「老兵は去る」と65歳で引退 “選挙の神様”の引き際の美学

文春オンライン / 2019年1月10日 7時0分

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 “選挙の神様”と人望を集めた人物が1月に惜しまれつつ引退する。自民党本部の事務局長を長らく務めた裏方の重鎮、久米晃氏(64)だ。政治記者や官邸職員がデータを持ち寄り、久米氏に分析を請う姿は平河町の風物詩だった。ベテラン政治記者が語る。

「久米さんは国の統計数理研究所のスタッフたちと組んで選挙分析に統計学を持ち込み、年齢、性別、支持政党別のクロス集計を駆使する選挙戦術を編み出した。自動音声電話を使って有権者の投票動向を探る“オートコール”を導入したのも彼。複数の調査会社と契約し、世論調査をほぼ毎週行う徹底ぶりで、菅義偉官房長官も選挙の相談をするパートナーだった。昨今、何かあるたびに解散総選挙を唱える首相周辺にたびたび菅氏が異を唱えたのは、久米氏の助言あってのことだった」

 久米氏の名を最初に党内に知らしめたのは、1986年の中曽根政権による“死んだふり解散”だ。内々に調査を行い、衆参ダブル選挙を打てば空前の衆院300議席獲得だと予見、世間をアッと言わせる解散劇を演出した。

 一方で、麻生政権の2008年、解散に踏み切ろうとした麻生氏を「分析によると民主党が上回ります」と諫め、その後の政権交代を予言していたのは知る人ぞ知る逸話だ。

「老兵は去る。後進は育てたつもりだ」

 近年、力を増す官邸と党本部との乖離を憂えていた。首相周辺から、来たる参院選と憲法改正の国民投票を同時に行う案が浮上すると「野党が改憲阻止のため本気で統一候補を立ててくるから、参院選も勝てなくなる」と難じた。

 森友学園をめぐる財務省の文書改ざんが発覚した折には、「財務相の辞任はやむなし。総理の進退問題にもなりうる」と党内で苦言を呈したともいわれる。直言居士と官邸の距離はじわじわと離れたという。

 久米氏が現場視察する選挙は「必勝」といわれていた。陣営の支援に入るのみならず、選挙区の酒場に気さくに立ち寄り、庶民の声を聞くフィールドワークが決め手だった。

 そんな久米氏が最後に訪ねたのは、昨年9月の沖縄県知事選。翁長雄志前知事の弔い合戦の風を肌で感じ「安倍政権批判がすさまじい。ひっくり返すには時間が足りない」と与党系候補の敗北を早くから周囲に漏らしていた。

 満65歳の誕生日を機に引退を決めた。慰留されたが「老兵は去る。後進は育てたつもりだ」と首を縦に振らなかった。“安倍一強”をよしとせず、潔い引き際だった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年1月17日号)

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