開城工業団地を再開したくてうずうず……骨抜きになりそうな「北朝鮮非核化」への韓国国内の反応

文春オンライン / 2019年2月22日 11時0分

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韓国国内での前回の米朝首脳会談の報道の様子 ©Getty Images

 シンガポールでの“ショー”から8カ月。

 2月27日、28日、ベトナム・ハノイで行われる予定の第2回米朝首脳会談を巡る動きが慌ただしくなってきた。米朝の関係者が続々現地入りし、金正恩労働党委員長の執事といわれる人物が会談とは関係のないサムスンのベトナム工場周辺を視察する姿などもキャッチされている。

 前回の会談の目玉は、「CVID」(完全な非核化)だったが、いつの間にかこの4文字は立ち消えて、最近、トランプ大統領は、「焦っていない。われわれはただ(核・ミサイル)実験を願わないだけ」(15日)と語り始めるなど、「核凍結や大陸間弾道ミサイル(ICBM)除去のみのスモールディールになるのではないか」という懸念も広まっている。

 こんな状況の中、韓国では保守・中道と進歩系メディアの論調はまっぷたつに分かれている。

韓保守紙「なくしたのは北朝鮮の核ではなく韓米合同演習」

 保守系の朝鮮日報は社説(18日)で、トランプ大統領の上記の発言を警戒し、「トランプは第1回首脳会談の直前に『北朝鮮の核兵器を早い時期になくさせる』と大言壮語したが、なくしたのは北朝鮮の核ではなく韓米合同演習だった」と皮肉り、トランプ米大統領は、「(米国に脅威とならない)核実験のみを防いで、大統領選挙用にこの成果をどう誇張するかにだけ執心している。このままでは北朝鮮は本当に核保有国になる」と警鐘を鳴らした。

 中道寄りの中央日報は、「制裁緩和の対価としていい結果を得るのがわれわれの意図するところ」というポンペオ国務長官の言葉を引き、性急な制裁緩和を警告してきたビーガン米対北特別代表ですら柔軟な態度に変わったとして、「北朝鮮が主張してきた段階的な非核化を事実上、米国政府も受け入れた」と書いた。さらに、「第2回米朝首脳会談を前に韓国政府の性急な対北制裁緩和を心配し警戒する声が大きくなっている」(同日)と南北交流に前のめりになっている韓国政府を牽制した。

文大統領からはすでに対北制裁緩和をにらんだ発言が

 文在寅大統領は、「第2回米朝首脳会談で非核化と米朝正常化において大きな進展があると展望している」(東亜日報2月19日)「南北間の経済協力が始まるならまずすぐにできる金剛山観光」(同)などと語り、トランプ米大統領との電話会談では、「米国が要求すれば南北経済協力を担う覚悟はある」(中央日報2月20日)とすでに制裁緩和をにらんだ発言もしている。この翌日には、青瓦台も、「今までは制裁緩和を韓国が米国に要請する格好だったが、今は文大統領がトランプ大統領が使えるカードを増やせるという意味」(朝鮮日報2月21日)と補足も加えていた。

 中道寄りの韓国紙記者は言う。

「韓国政府は開城工業団地や金剛山観光を再開したくてうずうずしています。

 南北交流はいいですが、忘れてならないのは韓国は北朝鮮の核を隣に置いている状況にあるということ。北朝鮮を核保有国として認めることは絶対にあってはならない。

 トランプ大統領は米国に届くICBMを破棄さえすれば、米国への脅威さえなくなればそれでいいと思っている節がありますが、短・中距離ミサイルは日本、韓国を巻き込みます。日本だってだまっていないでしょう。そうなれば、ただでさえ、今、党代表選挙をしている最大野党の自由韓国党の有力候補者は核武装論を唱えていますから、韓国内でも核開発の声が強くなるのは必至です。

 進歩系は同胞には核は使わないと楽観しながら、南北交流は別に早く進めようと声を上げていますが、拙速です。

 もちろん、トランプ大統領の決断だけで制裁解除がなされるわけではありませんが、韓国政府も非核化については厳格にのぞむべきです」

韓進歩系紙は北『労働新聞』のとある記事に注目

 一方、進歩系のハンギョレ新聞や京郷新聞はトランプ大統領やビーガン対北特別代表の発言よりも北朝鮮の『労働新聞』のとある記事に注目した。

 ハンギョレ新聞は、「注目に値する労働新聞『金正恩非核化の決断』報道」という社説(18日)で、「労働新聞がこれほど金委員長の非核化の決断の意味を詳細に解説し分析するのは初めてのことだ」として、「朝米いずれも決然たる姿勢で交渉に臨み、『非核化と相応処置(対北制裁緩和)交換』のもっともよい組み合わせをひきだすことを望む」と北朝鮮の非核化の意志は固いと評した。

 また、京郷新聞も同じ記事を非核化の意志を表したものだとして、「北朝鮮の非核化をこれ以上、疑うなと北朝鮮住民と国際社会に宣言したようなもの」と綴り、「米国など国際社会は北朝鮮が送る非核化の意志とサインを評価する必要がある」としている。

「朝鮮半島非核化」の本当の意味は?

 両紙が注目した記事のタイトルは、「金正恩将軍、平和の新しい歴史を書く」。なかで非核化の決断をアレキサンドロス大王の伝説の一つ、「ゴルディアスの結び目」に例えている。「ゴルディアスの結び目」とは、アレキサンドロス大王が解けない結び目を刀で断ち切ったことから、難問を大胆な方法で解決するという比喩だが、問題は同記事が「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」について論じていることだ。

 2016年に韓国に亡命した太永浩・駐英北朝鮮元公使は、「北朝鮮が追求する『朝鮮半島の非核化』は、朝鮮半島はもちろんその周辺すべて核の脅威とされる要因を排除することである」と解説する。つまり、先の記事でいう「非核化」は駐韓米軍撤収をも意味していることになる。

記事のメッセージは「仇を跪かせているので心配することはない」

 太元公使は19日、ソウルの外国人記者クラブで記者会見を行い、「北朝鮮は第2のパキスタンを狙っている」として、「第2回米朝首脳会談では、北朝鮮が保有している核、計画している(未来の)核すべてを放棄することとNPTとIAEAに復帰することを明言させなければならない」と訴えた。

 太元公使はまた、「金委員長の非核化の意志が固い」とした先の記事については、「南北関係、米朝関係において新しい変化が起きていることは北朝鮮が核を保有することにより力のバランスがとれたためであり、金正恩は強力な平和攻勢で仇(かたき)を跪(ひざまず)かせているので心配することはないという内容」と分析している。

隠される当初の目標「完全な非核化」

 さまざまな展望が飛び交うが、2020年の大統領選挙再選に向けて功を急ぐトランプ米大統領は北朝鮮に連絡所を設けるなどのにんじんをぶら下げ始めており、やはり懸念されるようなスモールディールを選択することになるのか。また、一方の金正恩党委員長は寧辺核施設査察や破棄以外にどんなサプライズを見せるのか。いずれにしても核放棄の目眩まし、だが……。

 それにしても、非核化がなされていない時点でのノーベル平和賞話って一体、なんの話なのだろう?

(菅野 朋子)

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