“本業赤字”の都営バスで一番儲けているのはどの路線?――都営バス利益額トップ5

文春オンライン / 2019年1月24日 7時0分

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錦糸町駅南口のバス乗り場の様子

 首都・東京の市街地を縦横無尽に走る「都営バス」(東京都交通局自動車運送事業)。日本の公営バス事業者最大の1476台を保有し、1日約63万人を運ぶ。昨年12月25日からは2020年の東京オリンピックを見据え、日本で初めてのフルフラットバスの導入・運行も始まった。他にも燃料電池バスの導入やバスデジタルサイネージの設置を進める。こうした新しい施策が打てるあたり、景気がいい印象を受ける。実際に2017年度の「経常利益額」は約8億2千万円の黒字だった。

実は「都営バス」本業は赤字

 一方で、この黒字は補助金を始めとした「営業外収支」、つまり本業以外の利益も含めた数字だ。純粋にバスの運行だけで収支を見ると約6億3千万円の赤字になっている。年間の収入は約390億円だが、多くは人件費や燃料代をはじめとした運行費に消える。また、黒字の系統は47系統、赤字の系統は80系統と赤字の系統が多い。

 もちろん、公営事業のため、不採算を理由に赤字路線を廃止するというわけではないし、補助金も都民の足を確保するための赤字路線への補助や燃料電池バスやフルフラットバスといった新型バスの購入に使われているため不要なものではない。ただ、補助金に対しては世間の目が厳しいことも事実だ。そのため、都交通局は「東京都交通局経営計画2016」で、2023年には補助金を除いても黒字化することを目標にしている。実際ここ数年、急速に赤字を減らし、バスの運行単体での黒字化ももう少しのところまできている。

利益額トップ5は“都心”を走らない

 そんな都営バスを支える「稼ぎ頭」はどの系統なのだろうか。今回は利益額トップ5の路線をランキング形式で紹介し、特に稼いでいる1位の路線の秘密を探り、バス事業の利益のカラクリを探ってみた。

 先ほど黒字の路線は47系統と紹介したが、黒字の路線が稼ぐ利益額のうちトップ5路線で40%を占める。そんな5路線は殆どが山手線の内側の東京“都心”を走らないことが特徴だ。

 5位こそ、山手線の大塚駅前から錦糸町駅前を結ぶ「都02」系統で唯一山手線の内側を走るが、4位は西葛西駅と新小岩駅を結ぶ「新小21」系統。いきなり江戸川区の南北を結ぶ路線となる。3位は品川駅港南口から東京入国管理局を経由し、品川埠頭を循環する「品99」系統、2位は錦糸町駅から砂町銀座のある砂町エリアを経由し、門前仲町へ至る「都07」系統だ。

利益額1位の路線は……

 そして利益ランキングで1位なのが東京駅丸の内北口と錦糸町駅を結ぶ「東22」系統だ。年間で約3億6千万円の利益を上げ、黒字額全体でも約11%を占める。100円稼ぐのにかかる費用を示す「営業係数」では67。この路線は「収入」のランキングでも第4位に入っており、まさに「優等生」な路線と言える。

 この路線が「稼ぐ」のはなぜか。その秘密を探りに錦糸町駅からバスに乗ってみることにした。

 東22系統が発着する錦糸町駅南口に行くとひっきりなしにバスが発着するのに驚く。錦糸町駅を発着する都営バスの系統は北口が5系統、南口が15系統。東京駅・大塚駅・日暮里駅・南千住駅・お台場エリア・葛西駅など多様な方向に行くことができる。そして南口乗り場には利益1位の「東22」系統、同2位の「都07」系統、同7位の「錦25」系統が10分未満の間隔で特によくやってくる。中でも「東22」系統は昼間でも6分間隔。そしてどの便にも20人ほどの客が乗っていく。

 この人たちはどこへ向かうのか。筆者も東京駅丸の内北口行きのバスに乗ろうとした。しかし行き先が「東陽町駅」と出ているのだ。「アレ?」と思い、時刻表を見て驚いた。

 平日に錦糸町駅から出発する「東22」系統のバス208本のうち約7割にあたる145本が東京駅ではなく、錦糸町駅~東陽町駅の運行なのである。ちなみに錦糸町駅から東陽町駅までは四つ目通りを南へ向かい約3kmだ。非常に「近い」といえる。

 さて、こんな近距離でどこまで客は乗るのだろうか。実際にバスに乗って観察してみる。

 都営地下鉄新宿線の住吉駅を過ぎ、小名木川を越えると客の乗り降りが始まった。各バス停で2~4人が降りては3~4人乗るというペースで東陽町へ向かう。錦糸町も東陽町も大きな駅のため、どちらの駅の方向へも需要があるのだ。

錦糸町から乗った乗客たちはどこへ向かう?

