“振り切った女優”山口紗弥加「佐野史郎さんは私の中に“冬彦”を見たのかも……」

文春オンライン / 2019年2月23日 11時0分

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女優・山口紗弥加さん

 心理サスペンスドラマ『絶対正義』(東海テレビ・フジテレビ系)で正義のモンスター役を演じる山口紗弥加さん。

 前クールの『ブラックスキャンダル』では芸能界を追放され復讐に燃える元女優を演じ、2作連続で「狂気の役」を演じている。そんな山口さんを俳優の佐野史郎さんが「振り切った演技がスゴい」と絶賛しているという。エキセントリックな役柄が続く山口さんにその心中を聞いた。(全3回の2回目  #1 、 #2 も公開中)

◆◆◆

松井玲奈ちゃんを本当に嫌いになってしまいそうで

――『ブラックスキャンダル』で初めて主演をやってみて、どうでしたか。不倫スキャンダルで芸能界を追われた元女優という役でした。

山口 それはもう、大変でした。復讐のお話ですからね。過去に経験がないくらい濃密な2ヶ月を過ごした結果、精神的に参ってしまって。ドラマの中の話とはいえ、松井玲奈ちゃんを本当に嫌いになってしまいそうで……大変、危険な状態でした(笑)。

――松井玲奈さんは復讐における最大の理解者という役どころでしたが、途中で裏切られ、それがどんどんひどくなって……。ふたりで取っ組み合いをするシーンもありましたね。

山口 取っ組み合いは2人とも本気でやりましたよ。ほぼ生音だと聞いています。その辺りからですね、撮影中の移動車の中で、意味もなく涙したり、気分の浮き沈みが激しくて。でも、初めから『ブラックスキャンダル』は芸能界の暗部の物語で、私自身もドキュメンタリーを撮ってもらう覚悟でいたので(笑)、地獄に突き落とされる準備はできていたつもり。どこか楽しんでいたような節もあるんですけど、撮影が終わってみたら、やはり、抜け殻でした。

――見ている方も力が入りっぱなしで、最後まで何が起こるか分からないのでずっと目が離せませんでした。

山口 私は廃人になりました(笑)。次の仕事もあるのに、心が動かない、身体も動かない。一度すべてを洗い流したい。だから滝行に行こうと思ったんです。でも、日本の冬の滝行って苦行ですよね。

 耐えるんじゃなくて、解放したい。癒されたい。新しいものを吸収したい。TSUTAYAに飛び込んで、旅行、写真集のコーナーを片っ端から見て。そこでバリ・ヒンドゥー教の浄化の儀式「ムルカット」を知りました。あっ、これだと。黒魔術すら洗い流してしまうと言われている沐浴、生まれ変わりの儀式とも言われているんです。お休みをもらっていたので、すぐにバリに飛んでしっかり浄化の儀式を受けてから、東南アジアを北上するように周りました。

バリの滝行で生まれ変わりました

――どのぐらい行かれていたんですか。それこそ『ブラックスキャンダル』と『絶対正義』の間ですよね。

山口 2週間ぐらいですね。冗談抜きで「這うようにして」行ったんですが、大正解。そのムルカットを受けたのがバリの中部、ウブドという場所で、人がとても優しくて、土地の空気感もとっても穏やかで。緑の中、暖かい、柔らかい日射しを浴びながら、滝行を受けるんですね。

――望んでいたものですね。すべてを洗い流す。滝の勢いはどのくらいの……。

山口 首がもげるんじゃないかというほどの勢いがあるんですよ。私は立っているのもやっとみたいな感じでしたね。

 ムルカットにはものすごい行列ができていて。でも、誰も何の文句も言わずに、1人が20、30分滝に打たれていようが構わず、ただ静かに待つ。寛容なんですね。それもまた素敵だなあと思って。私は5分ぐらい受けてたのかな。同行してくれたガイドさんが、身体に汚れが溜まっている状態だと、流れた水が白く濁ったまま。それが透明になったら、汚れが抜けた合図だから、教えるねって言ってくれて。ずっと合図を待ってたんですけど。待ちきれなくて出ようとすると、ダメ、ダメ、ダメ、まだ濁ってる!と言うんですよね。

 それが5分くらい。わりと長いほうだったので、それだけ、いろんなものを溜め込んでいたんだということがわかって。

――そこで生まれ変わりましたか。

山口 そう、もう一度、生まれてきました。本当に、嘘みたいに体中からエネルギーが湧いてくるのがわかるんですよ。そして、心が幸福感で満ちていく……。

 日本に帰ってきたら、やる気満々、完全復活!そんな旅でした。

――そして『絶対正義』で2クール連続での主演です。「キャリア25年、主演なし」から2クール連続主演。『絶対正義』が決まったときはどう思いました?

