「人間ドック」未経験の30代に伝えたい 受けるべき項目と不要な検査

文春オンライン / 2018年12月15日 11時0分

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「明日は健診だから今日は飲めないんだ」

 同僚の誘いに、そんな返事をする人がいる。健診の直前だけいい子になったところで、急に健康体になるわけでもないし、もしそれで見た目に病気が隠れるならば、そのほうがよほど危ないというものだ。

「健診」は「症状がない」ことが前提

「ケンシン」と一口に言うが、文字にすると「健診」と「検診」の2種類があって、微妙に内容が異なる。

「健診」は「健康診断」の略で、何の症状もない状態から、全身のどこかに何らかの病気がないかどうか探し出す検査のこと。会社や自治体が行う定期健診や、人間ドックなどがこれにあたる。

 一方の「検診」は、特定の病気を見つけ出すために行う検査のこと。がん検診や骨粗しょう症検診(骨密度測定)などがある。

 いずれにしても、これらの検査は「症状がない」ということが前提。すでに何らかの症状があるなら、のんきに健診など受けていないで、保険証を持って病院に行くべきだ。

人間ドックは全額が自己負担

 さて、今回のテーマは「人間ドック」。そもそも人間ドックとは何なのか。

「労働安全衛生法で企業単位での実施が定められている健康診断とは違って、自由診療で行う健診のこと。全額が自己負担なので(一部を負担する企業もある)、基本メニューをベースに、自由にオプションを付けられるのが特徴。不安に思う病気があれば、そこを重点的に検査することができる半面、検査施設によって価格設定が異なるので、高級志向の施設だと10万円を超えていくところも珍しくありません」

 と語るのは、東京西徳洲会病院、健康管理センターの鈴木由美子医師。

 人間ドックのメニューは、施設によって若干の違いはあるものの、身体計測、生理(血圧、心電図、心拍数、眼底、眼圧、視力、聴力、呼吸機能)、エックス線(胸部、上部消化管)、腹部超音波、生化学(総蛋白、アルブミン、クレアチニン他)、血液学(赤血球、白血球、血小板他)、尿検査、便潜血検査といったところが基本だ。

 これに医師による問診が付くが、希望があれば胃カメラや大腸内視鏡検査、マンモグラフィ、子宮頸部細胞診、PSA(前立腺腫瘍マーカー)、ウイルス肝炎、睡眠時無呼吸症候群などの検査を加えることも可能だ。

「当センターの場合は日帰り検査が主流ですが、大腸内視鏡検査を希望される方は前日から検査食を摂る必要があるので、1泊2日で受けていただくこともあります」(鈴木医師)

 睡眠時無呼吸症候群を調べる場合は、まず簡易検査を自宅で行い、その結果精密検査が必要となると保険診療による1泊入院が必要となる。

 さてこの中で、本当に必要な検査と無理して受けなくてもいい検査がある、と言う声がある。

医師が勧める「ぜひ受けておくべき」項目

 鈴木医師は、次の項目は「ぜひ受けておくべき」と言う。

「20~30代の若い女性に子宮頸がんが増えていることから、この世代の女性は2~3年に一度、子宮頸がんの検査を受けておいたほうが安心です。また、女性は閉経前後から骨密度が急速に低下するので、過去に何度もダイエットを経験したことがある、あるいは骨折の既往がある女性は、骨密度検査を加えるといい。また、子育てや仕事、介護に忙しい30~50代の女性の乳がんも増加しているので、こちらの検査もお勧めしたい」

 一方で、受けるべきか否かを考えるのが「内視鏡検査」だ。九段坂病院副院長で消化器内科が専門の佐々部正孝医師は言う。

「胃カメラは、ピロリ菌が陽性の人は、たとえ菌を駆除した後でもがんのリスクは残るので毎年受けたい。逆に元々ピロリ菌が陰性で、一度検査して問題がなければ、2~3年に一度の検査でいいでしょう。ただし、60歳を過ぎると食道がんのリスクが高まるので、こちらは年に一度の検査が望ましい」

 一方の大腸内視鏡はどうか。佐々部医師が続ける。

「ポリープができやすい人なら毎年の検査が望まれますが、そうでなくて一度検査をして所見がなければ、3年に一度くらいが妥当です」

 ちなみに、よく話題になるバリウム検査について、佐々部医師は、

「胃カメラをやるならバリウムを飲む必要はない。バリウムだと食道の狭窄が見つけやすいという声もあるが、経験のある内視鏡医であれば胃カメラでわかります」

 結局は、内視鏡医のウデ次第、ということになってくるのだが……。

CT検査か、エックス線撮影か

 健康なのにCT検査やエックス線(レントゲン)撮影を受けることに不安を持つ人も少なくない。それで病気が見つかればいいが、何も異常がなければ、「ただ被ばくしただけ」ということになる。