 そうこうしているうちにまもなく東陽町につくな、と思い地図を見ると、2つの集客施設を見つけた。

 1つは江東区役所である。東陽町からも歩いていけるが、錦糸町方面からはこの「東22」系統を使うのが目の前にバス停があり便利だ。しかし、駅から歩ける区役所だけではなかなか集客インパクトに乏しい。するともう1つ、その西北に「東京イースト21」という複合施設がある。もしやここが集客施設か?と思って最寄りのバス停で降車ボタンを押す。しかし、降りたのは私1人だった。

 実はこの「東京イースト21」、鹿島建設が1992年に社有地に建てた複合施設で、オフィスビルを中心にホテル・レストラン・商業施設などが集まる。昼間はスーパーに買い物に来る人が自転車でやってくる程度で人影もまばらだ。一方で夕方になると、退勤の人が一斉に錦糸町方面へバスに乗ろうとする。30人ほどの長い列ができ、バスには人が乗りきれないシーンも見られる。

 この「東京イースト21」と「江東区役所」が「東22」系統沿線で人が多く集まる場所となるのだろう。一方で、本数の少ない東陽町駅から東京駅丸の内北口の間はガラガラなのだろうか? そう思いながら、今度は東京駅丸の内北口からバスに乗った。

東京駅ではガラガラのバス……集客のポイントは?

 じっさいに東京駅からはあまり人が乗っていない。空いたバスはそのまま日本橋口の北側を通り、呉服橋を通過する。しかし、次の日本橋で人が乗ってくる。高島屋日本橋店や日本橋三越本店をはじめとする商業施設やオフィスビルが集まる日本橋。そこから東陽町や錦糸町をつなぐ重要な路線としても機能していることをうかがわせる。

 さて、「東22」系統に多くの人が乗るのはわかった。しかし、 以前の記事 で触れたように 収入のランキング では「東22」は4位。収入の順位と利益の順位が一致せず、「東22」が利益を上げるのはなぜだろうか。ここには「東22」系統の特徴、錦糸町駅~東陽町駅の区間運転が多いことが大きく関わってくる。

なぜ「3km運行」が多いのか

 利益を上げるには「収入」も大切だが、「支出」も大切だ。せっかくバスが多く「収入」を挙げても「支出」が多いのでは意味がない。実際に収入トップの「王40」系統は支出が多く、利益ランキングでは5位以下(15位)だ。では支出を左右するものは何か。それは人件費と燃料費にある。当然だが、距離が長いほど運転時間は長くなり、人件費も燃料費もかさむ。また、1系統に必要なバスの台数が増えるほど人件費も燃料費もかさむ。

 一方、「東22」系統のような短い区間の運転が多い系統は必要な台数が絞られ、「支出」が減る。さらに、都営バスのように均一運賃の場合、短い距離で乗り降りする乗客が多く、始点と終点とで客の入れ替わりがあるほど効率よく運べる。特に「東22」系統の場合、錦糸町駅~東陽町駅間約3.0kmという短い区間の途中乗降で客が入れ替わる。こうして「稼ぐ」路線となっているのだ。

短距離が生み出す「好循環」

 また、短距離の路線であれば少ない台数で高頻度運転が可能だ。すると待たずに乗れるバス路線が生まれ、乗客も乗りやすくなり、乗客が増える。こうして利益が増える「好循環」が生まれ、より多くの利益が生まれるのである。

 もっと極端に「利益率」を見れば、短い路線かつ朝晩のラッシュにしか乗客がいない場合、ラッシュ時に集中的にバスを動かし、昼間や土休日はバス本数を絞れば利益率は上がる。このタイプに近いのが3位の「品99」系統で、全体的な本数は多いが、平日朝ラッシュ時間帯は1時間あたり22本、土曜日昼は1時間あたり5本と差が大きい。また、平日は昼間のバスの半数が東京入国管理局前で折り返す、短い距離の運行に絞っている。

運転士不足と高頻度運転のジレンマ

 一方で 以前の記事 でも指摘したようにバス業界は運転士不足が深刻化しており、高頻度運転もなかなか実現しづらいのが現状だ。民間バスでは低利益路線に振り分けているバス運転士を高利益路線に振り分けたいという視点から中山間地域での自動運転バス導入に期待する声がある。都営バスももっと稼げる路線あるいは稼げるか稼げないかの境界にも関わらず運転士不足で増発の機会損失をしている路線もあるのだろうと推測される。

 ここまで「稼ぐ」都営バスについて紹介してきた。そもそも東京は鉄道が発達し、鉄道の二次交通としてバスが発達している。今回紹介した「東22」系統も大きい2駅を結んでいるという要素が大きいことは先に述べた。そのため、東京圏には距離が短く客の多い「稼げる」系統も多い。

 都営バス以外の東京を走る民間事業者は系統別の収支は公開していないが、「本数」と「乗っている人数」、「距離」を見ると「あ、ここは稼いでいるのだろうな」とわかる路線がある。次にバスに乗るときはそういった視点で路線・系統を見ると違った発見があるかもしれない。

写真=鳴海行人

(鳴海 行人)

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