山口 ……全然うれしくなかった(笑)。

佐野史郎さんがほめてくださったなんて、到底信じられない

――え、うれしくなかったんですか。山口さんが「奇跡だと思った」と紹介している記事もありました。

山口 現実のこととして受け止めきれなかった(笑)。あり得ないと思って。無理だって言いましたもん、私、できないって。夢でもこんなに都合よく物事は進まないだろうと。

――さすがに2本連続主演がくるとは思って……。

山口 まったく、まったく。私も含め、誰も予想だにしなかったと思いますよ。しかも『ブラックスキャンダル』で、主演がどれだけ大変かを思い知ったあとだから、これはちょっと無理だと思ったんですけど。一方で、せっかく期待をかけてくださる方がいらっしゃるのならお応えしたい、というのもあって。原作も脚本もとても興味深かったから。

――スタッフの方に聞いたんですけど、佐野史郎さんが山口さんの演技をすごく評価していらっしゃると。

山口 全然そういうふうに見えないんですけど……ご本人と直接お会いしても、変わらず普通ですよ。『SICK’S』(Paravi)の現場でもそうです。私が監督に演出されたことを一生懸命に演じていたら、少し離れたところからこちらを見て、冷めた目で、うっすら笑みを浮かべていらっしゃる。だから、「何ですか」「ダメ出しですか?」って聞いたんです。そしたら、「いや。頑張ってるなと思って」って。私のことを小馬鹿にするんですよ(笑)。だから、「はい、頑張ってますが、何か?」って、そういうやりとりはありましたが……佐野さんがほめてくださったなんて、到底信じられない。

――佐野さんは「山口さんの振り切った演技がスゴい」と言っているそうです。

山口 嘘だー。ないです。それは誰かの作り話だと思います(笑)。

もしかして、私の中に、冬彦を、見た……?

――『ブラックスキャンダル』でも『絶対正義』でも演じているのは“狂気の役”じゃないですか。佐野さんも「冬彦さん」とか狂気を感じさせる役が印象的で……。

山口 もしかして、私の中に、冬彦を、見た……?? ええっ、やだ。あんな怖い、あんな振り切った演技はできないです。私の中にあんなに激しいものはありません(笑)。

――でも『絶対正義』では山口さん演じる範子の狂気にドキドキして。「怖いもの見たさ」で次の週を早く見たくなります。

山口 それはうれしいことです。人と同じことをしてたって私は生きない、生かせない。ということを教えてくれたのが、今のマネージャーです。ほんとに猟奇的な役ばっかり引き受けてくるんですよ(笑)。でも、そういう役の方が、血が騒ぐ。勝手に身体が動いていく。

――やっぱり佐野さんの血を少し感じます。

山口 アハハハ。やっと私が生きる場所を見つけられたというか。楽しいです。自分で言うのもなんですが、生き生きしてる。やっぱり人は人に生かされているんだなと思って。自分では気づけない新たな自分を発見した喜びはすごくありましたね。

――ちょっと話は変わるんですけど、SNSで不謹慎狩りみたいなことがあって、たとえばタレントさんが地震や大雨の日に、たまたま投稿が重なっちゃって「不謹慎だ」みたいな。そういう時代の空気があるから『絶対正義』のように正義のモンスターが出てくるドラマが面白いと思うのですが、そういえば山口さんってSNSは?

山口 やってません。

――公式アカウントないですよね。なぜでしょう。

山口 私は作品を見ていただきたくて。演じる役に、悪影響をもたらしたくない、というのが一番かも。何の先入観もなく、私が演じる人間を見てもらいたい、その思いです。

――それ以外のことを発信する必要はない。

山口 私自身はそう考えてます。でも、それについてもいろんな人がいて、いろんな意見があっていいと思うんですよね。だから、私が演じる範子の度を超えた正義も一つの正義として受け止めてもらえたらいいなと思って。

 多様性が求められている社会の中で、多様性を求めているくせに不寛容だな、と思うことも多々あって。もちろん人を殺めたり、誰かを無闇に攻撃したり、傷つけたりということはよくないことだけど。エンターテインメントとして愉しんでいただきつつ、どうやったらこの一つの社会で共存共生できるかということ、多様性、寛容についても思いを馳せていただけたら……『絶対正義』がそんな力強い作品になれたらいいなと願い、祈るような気持ちでいます。


写真=榎本麻美/文藝春秋


#1 女優・山口紗弥加が明かす「『連ドラ60本も主演なし』の私を支えた社長のメール」
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#2 25年目で初主演 山口紗弥加「蜷川幸雄さんの『女優やめんなよ』が転機だった」
https://bunshun.jp/articles/-/10849

やまぐち・さやか 1980年2月14日、福岡県生まれ。1994年『若者のすべて』で女優デビュー。多くの映画やドラマ、バラエティ、舞台などで活躍。代表作に連続ドラマ『ようこそ、わが家へ』『コウノドリ』『モンテ・クリスト伯』など。昨年『ブラックスキャンダル』で連ドラ初主演を果たし、『絶対正義』で2クール連続の主演を演じている

INFORMATION

オトナの土ドラ『絶対正義』

毎週土曜日 23時40分~24時35分
(東海テレビ・フジテレビ系)

「私、間違ったこと言ってる?」――正義のモンスター・範子が周囲の人々を翻弄し、運命を狂わせていく恐怖を描く、衝撃の心理サスペンス。

出演 山口紗弥加 美村里江 片瀬那奈 桜井ユキ 田中みな実 ほか

(「文春オンライン」編集部)

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