「受診者のリスクに応じて判断する必要がありそうです」

 と語るのは、池袋大谷クリニック院長で呼吸器内科が専門の大谷義夫医師。米国での大規模臨床試験を元に解説してくれた。

「喫煙指数という数値があります。これは1日に吸うたばこの箱数に喫煙年数をかけた数字で“pack-years”という単位で示されます。この研究の結果からは、“55~74歳で30 pack-years以上”の人は肺がんの高リスク群とされ、低線量のCT検査を毎年受けることが勧められます。

 一方、この高リスク群に該当しない方は現在検証中です。最近の低線量CTでは被曝量がかなり減少していますが、40歳未満の若年者や40歳以上でも無症状で低リスクの非喫煙者に毎年CT検診をする必要はないと考えられ、さらに被ばく量の少ないエックス線撮影でいいでしょう」

眼圧に異常がないタイプの緑内障

「ぜひ眼底検査だけは受けてほしい。企業健診にはほぼ入っていないし、人間ドックでも基本メニューに入っていないこともある。受信前に確認して、もし基本メニューにない時にはオプションとして加えてほしい」

 と語るのは、二本松眼科病院の平松類医師。その理由を語る。

「失明原因の第1位が緑内障ですが、日本人の緑内障患者の9割が“正常眼圧緑内障”といって、眼圧に異常がないタイプの病気なのです。これを見つけるには眼底検査をするしかありません。以前は企業健診の基本メニューに入っていたのですが、“メタボ健診”を始めたときに、予算を捻出するために外されてしまった。これはきわめて憂慮すべき事態です」

 平松医師によると、オプションで眼底検査を加えても、支払う額はせいぜい数百円程度とのこと。受けておいて損はないだろう。

「たしかに“ドックに向いていない人”はいます」

 中には、「人間ドックは治療の必要のない段階の病気まで見つけ出してしまうので、必要以上に患者を不安にさせるだけ」との理由で、ドックの受診に否定的な意見を持つ医師もいる。いわゆる「人間ドック不要論」だ。

 これに対して、前出の鈴木医師は言う。

「たしかに“ドックに向いていない人”はいます。微細な異変に敏感に反応して、不眠に陥るような人は、ドックを受けることでストレスを生み出すことにもなりかねません。特に40代を過ぎて細かい検査をすれば、何らかの異常は出てくるものです。その中には、今すぐ治療をしなくてもいいタイプの“異常”もあるので……」

 一方で、「まったく気にしない人」もいるという。

「精密検査の必要を指摘されても、ほったらかしにしてしまう人がいるんです。これでは何のために人間ドックを受けたのかわからない……。『検査票の読み方がわからない』とか、『医師のコメントが難解』という理由があるようですが、そんな場合には健診施設の医師に説明してもらうサービスもあるので利用してほしい」(鈴木医師)

 安くない金額を払って、貴重な時間を費やし、決して快適とは言えない検査を受けて得た結果を無視するくらい馬鹿馬鹿しい話もないと思うのだが、どの医師に聞いてもこの手の人は一定数いるというから不思議だ。

複数の医師でダブルチェックしている施設が安心

 最後に鈴木医師に、効率的な人間ドックの受け方を聞いた。

「健診専門の施設だと、治療で訪れている人と接触しないので感染の危険性は低いというメリットはあります。一方、病院併設型の健診施設の場合、病院に勤務する医師やスタッフとの連携ができるという利点があり、このあたりは一長一短です。ホームページなどで確認するなら、検査で得られた画像などを一人の医師が見るよりも、複数の医師でダブルチェックしている施設のほうが安心です。これは施設にとっても売りになるので、ダブルチェックを実践している施設なら、まずホームページにそれを記載するはずです。

 それから、一度受けたデータはその施設に保管されるので、次に受ける時に同じ施設で受けると、小さな変化も見つけやすくなります。つまり、あちこちの施設を転々とするよりも、一つの施設で受け続けることで、そこに自分の医療データを蓄積していくことが受診者にとって大きなメリットになるのです」

 繰り返すが、健診やドックは「見かけ上健康な人」が受ける検査であり、その時点では病人ではない。だからこそ、自分好みの施設を選ぶことができる。色々な情報を見比べて、一生付き合える検査施設と、本当に自分に必要な検査項目を選んでいただきたい。

(長田 昭二)

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