの“うまみ成分”を含んでいることも分かったのです。

【就労支援事業所 With You 小林俊介社長】
「新しいことやるとかはすごく好きなので、本当に。ここ数年でこんなに大きい事業久しぶりなので、今はめちゃくちゃ楽しいですね」

そんな小林さんの原動力には、ある経験がありました。

「2010年に大きい交通事故で、元日に死にかけまして…」

それまで7回、交通事故を起こし生死をさまよったこともあると話す小林俊介さん。
若いころは「相当ヤンチャだった」と振り返ります。

【就労支援事業所 With You 小林俊介社長】
「それまであまり褒められた生き方してこなかったので…。それでも助かったとしたら、生き方を改めて何か世の中の役に立つことというか、命が喜ぶような生き方をしたいな、と」

そんなときに目についたのが、父親の生き方でした。
『就労支援』という言葉すらなかったおよそ40年前、父・勇一さんは既に“障がい者雇用”を進めていたのです。

「そこで初めて障害者みたいなことを何となく意識して…」
「あの頃身近だった人たちを今あまり見かけなくなって、これは何か『ここにやるべきことがある』のかもしれないなって…」

その後、父・勇一さんの会社から独立し、2015年には柏崎市で初となる“就労支援事業所”を立ち上げました。

「どこの会社でもいろんな人を活躍させていくみたいなのが当たり前になって、就労支援みたいなものがなくてもいいような地域社会になったらいいなと…」

現在、新潟県柏崎市で就労支援事業所を展開する息子・俊介さんの背中を、父・勇一さんはそっと押してくれています。

【父・小林勇一さん】
「僕にとってはうれしい限りでね。僕が当たり前にやってきたことを、先のことを考えて一生懸命やってくれているので、陰ながら応援していこうかなと思います」

【息子・小林俊介さん】
「きちんと仕組みを作ることができれば、他にも全くやったことないところでも展開していけるだろうと思っているので、そういった形で何か、就労支援とか障害者の働き方の“新しいモデル”になってくれたら嬉しいなって思いますね」

やっかいものだったエソと福祉分野とをかけあわせて誕生した“出汁”は、地域の課題を解決するモデルにもなりそうです。

小林さんによりますと、新潟県上越市で大人気のラーメン店など、いくつかの飲食店が「エソの出汁」を使いたい!と手をあげているということです。

未利用魚の“可能性”に、期待が膨らみます。

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